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 ラーマナABによる開戦の一撃。

 スプライシングPRに乗るトウマは勿論それを避けて逃げ始めるが、ラーマナABはスプライシングPRを上回る速度でそれを追いかけ始める。

 勿論と言うべきか、その速さはネメシスオンラインで見たどの機体よりも、ただのネタで機動力以外の全てを捨ててみたネタ機体よりも遥かに速い。


『はっえぇ!!? 何だその速さ!!?』


 その速度はスプライシングPR以上。振り切ることができない。

 ならばと左右にフェイントをかけつつ逃げてみるが、ラーマナABはそれに対応してみせる。

 あの動き方は確実にまだ余裕がある動きだ。全力でスプライシングPRを動かしてみても、ラーマナABはピッタリと付いてくる。


「あはははは! これ最高よ、ティファ!!」


 今までの経験から、トウマはこれはマズいと冷や汗をかく。ついでに今まで見たことない程度に上機嫌なサラを見て軽くティファが引く。

 相手は通常時のスプライシングPRと相性が悪い重武装重装甲。しかもそれでスプライシングPRを超える機動力を有している。


『ティファのやつ、なんつーもん作りやがった!』


 しかもラーマナABは追いかけながら盾を構え、その先端に増設されたガトリングを撃ってスプライシングPRを追いかけ回す。

 それに加えてライフルまで狙いを澄ませているため、変に足を止めようものならガトリングとライフルにより秒で蜂の巣だ。

 ガトリングの特徴はその膨大な弾数による制圧力だ。

 どうやら盾に取り付けたガトリングは多少威力が低いらしいが、それでもスプライシングPRを蜂の巣にするだけの火力はある。

 しかもタチの悪い事にライフルと、さらにクリティカルの火力は下がるが弾速、素の火力が高いレールガンまでもを織り交ぜて撃ってくる。

 本来は両立させられないスタイルを両立した機体。それがラーマナABということだ。


「ついでにこいつも持ってきなさい!!」


 弾幕により、スプライシングPRは反撃に出れない。それを確認したサラは各種装甲のハッチを展開する。

 その後ろから姿を見せたのは、何十発ものマイクロミサイル。


「乱れ撃つわ!!」

『ねぇ嘘嘘嘘嘘ォ!!?』


 割とガトリングとライフルだけで全力だったのにも関わらず、それに加えてマイクロミサイルまでもがスプライシングPRに殺到する。

 ミサイルの速度は当たり前だがスプライシングPRよりも速い上に追尾してくる。

 それを避けるのに必死になっていては、ガトリングとライフルにより狙い撃たれる。


『クッソ、がぁ!! ティファ、V.O.O.S.Tだ!!』


 このまま逃げれば負けると悟ったトウマは恥も何もかもを押し殺してV.O.O.S.Tを使う決断をする。

 する、のだが。


『あー……トウマ。ここで悪いお知らせ』

『へ?』

『実は今、V.O.O.S.Tは改良中で……あの、その……つまり……V.O.O.S.T、今使えないの。ごめーんね♡』

『お前さぁ!! お前さぁ!!? そういうのは先に言えよぉ!!?』


 ティファの可愛いテヘペロ。なんと珍しいことか。

 しかしトウマにとっては関係ない。だってテヘペロでミサイルは止まらないから。

 トウマのごもっともな叫びの直後、マイクロミサイルがスプライシングPRに殺到。そして、爆発して大量のペンキが飛び散った。

 忘れているかもしれないがこれは模擬戦。ミサイルの弾頭はペイント弾になっているため、爆発してもペンキが散るだけである。

 これによりスプライシングPRも終わり……


『死ぬかと思ったぞ畜生!!』


 かと思ったのだが、どうやら奇跡的に助かっていた様子。

 どうも当たる直前に反転。そのまま盾を構えてミサイルに突っ込んで当たる面積を最小限にしたらしい。

 その勢いを殺さず、スプライシングPRは盾を構えたままラーマナABへと突っ込んでくる。

 それを冷静にライフルと肩のレールガンで迎撃するが、スプライシングPRはそれを盾で受けつつセイバーを構えて前進。


『シャオラァ!!』


 そしてセイバーのレンジ内に入った瞬間、セイバーを振るった。

 しかし。


「セイバーはこっちにも!!」


 サラは右腕部のセイバーをそのままアクティブにし、トウマが振るったセイバーを防いだ。

 まさかの切り返しと鍔迫り合いにより発生した光がトウマの目を焼く。


『何の光ッ!?』


 しかし、トウマとてもう慣れたもの。

 他の武装で狙い打たれる前に、なんとかラーマナABの前から撤退する。


『なーんで持ち替え動作が発生しないセイバーまで付けちゃったかなぁ!!?』


 文句を言いながらも、距離を取った瞬間にシールドのミサイルを発射。

 ラーマナABがそれを盾で受け止め、爆発したのを確認してから、コクピットがあった位置に向かってライフルを放つ。


「増加装甲は、こう使う!!」


 しかし無情な事にラーマナABのコクピットは追加装甲で守られている。

 故に、ライフル弾は追加装甲に弾かれてしまい、撃破判定にはならず。


『なんてインチキ!!?』


 そのインチキな光景に思わずトウマが声を荒げた。が、それが隙となってしまう。

 隙を見逃さず、ラーマナABの肩のレールガンと盾のガトリングが火を吹き、スプライシングPRの左肩と左足に着弾。


『しまった!?』

「機体の性能差が戦力の決定的な差って事よ!!」


 急に動かなくなった左腕と左足にトウマが冷や汗をかいた瞬間。

 どうやら少し残していたらしいミサイルとガトリング、ライフル、レールガンを構えたラーマナの全身の武装が火を吹いたのであった。



