くろちゃん
カイロ
くろちゃん
くろちゃんは祖父母の家で飼われていた猫でしたが、私の知る中で1番数奇な猫生?を送った子でした。
まずくろちゃんが祖父母の家に来る前に、くろちゃんが来るよりも先にいた先住猫のお話が欠かせません。祖父母の家には常に動物がいたのですが、くろちゃんの前にいたのはトラ猫のメスと黒猫のオスの兄妹(姉弟?本猫たちに聞いてもわからないのでどちらでもいいのですが…)
兄弟だったのでとても仲良く過ごしていました。
祖父母の家では地域柄と時代もあり猫が家と外を自由に出入りをしていました。例外に漏れず兄妹猫も自由な外出をし、たまにネズミやハトといったお土産を連れて帰ってきていました。
そんな自由な生活でのびのびと大きくなった2匹でしたが、1歳を過ぎた頃オスの黒猫が帰ってこなくなりました。
祖父母は長い間猫を飼っていたため、オス猫は長い間帰ってこなくてもひょっこり帰ってくるというのを何度も経験していたので最初はさほど心配していませんでした。
しかし帰って来ない期間が3日、1週間、1ヶ月…と伸びていくほどに不安は募るもの。近所を探し歩いたり、エサを置いてみたりしましたが一向に黒猫の姿はありません。
そして祖母が1番心配したのは保健所で殺処分されてしまうこと。そのため帰ってこなくなりすぐに管轄の保健所には連絡をし、該当する3つの特徴の子がいたら連絡をお願いしていました。
その特徴は“オス”、“黒猫”、そして“尻尾が曲がっている”。この3つでした。
実はいなくなってしまった黒猫はカギ尻尾と呼ぶにも迷うほど尻尾がグニャグニャと曲がっていたのです。触った感覚では骨のパーツは尻尾が長い子と同様の量あるようでした。変な形ですが貰ってきた子猫のときからでしたし、動物病院の先生にも問題ないと言ってもらっていたグニャグニャしっぽでした。
そんな特徴的な尻尾を持ったオスの黒猫。帰ってくることを信じてみんなが待っている時でした。
保健所から一本の連絡が。条件に当てはまる猫がいるから確認に来て欲しいとのこと。
しかし保護されているというのは同じ県内ですが直線距離で80km以上離れた場所。1ヶ月半姿を見ていないとは言え、そんな離れた場所に?と疑問に思いながら祖母は車を走らせました。
件の子が保護されていると言われて向かったのは会社。
猫を保護していたのはそこで働いている方で、野良猫を拾ったが家では猫を飼うことができないため勤めている会社に連れて来てエサをあげていたとのこと。しかしそんな生活も3ヶ月ほどたち、子猫だったのが大きくなってしまった。そして会社に置いておくことも、自宅では飼うこともできないため祖母が引き取ってくれないなら保健所に連れていくしかないと言ったそうです。
保健所から祖母に連絡が入ったのは、“オス”、“黒猫”、そして“尻尾が曲がっている”の要件を満たしていたためでした。先住黒猫と保護されている子。大きさも顔立ちも全く違うので違う黒猫であることは明らかなのですが、しっぽのグニャグニャ具合がそっくりだったのです。
でも、1ヶ月半前から帰って来ていない子と3ヶ月前からエサをもらっていた子。祖父母の家の黒猫でないことは期間から考えても明らかでした。
しかし保健所に連れていくしかない、と言われた猫好きな祖母は、その保護されていた黒猫を連れて帰らないという選択肢がありませんでした。
そして後にくろちゃんと呼ばれることになる黒猫がやってきたのです。
(名前が安直なのは、先住黒猫と被らない名前を考えようと言っている間に色から仮名で呼んでいたくろちゃんが定着してしまったためです…。)
くろちゃんは物おじをしない子で先住のトラ猫にいくら威嚇されようと、猫パンチされようと近づいていく子でした。そのうちトラ猫の方が諦めて和解をしていました。
また運動神経はあまり良くないようでした。先住黒猫がよくお土産を持って帰って来た反面、くろちゃんは猫生において一度だけ弱った鳩を捕まえて来て室内で離して一騒動起こしたくらいなものです。
なので子猫時代にエサをくれていた方に出会っていなければ、野良として成猫になるのは難しかったでしょう。
そんなこんなでくろちゃんは祖父母の家に来て18年ほど猫生を謳歌しました。最後はオムツをして弱った姿も見ましたが、最後の日まで自分でご飯を食べてお気に入りのこたつで眠るように亡くなっていました。
18年の間にいろいろな変化、分かったことがありました。
祖父母の孫にあたる私たちの成長。(私も中学生から社会人になっていました。もちろんいただいた給料はお猫様に貢ぐものです!)
先住黒猫の行方。(これはくろちゃんが来てしばらくした後教えてもらいました。近所に住む親戚が車に轢かれていたのを埋葬してくれていたとのことです。祖母の体調が安定していないこともあり、ショックを受けないようにと伝えるタイミングを伺っていたそうです。)
そしてグニャグニャしっぽの話。
先住黒猫もくろちゃんも共通してグニャグニャしっぽをしていました。くろちゃんはそのグニャグニャしっぽのおかげで保健所行きを免れたのです。
曲がっているカギ尻尾は幸運の印。曲がっている部分で幸運を引っ掛けるから、と言われているそうです。
くろちゃんは猫生において何度も命の灯火が消えそうになっていました。
野良猫なのに狩りが上手くない…。
保健所に連れて行くしかないと言われた…。
だけど猫生の最後にはお気に入りのこたつで終えられたのは、グニャグニャしっぽでたくさんの幸運を引っ掛けられたからかもしれません。
なんなら優しい先住黒猫が自分のしっぽで捕まえたたくさんの幸運をくろちゃんに残してくれたのかもと思ってしまいます。
2匹とも天国へ行ってしまいましたが、幸運のカギ尻尾同士仲良くお気に入りのおやつでも食べていて欲しいなと想像してしまいます。
くろちゃん カイロ @gingerpatience
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