ココノエ神聖国
ココノエ神聖国温泉体験
ココノエ神聖国。この国は銀河の中でも比較的珍しい宗教国家だ。
この国の人間の八割は国名ともなっているココノエ教の信者であり、信者たちはこのハイテクな世の中でなるべくローテクな生活をすることを至上としている。
無理はしない程度にテクノロジーを使いつつ、しかしなるべくテクノロジーに頼らない。
そんな事を掲げている国なのだが。
「うーん、俺からするとまだまだハイテクだな」
「これで?」
「これで。宇宙未進出の星ナメんな」
基本的に建物はコンクリートや鉄筋。更に車はもちろんAI搭載。現代日本を更に近未来化したらこんな感じ、みたいな光景がトウマの目の前には広がっていた。
ここはココノエ神聖国のとあるコロニー。
比較的都会よりの星ではあるが、ココノエ神聖国はその特性上、他の国からしてみればこの星も田舎にしか見えない。
ティファとサラからしてみれば、大分田舎な場所だなー、という感覚だ。
しかし、トウマからしてみれば十分ハイテクだ。
「俺の知っている田舎は一面田んぼで家や建物なんて数分歩かなきゃ存在しないし山や森に囲まれている」
『未開惑星?』
「お前らからすりゃそうだろうな」
とはいえ、だ。
数千年先の未来で既にトウマも年単位で暮らしている。
確かにこの光景が田舎だと言う感覚も多少なりともわかる。
さて、そんな国に訪れた理由だが、理由としては一つ。
「にしても、ティファがココノエ神聖国を旅行先に選ぶなんて意外ね? てっきりまたリゾートコロニーかと思ったんだけど。ロール辺りと一緒に」
「それはまた今度ね。今回はトウマからの希望よ」
「え? そうなの?」
「実はな。いや、久しぶりに温泉入りたいなーと思って調べてたらここの事を見つけてな。で、折角旅行に行くんなら温泉入りてーなーって思ったわけ」
そう、ここ1年半働きづめだったが故の、久しぶりの休暇目的だ。今回は4日、ココノエで休暇を取る事にしている。
ココノエ神聖国はわざと国全体を田舎にしているという点も特徴だが、もう一点特徴がある。
それは、国全体が和風なテイストとなっている事だ。
SF要素を取り入れた和風と言うべきか。この時代的にはココノエ風と言うらしいが、そのココノエ風の文化は日本の文化によく似ている。
それこそ、温泉なんかはその最たる例だろう。
「へー。ちなみに、温泉ってそんなにいいの? わたし入った事ないんだけど」
「あたしも無い。貴族生活だったからそもそも行く暇なんてなかったし」
「そうなのか? サラは貴族だったし、偶の贅沢で行っててもおかしくないって思ってたんだが」
「貴族だからよ。リゾートコロニーは貴族向けの海水浴場とかあるけど、ココノエ神聖国にはそう言うの無いのよ。で、旅館を貸切るわけにもいかないし、ただ風呂に入るために旅館一個貸切るのもコスパ悪いしってなるわけ」
「なるほどな。まぁ、アレだ。ハインリッヒ家の大浴場みたいなもんだよ、温泉ってのは」
「ふーん」
地球において風呂の文化が強く根付いているのが日本を除くと他数国程度だけだったように、この銀河においても風呂の文化が強く根付いているのは、ココノエ神聖国を含めてその他数国程度だ。
一応、風呂の文化が強く根付いていない国にも風呂そのものはあるが、やはり大浴場というものはあまり存在しない。プールや海水浴場ならあるのだが。
「まぁ、偶にはお風呂入ってゆっくりだらだらするのもいいわよね。無意識に働きすぎてたわけだし」
「そーね。それに、ココノエ神聖国はご飯も美味しいらしいからそれも楽しみ」
「ほー。こりゃ和食も期待していい感じかな?」
そんな事を駄弁りながら三人は予約した旅館へ。なんと温泉は近くの星で掘った物をわざわざここまで運んでくるという贅沢な事をしているものらしい。
そこまでやっている温泉はもちろんの事、食事まで質がかなり高い高級旅館である。金はあるのだから使わなければ損だ。
船を降りてレンタカーを借り、自動運転で目的地へ。
比較的珍しい自然を眺め、時折下車して休憩しながらを繰り返して数時間ほど。車に乗りながら寝落ちした三人を車に備えられたアラームがたたき起こし、ようやく三人は目的地である旅館に着いた事を理解した。
「ふぁぁぁ……いつの間にか着いてたわね……」
「にしても3人で寝るなんて……やっぱ疲れてたのかしらね……」
「俺ぁ全員寝てたのに気が付いてマジでヒヤッとしたよ……いや、ほんと自動運転万歳」
「ん? どーして?」
「人が運転する。運転手寝る。車はどこに行くでしょうか」
「前時代的な悩みね……」
自動運転の普及により、意図的な事故ならまだしも普通に運転する分には事故率0%になったこの時代において、居眠り運転による事故など最早前時代的な悩みだ。
そんな事を気にするトウマの事を変な人を見る目で見るティファとサラの方が反応としては正しい。
とにもかくにも、旅館に車は着いたので、とっとと車から降りて旅館の中へ向かい、とっととチェックインをする。
「お待ちしておりました。ローレンス様、カサヴェデス様、ユウキ様ですね。お部屋はもう用意できておりますので、ご案内します」
「よろしく」
今回も予約を取ったのはティファであり、従業員への対応をするのはサラである。
トウマは明らかに日本で泊まった事がある旅館とのグレードの違いのせいか周りをきょろきょろしていて話にならないし、ティファはティファでこういう時はポンコツなので、こういう時はサラにお任せである。
そうして案内された部屋は和風……なペイントや装飾が施された大部屋だった。畳などは無いが床はフローリングではなくしっかりとした木製っぽい感じになっており、雰囲気は出ている。
中央に部屋があり、左右にはそれぞれ2人ずつは寝れる寝室が一つずつ。そして縁側もある。
やはりと言うべきか、かなり豪勢な部屋だ。
「それでは、お食事の方は時間になりましたら地下の菊の間へとお越しください。それと、お風呂の方は基本的に1日中入る事はできますが、深夜に1時間ほど清掃の時間を設けております。その際は入れませんので、お気を付けください」
「分かったわ、ありがと。それと端末ちょっと出してもらえる?」
食事は基本的に夕食を食べる時間帯であれば食事可能、風呂はほぼ1日中入れる、と言った感じであった。
入浴可能時間の割に清掃の時間が短いとトウマは思ったが、ここの温泉はもちろん清掃は全自動なので、清掃は早く終わる上にピッカピカになるのである。
サラがチップを払い終えると、案内してくれた従業員はニコニコ笑顔で去っていった。
和風テイストなのにチップの概念がある事に若干違和感を覚えるトウマであったが、ここは和風っぽく見えるだけで本来はココノエ風。日本とは違う文化があって当たり前なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます