メイドは缶詰を収集する

@daywiibe

第1話 缶詰

雑草に覆われた都市。

電灯が消えたセブンイレブンの中で、凛は缶詰を集めている。

残された食品が発する腐臭には慣れている。

凛はメイド服を着ていて、大きめの鞄を背負っている。

鞄の中にはナイフや携帯ラジオ、コッヘル、シャベルなど、一通りキャンプで使うような装備が入っている。メイド服ももう2着持っていて、毎日河川で洗って回している。

サバの缶詰とスパムを合わせて10個見つけた凛はそれらをカバンに入れてコンビニを出る。

道路にはドアが半開きになり放置された廃車があったり、自転車が倒れていたり、猫が死んでいたりする。

今日は風が強い。ゴミとビラが飛び交う雑木林のような街中を凛は歩く。

あれからもう二年経つ。

20歳になる凛は18歳までの18年間よりもあとの2年間の方が長く感じる。

あれが起こってから、当たり前だと思っていたものが全て消えた。

当たり前だと思われるものが当たり前ではなく、どれだけありがたいものであったか。家族。経済。ゴミの収集。下水道。

それらは本来親元を離れた青少年が少しずつ生活の中で感じる類のものだ。

しかし現在、青少年は1日でそれらを体感してしまった。

全てが当たり前ではないのだ。

あれがこの国に来てから、外との通信は絶たれ、多くは消され、強い人だけが残った。

あれに対抗するのは無理だ。

軍隊が対抗できないものに市民が対抗できるわけがない。

ただひたすらに、隠れて生きるしかない。

凛はメイド服を着ている。

秋葉原まで行ったとき、路上で白骨化していた人間が着ていたのをいただいた。

誰も街中でメイド服を着ても気にする人はいない。そもそも滅多に人間とコンタクトしない。

メイド服を着るという行為は凛にとって最後の心の盾のようなものだった。

おかしな世界で、おかしく生きる。そうしたい。


凛が自然と融合した荒廃した街を歩いていると、後方からバイクのエンジン音と共に、ニュー・オーダーの『Temptation』が流れてくる。

サングラスをした短髪の青年が運転している。

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