スカウト失敗

 船の雑用はスクランブルの可能性や整備の時間を考えると、第三者に任せてしまった方がお得となる。

 そう考えると、もう1人くらいは雑用係として船に居てほしい。

 その点、ロールなら安心だ。何せ彼女はティファが幼い頃からの付き合いだ。信用もできる。

 

「……ちなみに月給ってどれくらい?」

「ん-っと、今トウマに2割、サラに3割、わたしが5割って感じだから……」

「トウマさんが一番低いんだね……」

「いや、流石に3割あげるって言ってんのよ? 言ってんだけど、本人が要らんって言うのよ」


 当初は無給お小遣い制だったトウマだが、流石に今の働きを見るとそうとも言ってられないので、報酬を分配する形でトウマにも払っている。

 しかし、トウマはそれでも要らないというのだ。

 1度しれっと3割渡したら1割無理矢理戻されたし。その時は取っ組み合いまでに発展した。

 なんで給料増額された側が減額を求めているのか。これが分からない。

 

「まぁ、ロールは流石に1割かしらね? わたしの所に入っている5から1を渡す感じで」

「えー? 少なくない?」

「1割でもこの間のテラフォーミングの依頼なら500万を余裕で超えるわよ」

「えっ、じゃあその時ってもしかして1億くらい稼いだの……?」

「んー……生々しいからあまり言いたくないけど、諸々込みで3億とかは軽く……」

「ひぃー……」


 3億の1割。つまり3000万。

 それがこの間のテラフォーミングにロールが参加していた場合の給料だった。

 何せ宙賊の基地を単独制圧に近い事をした上にテラフォーミングの際は追加報酬も込み込みにしてもらったのだ。

 それでも他の傭兵を雇ったときよりはかなり親切な額だろう。

 普通の傭兵があんなワンオペに近い事を2週間もさせられたら確実に倍の額は取られている。

 金にあまり横着しないが金で動く3人だったからこその額だ。

 

「キングズヴェーリの時は大体10億ちょっとだったかしら? そう思うと最近ぼろ儲けしてるわね」

「ティファちゃんが遠い人に感じる日がくるなんて……」

「まぁ、ここまで儲けてる傭兵は多分そういないしね?」


 いつの間にか仕事モードが完全にオフになっているロールは遠い目をしている。

 しかも、ティファの資産はこの他にもV.O.O.S.Tの特許とシヴァの特許もがある。

 もしもシヴァの理論が理解され、そして軍などでの運用が開始されたら、ティファの手元にはとんでもない量の特許料が入ってくることになるだろう。

 そうなったらもう働かなくても金が入ってくる状態になる。

 

「でも、ロールを入れるとなると、アレね。トウマと一つ屋根の下だけど大丈夫?」

「あー……うーん……そっかぁ。男性と一緒に住むことになるのかぁ……」

「わたしとサラは何かあっても殴って制圧したらいいや精神だったし、3人してなんか慣れちゃったからそういう系の話は一切ないけど、ロールは流石に抵抗ありそうだし、そこが問題ね」


 当初、ティファとトウマの2人暮らしだった時も2人は相棒って感じが強すぎて異性として意識した事なんて殆どなかったし、サラが混ざってきたときも、比較的早めにトウマとサラが友人関係になったこと上になし崩しに同居が始まり、そのままズルズルと引きずったためかもう慣れてしまった。

 ラブコメにありそうなピンク色の話も一切なかったし。寧ろそういう話はレイトの方に行ってしまっているし。

 しかし、ロール的には急に好きでもない男との共同生活が始まるという、なんとも言えない状況にぶち込まれるわけだ。


「うーん……やっぱり私はいいかなぁ。リゾートコロニーの件も別に大丈夫だよ。私だってそこまでされないと許さないくらい怒ってたわけじゃないし」

「そう? 別にそんぐらい奢るのに」

「いやいや、500万は流石にこっちが委縮しちゃうからね、ティファちゃん」


 会話の流れからトウマが居るからロールが断ったと思われるかもしれないが、それはあくまでも小さな要因だ。

 流石にこのままついて行ったら本当に500万のリゾートコロニー代を奢ってもらいそうになってしまっている流れに恐怖したこと。

 そして何よりも。

 

「私はドンパチするよりもこうやってコロニーの片隅でお役所仕事している方が好きだからね」


 船を持ち、依頼を受け銀河をあっちこっちへ移動する傭兵業というのはどうしても命の危険が付き纏う。

 ティファ達だって今は上手くやれているが、いつ不慮の事故で三人纏めてお陀仏になったっておかしくない。

 ロールだってティファ達が過去どれだけ危険な橋を渡ってきたかなんてよく理解している。

 たった1年でよくもまぁここまで事件に巻き込まれるもんだと感心したくらいだ。

 ロールには、その渦中へ飛び込む気概がなかった。

 

「……そう。なら、無理強いはできないわね」

「誘ってもらったのにごめんね?」

「別にいいわよ。ロールがこういう荒事苦手なのは分かってたし」


 それより、とティファは言葉を続ける。

 

「さっきから完全にオフモードだけど、大丈夫?」

「あっ……えっと、こ、こほん。とりあえず、今後はトウマさんをちゃんと連れてきてくださいね、ティファさん。今回のようなことが何度も続くとティファさんの元からトウマさんを一時的に連れ出して国の方で経過を観察することになりますから」

「はいはい。以後気を付けるわ」


 どうやらオフモードに入っていた自覚があまりなかったらしい。

 こういう抜けている所も可愛いのに、どうしていい男を引っかけられないんだか、とティファは溜め息を吐く。

 この幼馴染はオンオフのギャップやら顔の良さやら性格の良さやらで男を捕まえていてもいいはずなのに。

 いや、寧ろオフを知らないと完璧超人に見えるから誰もが高嶺の花と思っているのか。


「……ちなみに、数か月くらい前からかな。とあるコロニーからずーっとズヴェーリ駆除の依頼が来ていてね。いつかの3倍は報酬は出すから何とかコロニー周辺のズヴェーリを駆除してくれないかって……」

「当然却下♡」

「だよねー」


 ちなみに、件のコロニーが提示した3倍という額も、相場からしてみればようやくトントンかそれ以下程度の額である。

 あの時以来、人は集まらないし小型ズヴェーリを狩れる傭兵は居ても中型以降を狩れる傭兵は居らず、コロニーの周辺には中型以降のズヴェーリが大量に沸いているのだとか。

 お金に困っていないこの傭兵達は、勿論このズヴェーリ討伐の依頼は却下し、他の所から出ているズヴェーリ討伐の依頼を嫌がらせのごとく受けて悉くを達成していくのであった。



****



 あとがきになります。

 今回もQAをば。


Q:ライトニングビルスターのイーグルファイター形態って、ダンクーガに出てるイーグルファイターと名前被ってるけど大丈夫なん?

A:スゥーーーーーッ…………いや、あの、ちゃうんすよ。ちゃうくないけどちゃうんすよ。

はい、完全にダンクーガのイーグルファイターの事を忘れてました。マジでやらかしました。

コメントで指摘もらって頭抱えてたんですが、とりあえず一旦このままで行かせてください。

ほら、世の中機体名被ってるロボとかそこそこ居ますし……いやほんとすんません。次から気をつけます、はい。

もしなんか問題あったらしれっと変えておきます。

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