清瀬沙雪の3分ファッキング
「なぁ、サユ〜。僕が悪かったから、いい加減機嫌直してくれよ~」
沙雪の好物の大福アイスを献上しながら、僕は平に懇願した。
「イヤ! こんなのでウチを釣ろうなんて、浅はかもいいところだよ!」
とか言いつつ、ちゃっかり貢物を受け取った沙雪が、ソファに腰掛けた夏葉の膝を枕にする。
おーおー、口でも頭でも柔らかさを堪能するとは、いい身分だなこんにゃろう。
5秒でいいからポジション替われ。お願いします。
「そう言わずに許してあげてよ、サユちゃん」
取りなそうとする夏葉の言葉を、紗雪は「イヤ!」と拒絶する。
「お兄は誰よりもウチの味方をしなきゃいけないの! ウチを差し置いて他の女の子とソー君の間を取り持とうとするなんて、言語道断なの!」
足をバタつかせて駄々をこねる我が愛妹。
こんなんでも、華の女子高生です。
「とりあえず、大福アイスを寝転がりながら食うな。喉に詰まらせるぞ」
「ふぁいひょうふへーふ(大丈夫でーす)」
僕の忠告を無視して、好物をもちもちごっくんと飲み込む沙雪。
「で、どうすれば機嫌直してくれんだよ」
「決まってるでしょ。ウチにもソー君とのデートをセッティングして」
おっと、これは僕にも都合のいい展開だぞぅ。
元々明日からの一週間は、紗雪のサポート期間だったんだ。
ご機嫌取りも兼ねられて、一石二鳥である。
「まぁ、可愛い妹のためなら、一肌脱ぐのもやぶさかではないけどさ」
恩着せがましい口調で言う。作れる貸しは作っておく主義です。
「じゃあ、来週のゴールデンウィークに遊びに行ける様、こっちで調整しとくから、予定空けとけよ」
「あ、ごめんお兄。ゴールデンウィークの前半はちょっと無理……」
「何で?」
「前に言ったでしょ。長瀞(ながとろ)のおじいの家に星を見に行くって」
「あー、そういえば」
紗雪の趣味の一つに、天体観測がある。
特に家にこもりがちだった幼少期は、祖父母に買ってもらった天体望遠鏡で、よく星を眺めていたものだ。
「観測記録を天文部の展示に使うつもりだから、今さら予定変更できないんだよね。だから、別の日にして欲しいんだけど……」
それにしても間の悪い……いや、待てよ?
「それなら、颯吾と一緒に行けばいいじゃないか」
「え、でもそんな急に誘って大丈夫かな? 泊まりになるよ?」
「ゴールデンウィークの前半はみんなバイト入れてないし、僕やナツも行くって言ったら、まず断らないと思うぞ」
「私の参加は決定事項なんだ……別にいいけどね、部活もないし。迷惑でなければ一緒に行きたいかな。昔みたいに」
昔みたい、というところで頬を綻ばせつつ、夏葉が快諾する。
家族ぐるみの付き合いの一環で、昔は長期休暇の度に、埼玉県は長瀞にある祖父母の家にみんなで遊びに行ったものだ。
「僕とナツが上手いこと立ち回れば、颯吾と二人きりでデートができるけど……いかがでしょう、お姫様?」
「うむ、よろしい! 妾は満足じゃ!」
「ただし、手伝う以上は颯吾を落とす勢いで臨んでもらうからな!」
「ふふん、心配しなくても大丈夫だよ。幼馴染は最強のステータスだもん! ちょっといい雰囲気に持っていけば自ずと……えへへぇ〜!」
妹よ、慢心に頬を緩ませてるところ申し訳ないが、目の前の兄はその最強のステータスを持ってなお、意中の相手に振られてるぞ。
それに世の中には、幼馴染は負け犬ステータスだと公言する不逞の輩が一定数いるんだ!
実に! 誠に! 非常に遺憾ながら!
いいじゃないか、幼馴染が勝ったって!
ビバ・竹馬の友! 管鮑の交わり・イズ・ナンバーワン! オゥ、イェー!
