万策尽きて、思わぬ展開

「サユさぁ……」

「言わないでよ、分かってるもん」

「確かに天体観測までは良かった。話の持って行き方も、雰囲気の作り方も、言うだけあって、割と完璧だったと思う」

「やめてったらぁ……」

「つまり何が言いたいのかというと」

「あー、あー、聞こえない、聞こえな――」

「劇物の取り扱いには、細心の注意を払いましょう……」

「うにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」


 甲高い叫びと共に、紗雪がこたつの天板に頭を打ち付ける。

 おいおい、やめなさいよ。寝てるじいちゃんたちが起きるでしょうが。


 僕と紗雪は今、祖父母の家の居間で反省会をしている。

 レイラ先輩、輝夜と続いて、これで三度目だ。

 ロマンスの神様め、いくらなんでも天丼が過ぎるぞ。


 ハズレの肉じゃがを食べた颯吾は、昏倒して動かなくなってしまい、客間に運び込まれている。

 まさか、一口で気絶までいくなんてなぁ……。

 底は上がって来てるとはいえ、耐性のない一般人には十分劇物だったみたいだ。

 あるいは、僕が人間を“超えて”しまったのか。

 うん、まったく嬉しくないぞぅ。


「うぅ……こんなんじゃ、もうお嫁にいけないよぅ……」


 こたつを削らんばかりに頬を擦り付けながら、沙雪がさめざめと泣く。

 はいはい、前の二人と同じで当分立ち直れないやつですね、これは。ワンパターン過ぎて、いい加減慣れたよもう。聞いてっか神様ー。


「大丈夫、颯吾ならこの程度のことは笑って許してくれるさ。……だから、な? こたつ布団をかじるのはおやめなさいってば。ばっちぃから」

「だって、だってぇぇぇ~~~」


 まぁ、気持ちは分かる。

 颯吾に告白するため長年頑張って来たのに、最後の最後であのやらかしだもんなぁ。

 武士の情けだ。ここはそっとしておいてやろう。

 最後にもう一度だけ沙雪の肩を叩いて、居間を後にする。


「あっ、トモ」


 縁側で出くわしたのは、夏葉だった。


「颯吾は?」

「落ち着いてるよ。さっきまで『視える、視えるぞ、宇宙の真理……全ての根源が……』ってうなされてたけど」


 ほう、奴にも“視えた”のか。あの『景色』が。

 とまぁ、冗談はさておき。体調が戻らなかったら明日にでも病院に連れてくつもりだったけど、その必要はなさそうだ。


「それで、サユちゃんの方は?」

「相変わらずぐじぐじやってるよ。ありゃ、しばらく引きずるな」

「と、いうことは?」

「……ヒロイン候補、全滅でございます」


 縁側に並んで座り、どちらともなく大きなため息を吐く。


「まさか、三人全員が自爆エンドとはなぁ。ぶっちゃけ、一人くらい何とかなるもんだとタカ括ってたわ」

「現実は甘くないってことだねぇ。それで、これからどうするの? ソー君のお見合いはゴールデンウィーク明けの週末だから、ほとんど時間ないよ」

「どうすっぺなぁ……」


 正直、万策尽きた感がある。

 こうなったら、事の成り行きを見守るしかないのかも。

 なんて諦観しかけたところで、不意に背後の襖が開いた。


「こんなとこにいたのか、二人共」


 姿を見せたのは、青白い顔をした颯吾だった。


「ソー君、もう動いても大丈夫なの?」

「おぅ、ナっちゃんの救命処置が的確だったおかげで命拾いしたよ。ありがとな」


 現実であまり聞かないタイプの台詞を吐く颯吾。

 その手には、スマホが握られていた。


「ん、どっかと電話してたのか?」

「あぁ、ナっちゃんとこのおじさんたちと、ちょっとな。前々からお願いしてた件に進展があったみたいで、連絡が来たんだ」


 意外な通話先に、困惑した僕は夏葉を見る。彼女もきょとんとしていた。


「「え、なんで?」」


 夏葉の父親は弁護士で、母親はパラリーガル。夫婦で小さな弁護士事務所を営んでいる。

 職業柄残業が多くて休日もあってない様なものだから、三家の保護者の中では、一番接点が少ない相手だ。


「その説明も兼ねて、二人に相談したいことがある。時間もらっていいか?」

「「どうぞどうぞ」」


 僕らが答えると、颯吾は最初にニッ! と白い歯をむき出しにした。


「悪いんだけど、俺の縁談をぶっ潰すのを手伝ってくれ」

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