少年ハート

 キングズヴェーリの討伐。

 核ミサイルを用いぬ限りは不可能とされていたその偉業を、レイト達は成し遂げた。

 勿論そんな偉業を成し遂げたレイトとトウマはキングズヴェーリの体内から何とか救出された後に騎兵団の団員からもみくちゃにされた。

 よくもまぁやってくれた、と。

 ちなみに、救出に関しては周辺のズヴェーリ一掃後に行われたので、2人は小一時間ほどキングズヴェーリの亡骸の中で閉じ込められていたりしたのだが、それは割愛。


「国軍の方からは面子が潰されたと少し思われただろうが、それでもキングズヴェーリをこれだけの被害で討伐したのは、これが初の例だ。それに、君たちのおかげで被害は最低限に収まった。本当に、感謝している」


 キングズヴェーリ戦での被害は、傭兵の一部が無理に前に出てやられてしまったが、その程度。

 騎兵団は全員無事であり、中に突入したレイトとトウマも無事。

 快挙とも言える戦果だ。


「俺達はただ分の悪い賭けをしただけですよ。それに、まだ雇われたままでしたし」

「それでも、だ。本当に感謝している」


 戦闘の後始末が終わり、キングズヴェーリの亡骸と大量のズヴェーリはティウス国に売り付けられる事となった。

 それによりハインリッヒ家は莫大とも言える金銭を入手。

 その金銭は全てコロニーや生活すべき場所を失った民の補填へと充てられることとなった。

 もちろん、その中の2割程はティファ&トウマに報酬として与えられた。与えられたが、今までの貯金の何倍もの金額が入ってきたので2人は暫し震えていた。

 具体的にはコロニーの土地半分くらいは軽く買えそうな金額だったので、庶民の2人は気が気でなかった。


「レイト。君にも感謝している。よくぞ、あの化け物を倒してくれた」

「私もハインリッヒ家で仕事をする者ですから。当然の義務です」


 ちなみにレイトにもボーナスが入ったのだが……まぁ、その額はとんでもなく。

 彼はこの星で働かなくても家族を養って生きていける程度の貯金を得ることとなった。その金を振り込まれた直後、レイトはぶっ倒れた。


「2人の事は、我が領地の私兵として雇ってもいいとは考えていたのだが……」

「わたし達はあくまでも傭兵なので。1か所に縛られず、あっちへこっちへ行ってる方が性に合ってるんです」

「そのようだな。だが、困ったことがあればいつでも私達の名を出してくれ。いつでも力になろう。サラの事もあるからな」


 そして、サラ。

 色々とあって傭兵としてやっていく条件が決まらぬままだった彼女だが、今回の戦いで彼女も残党のズヴェーリを大量に片付けた事もあり、認めないわけにもいかないだろうという事で、傭兵を続ける事となった。

 流石にハインリッヒの名をそのまま使わせるわけにはいかないので、サラ・カサヴェデスとして傭兵を続ける事に。

 だが、帰ってきたかったら帰ってきていいとか、偶には里帰りしろと言われているので、縁を切るというよりも以前の状態のまま、傭兵をする事を許されたという形だ。

 家族の仲も良好なまま。


「……さて、あまり君達をここに留めておくのも申し訳ないか。これからはどうする気だい?」


 キングズヴェーリの件があり、ハインリッヒ家はこれからかなり忙しくなる。

 それは騎兵団も同じだ。

 故に、ティファとトウマへの依頼は満了という事で2人はしっかりと報酬を貰い、仕事を終えた。

 故に2人はサラと共にこれから自由の身。流浪の毎日の再開だった。


「まずはメロス国に戻って、ちょっと休もうかと。その後はまたお金を稼ぎながら、ネメシスを強化しようと思ってます。今回の戦いで、スプライシングもまだまだ先を目指さなきゃいけない事が分かりましたから」


 今回の戦いで見えたスプライシングPRの欠点。

 それは、V.O.O.S.Tだ。

 元々決戦機能として付けたアレは、今回のように連続で使いたくなる時がいつか来てしまう。

 故に、スプライシングPRの先はまだある。V.O.O.S.Tを常用化可能にするにしろ、基礎性能を上げるにしろ、最強の道はまだ長いのだ。

 ティファはそれを諦める気は無かった。


「俺はティファについて行きます。相棒ですし」


 その言葉に、2人の前に座っているミハイルは頷いた。


「そうか。ならば、サラの事もよろしく頼むよ」

「はい。サラも仲間ですから」

「うむ。レイト、2人を港まで送ってきなさい」

「畏まりました。さっ、2人とも。僕の車で送ってくよ」


 レイトの言葉に従い、部屋を出る。

 思えばサラが家出娘だったことから始まり、まさかキングズヴェーリを倒す事になるとは。人生何があるか分からないものだ。

 だが、悪くない滞在だったと言える。今後の自分達がどう成長すべきかも分かった事だし。

 そんな事を考えながらレイトと共に歩いていると、既に荷物を纏めて待っていたらしいサラと合流した。


「遅かったわね。父様に何か言われた?」

「いや、特に。お前の事をよろしくって」

「ったく、父様ったら……まぁいいわ。これからもヨロシク」


 既に主要な荷物は船に積んでもらっているので、サラが持っている荷物は鞄一つに詰め込める程度の物だ。

 それをレイトが預かり、4人でレイトの車へと向かう。


「よっ、もう行くのか?」


 その最中に丁度すれ違ったランドマンが声をかけてきた。

 どうやらまだ仕事の最中みたいだが、多少雑談する程度なら許される。


「はい。ランドマン団長にもお世話になりました」

「そうね。わたしもちゃっかりブレイクイーグルの中を触らせてもらっちゃったし」

「なに、世話になったのはこちらの方だ。2人には随分と助けられた」


 トウマを敵とした模擬戦によって騎兵団は1人1人がこの時代で一騎当千とも呼べる程強くなった。

 短い期間での訓練だったので、各個人の強さはネメシスオンラインの中でも中堅程度に収まっているが、マリガンのようなランカーではない上級者程度なら囲めば倒せる程には強くなった。