……と、いうわけで。
「甘い、甘過ぎるぞサユ! 黄色いパッケージでお馴染みのコーヒーより甘い!」
ズズイ、と顔を寄せ、僕は力説する。
「まず第一に、颯吾にとってお前はどんな存在だと思う?」
「お隣に住んでる、可愛い可愛い幼馴染」
「自分で可愛いって言うのね、しかも二回。……まぁ概ねその通りだけど、一言足りないな」
「と言うと?」
「前に一度、颯吾にサユをどう思ってるか聞いたことがあったんだけど、その時あいつはこう答えたんだ。『妹みたいに可愛いお隣さん』って。この意味が分かるか」
「えーと……運命の人?」
ポジティブか。ポジポジのポジユキちゃんか。
「違う、現実を見ろ! これは文字通り、お前は颯吾に妹の様な存在としか認識されてないってことだ! つまり、ある意味お前は異性として見られてないんだよ!」
「な、なんだってー⁉」
僕の指摘に、紗雪は雷に打たれた様なリアクションを取る。
「そ、そんな……ウチはてっきり、ソー君争奪レースの先頭をひた走ってるものとばかり……」
自己分析が甘いのは血筋らしいな、妹よ。
「だから、お前はまず異性として意識されるところから始めなきゃいけない。この一週間で、女の子らしさをアピールする方法を考えるんだ」
「女の子らしさを、アピール……」
瞑目し、考え込む紗雪。
僕はこれまで軍師ムーブに拘って必要以上に首を突っ込み、失敗してきた。
だから今回は、紗雪がやろうと決めたことを全力でサポートしようと思う。
たとえそれが、どれほど過酷なものであっても。
「分かった。決めたよ、お兄!」
熟考の末、紗雪が力強く宣言する。
「ウチ、お料理の練習する!」
「「……………………」」
水を打った様な静寂が、リビングを支配した。
「……ごめん、今何て?」
「ウチ、お料理の練習する!」
「早まるなぁぁぁ‼」
「むっ、早まるなとは何よ、お兄。お母さんも前から『サユもそろそろ花嫁修行始めないとね』って言ってたし、お兄もウチがお料理できた方が助かるでしょ?」
「いやまぁ、それはそうなんだけど!」
でも、駄目なんだ!
紗雪を厨房に立たせることだけは、絶対にあってはならないんだ!
だって、こいつに包丁を握らせたが最後――
「トモ! お願い、息をして! トモーッ‼」
こ う な る か ら 。
泡を吹いて倒れていた僕は、夏葉に揺さぶられて目を覚ました。
危ない危ない。もう少しで『向こう側』に『持っていかれる』ところだった。
視界に入ったのは、床に落ちた紙の皿。
そこには、見るだけで精神を削られる様な狂気の産物が盛り付けられている。
一応、世間一般で言うところの『調理』という過程を経て生み出されたはずの物体だが、見た目は完全に狂気の研究の成れの果てである。
「おかしいなぁ。理論的には美味しくなってるはずなんだけど……」
未だ痙攣が収まらない僕を見て、紗雪はぶつぶつとメモを取っている。
研究熱心なのはいいことだが、被検体の経過観察をする前に、肉親の命の心配をして欲しい。
ここまででみんな察してくれているだろうが、うちの妹はそう、
メシマズ、なのである。
それも、超弩級の。
「本当、何でなんだろうねぇ。食材も道具も普通で、私が教えた通りに作ったのに」
夏葉が首を傾げる。
そう、紗雪は特別おかしなことをしているわけじゃないんだ。
普通の物を使って、普通の手順で作って、普通に盛り付けて。
その結果、混沌を顕現させてしまうのである。
いやね、紗雪がこういう能力を持ってるのは昔からだし、今みたいに被害が家族の中で済んでる内は、まだ目を瞑ってられるんだよ。
「どうしよう、流石にこれじゃソー君に食べてもらえないよ……」
問題は、こいつがその劇物を、あろうことか想い人の口に叩き込もうとしてるってことで。
ちなみに、今回作ろうとしたのは、颯吾の好物の肉じゃがらしい。
実食した僕には、呪物の活け造りとしか感じられなかったけど。
「分かってくれたか、サユ。そう、お前の料理はとても人様に出せる様なものじゃ……」
「なら、もっともっと練習しないとね!」
「過ぎたるポジティブは暴力。そうは思わんかね?」
「というわけで、今後も貴重な感想よろしくね、お兄♡」
「普通にイ・ヤ♡」
「イヤじゃないぞ♡ さっき『何だって協力する』って言ったもんね? 今さら撤回なんてしないよね?」
早まったぁぁぁ!
変に見栄とか張らなきゃよかったぁぁぁ‼
かくして、僕の胃袋を破壊する地獄の日々が幕を開けるのであった。
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