****



「よし! 初勝利よ!!」

「あの、ティファさんや。あのラーマナ、スプライシングPRの基礎性能超えてね……?」

「超えてたわねぇ……いやー、我ながらヤバイもん作っちゃったわ……」


 模擬戦はサラの勝利。何気にトウマに対して初の勝利を収めることになった。

 初勝利を飾ったラーマナABはサラとしてはかなり満足の行く仕上がりだった。

 ちなみに、マリガン程度なら10回やって10回勝てる程度には強くなっている。


「ちなみにトウマ。何回か戦えば勝てそう?」

「いや、勝てるだろうけど……ほら、コクピットが装甲で守られてるだろ? ペイント弾じゃあの装甲抜けないから、セイバー叩き込むしかなくて……」

「うーんクソゲー」


 多分、V.O.O.S.T無しでは3割勝てればいい方。それがトウマの感覚だった。

 だって勝ち筋がセイバー当てるしかないんだもん。


「ちなみに、コクピットを一撃で抜けるなら?」

「6割は勝てる」

「それでも6割なのね」

「そんぐらいやべーよ、アーマードブラスト。ラーマナMk-Ⅱの長所を活かしつつ、短所を克服してる。それに……」


 素直な直感を口にしながら、トウマは視線をサラに向けた。

 サラはトウマへの初勝利に声を上げて喜んでおり、2人の会話に気付いていない。


「……サラがマジで強くなった。全く同じ条件で戦っても、普通に負ける事もあると思う」

「そこまで強くなったの……?」

「そこまで強くなった。ここまで急激に強くなってんのはマジで予想外だけどな」


 今までトウマが10割勝っていたのは、スプライシングPRとラーマナMk-Ⅱの基礎性能に差があったからだ。

 ラーマナを超えるスプライシングPRと、ラーマナの8割の性能のラーマナMk-Ⅱ。基礎性能が高いのはどちらかと言われれば、勿論前者だ。

 だが、アーマードブラストはその差を埋めるだけに留まらなかった。

 V.O.O.S.Tには至らないが、V.O.O.S.Tを使ったスプライシングPRを相手にしても一方的な蹂躙にならず、戦闘という言葉が似合う戦いができる程度には性能が高い。


「……となると、もうアーマードブラストはラーマナMk-Ⅱ専用で調整して、サラに合わせた方が良さそうね。スプライシングにはまた別にプランを考えなきゃ」

「ここで頷くとそろそろビームライフルとか出てきそうで怖いんだが」

「射撃用ビーム兵装はまだ少し時間がかかるわ。後詰めさえできればだから……あと半年くらい?」

「もう俺ティファの事怖くなってきた」


 ちなみに何となく察してるとは思われるが、この時代にもネメシスオンラインにも、ビーム兵器は近接武器のビームセイバーしか存在しておらず、ビームライフルやビームマシンガンは実用化どころか理論の構築すらされていない。

 しかしティファさん、残りは後詰めだけだと言う。

 そう言えば最近、なんかメカメカしいライフルをティファが弄っていたような弄っていなかったような。


「はーっ……俺の周り化け物ばっかりかよ」

「わたしはまだ普通よ。サラは……うん。化け物ね」

「一番の化け物がなんか言ってる」


 いつの間にか天才を通り越して化け物みたいなスペックに成り果てた相棒を横目に、トウマはスプライシングPRを見上げる。

 模擬戦とは言え、スプライシングPRが敗北したのは今日が初めてだ。

 スペック差があった? そんなのは関係ない。

 ただ、自分の腕が足りなかった。それに尽きる。


「……俺も天狗になり過ぎていたって事か」


 今まで常勝無敗。V.O.O.S.Tを使えば敵無し。

 そんな状況だったからか、慢心していたのかもしれない。

 だが、今日はその慢心を砕かれ、現実を見ることができた。

 自分には、まだ成長できる余地がある。いや、成長しなければならない事が、ようやく理解できた。


「久々に理詰めと研究だな」


 まだまだ弟子にやられっぱなしにはなれない。その意志を秘め、トウマは自室へと戻っていった。

 ──後日の模擬戦では、スプライシングPRがラーマナABに対し、10戦中7戦、勝利してみせたのだった。


―――――――――――――


何の光ノルマ達成。とりあえずトウマの目は気軽に焼いて何の光させたい所存


という事で後書きになります。

今回は何故か機動力も上がっちゃったフルアーマープランことアーマードブラストについて。


アーマードブラスト

ティファの開発した外付けの強化システム。イメージ的にはAS+HWS+GP-03の腰部パーツ+グフカスタムのガトリング。

また、機動力の面では大量のスラスターと腰部パーツ、プロペラントタンクによってスペックが向上するというイカれた結果に仕上がった。

同じくABと略せるアサルトバスターに近い立ち位置。あっちは本体の方がイカれてるから何とかなってたという違いはある。

マリガンのマッドネスパーティーと火力面でいい勝負をする程度にはイカれた性能をしている。

また、何気にティファが完全に自力でネメシスオンライン産の初代ラーマナを超えるスペックのネメシスを作り上げたという事実にも繋がる。

なお、アーマードブラストは後程ラーマナMk-Ⅱ専用にチューンアップされたため、スプライシングPRには装着ができなくなった。


ス○ロボ的にはラーマナMk-Ⅱ専用の換装パーツ扱い。

HWSみたいにゲーム上では機動力が少し下がる代わりに火力が上がるとか換装すると強化パーツが付けられないけどステータスが全体的に上がるとか、そういう扱いの換装パーツになる。

換装はお好みで。

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