 それに、ティファの存在により整備班の中のナニかに火がついたのも確かだ。

 プロとして十分な腕を持っている整備班だが、その整備班達はV.O.O.S.T実用化のために今も勉強と実験を繰り返している。

 それに。


「今後はレイトが模擬戦の的になってくれるようだしな。次に会ったときはトウマ、君を相手に互角に戦えるようになっておこう」

「レイトを仮想敵に特訓されるとマージで俺もいつか負けそうっすね……まぁ、俺だってまだまだスプライシングと戦っていきますから、そう簡単にゃ負けませんよ」


 騎兵団の訓練にはレイトも時折仮想敵として参加する事となった。

 そのため、騎兵団は今後、レイトという全一を仮想敵として鍛え上げられていくのである。もしも全員がランカー並の腕でも持とうものなら……多分、騎兵団は武力で世界を取れる。割とマジで。

 ちなみにいつの間にか話がそんな風に纏められていたレイトは苦笑している。


「それに、サラお嬢様も。本当は私達騎兵団が護衛につくべきではありますが……」

「傭兵に護衛って意味分かんないからいらないわ。それに、あんた達はこの領地を守る盾であり槍なのよ。次あたしが里帰りする時まで、この領地の平和は頼んだわ」

「はっ。この命に変えても、必ず。サラお嬢様の故郷は我等ハインリッヒ騎兵団が守り抜きます」


 その言葉にサラは満足げに頷いた。

 彼等がいる限り、この領地はズヴェーリにも、宙賊にも負けやしないだろう。

 何故ならハインリッヒ騎兵団はサラが知る中で、最強の騎兵団なのだから。


「そんじゃ、あたしは行くわ。留守は任せたわよ、ランドマン」

「任されました。それでは、行ってらっしゃいませ、サラお嬢様」


 ランドマンは1つ礼をすると、そのまま去っていった。

 それを見送り、レイトの案内で今度こそ車へ。

 荷物を積み込んで、車を走らせる。


「……それで、レイト。お前はここに残るんだな」

「ん? そうだね、僕の居場所はここだから」


 そして移動の最中、トウマはレイトに声をかけた。

 レイトは漂流者であり、今回の戦いで一生何もせずに暮らせる程度の貯金を得ることができた。

 それでもレイトはこの星で、ハインリッヒ家で働き続けることを選んだ。


「傭兵になりゃもっと自由に色々とできるんだぞ?」

「そうだね、その通りだと思う。でも、僕は僕の事を拾ってくれて、今日まで面倒を見てくれたハインリッヒ家を離れるなんて事は考えられないよ」


 レイトとホワイトビルスター。その力はトウマとスプライシングPRにすら匹敵する。

 その力を傭兵として使うのではなく、ハインリッヒ家で死蔵する事を、彼は選んだのだ。


「もしもまた問題があった時、間に合わなかったじゃ遅いんだ。だから僕はホワイトビルスターと一緒にここに残る。ここに残って、降り注ぐ災厄は全て撃ち抜いてみせる」


 だが、ただ死蔵するだけではない。

 もし騎兵団にも対処ができない災厄が現れたとき。その時は何の躊躇もなくホワイトビルスターと共にレイトは動く。

 恩人のため。

 そして、友のために。


「勿論、トウマさん達がピンチの時は言ってくれたら駆け付けるよ。キングズヴェーリだってまた撃ち抜いてみせるさ」

「そりゃ頼もしい。その時は連絡させてもらうよ」


 レイトはここに残る。

 だからと言って縁が途切れる訳ではない。

 この時代ならいつだって連絡は取れるし、ピンチが訪れたときは救援を頼むことだってできる。

 レイトが助けに来てくれれば、またキングズヴェーリが現れたって怖くはない。


「あぁ、それとね」


 そう、レイトはここに残る。

 しかし、レイトとトウマには、やり残した事がある。


「この後僕、非番なんだ。それと、親友に頼み込んで連絡船にホワイトビルスターを積み込んでもらった」

「…………ほー?」

「つまり、だ。トウマさん。今まで時間がなくてできなかったPvP、やろうか」

「もちろん、望むところだ」


 そう、PvPだ。

 ランカー同士が会ったのなら、という程ではないが、2人はロボオタであり、何よりもPvPガチ勢。3度の飯よりロボが好きで、PvPも好きな連中なのだ。

 故に、レイトはこの日は3人を送ったあとは休暇を取り、そしてミーシャに頼み連絡船を用意してもらったのだ。


「そう来ると確信してたよ。それじゃあ、行こうか。いつも通りの、宙域の1on1をしに」

「おうよ。あぁ、そうだ。サラ、一つ言っておく」

「なに?」

「俺とレイトは間違いなくネメシスの操縦はこの世界でもトップクラスだ。そして、機体性能もな。そんな俺達の戦いを見せつけてやる」

「…………で、それに追いつけって事ね。いいわよ、やってやろうじゃない」


 レイトとトウマの戦いはサラにとっての経験値ともなる。

 ネメシスオンラインのランカーの中でも常に一位をキープした化け物、レイトと、そんなレイト相手に勝ち星の数を徐々に増やした化け物、トウマ。

 2人の全力の戦いが、フィナーレの舞台を飾る事となった。

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