忠義なき戦い

 通常のネメシスよりも一回り小さいユニバースイグナイターだが、それでもたった一機だけ発艦すれば目立つ。

 

「……すまねぇ、恨んでくれよ…………!」


 そして、トウマはハイパードライブを始動させた。

 ハイパードライブの時間は一瞬。ティファお手製のOSが計算した時間通りにハイパードライブを終える。

 そこに広がるのは、敵軍のど真ん中の光景。

 ティウス王国の動きを少しでも理解するために通信の傍受を開始すると同時に、ユニバースイグナイターをネメシス形態に変形させ、銃口を近くにいたブレイクイーグルに突き付ける。

 

『なっ!? て、敵しゅ――』


 そして、そのブレイクイーグルのコクピットをエネルギーライフルで撃ち抜いた。

 もう、引き返せない。

 

「イグナイトシステム、ブーストアップ……!!」


 更にイグナイトシステムを使用。光を纏い、高速でティウス王国軍の中を飛び回りながら相手が反応する前にエネルギーライフルの照準を合わせてコクピットやバックパックを撃ち、敵を無力化していく。

 

『敵襲だ! たった一機で飛び込んできやがった!』

『敵は一機だ、撃ち落とせ!』

『アルファ部隊、全機あの小型ネメシスに照準を合わせろ! 誤射だけはするなよ!!』

『なんであの傭兵がこっちの敵に回る!? 奴はハインリッヒ家の子飼いじゃなかったのか!?』

『それよりも正面、アイゼン公国軍に動きがある! 後ろに構う前に前を見ろ!』

『ふざけるな! アイツを相手に後ろを向いたら、あ、うわあああ!!?』


 予想通りと言うべきか。ティウス王国軍の機兵部隊の中央は一瞬で混乱した。

 通常なら単騎で突っ込んできた馬鹿は即座に蜂の巣にされ、数十秒もあれば態勢は立て直されるのだが、その突っ込んできた馬鹿の腕が問題だ。

 イグナイトシステムによりマシンガン程度の実弾兵器は全て弾かれ、エネルギーマシンガンの弾も自軍に対する誤射を恐れてしまったが故に思うように放てず、今なら誤射しないと確信した時にしか撃てないがためにユニバースイグナイターに致命打を与えられない。

 中にはトウマの事を知っている兵士もいたのだが、そういう兵士は何とかトウマを排除しようと躍起になり弾をバラまくが、そのせいで誤射が起こり、陣営内での混乱が加速していく。

 

「くそっ、気分が悪い……! こんなに気分が乗らない戦闘なんて……!!」


 セパレートウィング弐式も使って敵陣をかく乱しながら、なるべく他の機体を盾にするように動いて戦う。

 既に落とした数は10を超えた。セパレートウィング弐式の装弾数はそれぞれ最大8発。既に3発は撃ったため、残りは5発。二基合わせて合計10発。

 それを撃ちきる前には一度推進剤の補給のため腰部に戻さねばならないが、その分だけ推進剤は失われていく。

 そうしてかく乱している間にどうやらアイゼン公国軍による攻撃も始まったらしく、トウマの周囲の機体はトウマへの誤射なんて一切気にしない攻撃により次々と撃破されていき、味方の一部が壊滅したという報告により末端の兵士たちの士気は次々と落ちていく。

 最悪の悪循環。それがティウス王国軍内で起こってしまっていた。

 自ら世話になった国の兵士を殺していく。あまりにも後味が悪い。

 頼むから早く終わってくれ、と願いながらも必死に操縦桿を動かして敵をかく乱しながら、倒せる機体は倒していく。


「撃墜スコアは、30……! セパレートは弾切れ、推進剤は残り半分……!」


 無茶な軌道に加え、途中途中でスタンドマニューバも挟んで曲芸的な動きによってかく乱を行っているため、推進剤は想定よりも早く減っていく。

 少なくとも撃墜スコア100はこのままでは無理だ。

 とっとと推進剤を使って帰還しよう。

 ティウス王国の機兵達をあまり殺したくないが故に思考が徐々にそちらの方に偏っていく。

 その条件を出したのはアブファルだ。だから。

 

『いい加減、止まれってのぉ!!』


 ――通信で、聞き覚えのある声が聞こえた。

 それと同時、直上から嫌な予感がする。

 

「上か!!」


 その場でスタンドマニューバ。慣性を一気に殺して逆走する。

 無茶な動きをするユニバースイグナイターに、直上からの攻撃を仕掛けたその機体は食らいつき、ドッグファイトへと移行する。

 敵は、既にイグナイトシステムを切った白いイグナイター。

 

「ギャラクシーイグナイター! サラか!!」

『正解! あんたが随分と腑抜けた戦い方をするもんだからお仕置きしに来てやったわよ!』

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