終末、また会えたら

紙野 七

プロローグ

終末、また会えたら

 その日は最後の夜だった。消灯した部屋をこっそりと抜け出して、みんなでこっそりと中庭に集まる。もし見つかればこっぴどく叱られて、一週間は部屋から出ること禁止されてしまうことだろう。けれど、もうそんなことを気にする必要もなかった。

「遅いよ」

「ごめんごめん」

 一人が少し遅れてやってきて、ようやく七人全員が揃う。円になって芝生に座り込んで、お互いの顔を見合わせる。

「ついに明日か……」

 そうは言っても、特に何をするわけでもなかった。彼らは明日、みんながここから連れ出され、散り散りになることが決まっていた。だからその前に、最後の夜をともに過ごそうと、こうしてみんなで集まったのだった。

「次起きたときはどうなってるかな」

 少年が月に照らされた明るい夜空を見上げながら、ぽつりと呟く。

「終末だよ、終末。これから人間同士の争いも始まって世界滅亡。そしたら、みんな木の実を取って動物を狩って、そんな風に原始時代に逆戻りかもな」

「それは嫌だな……。美味しいものが食べられなくなっちゃう」

「いや、意外と今起こってる問題が全部綺麗に解決して、技術もどんどん発達して、想像もつかないほどすごい世界になってるかも」

「夢物語だなあ」

「いいじゃないか。これから眠るんだから、夢くらい見させてもらわないと」

「眠ってる間に忘れられちゃわないか心配……」

 みんなが思い思いのことを口にする。しかしそれは不思議ととても楽しげで、まるで子どもの頃に抱いた夢を語るくらいの気楽さが滲んでいた。すべては次に目が覚めたときにわかることだという、ある種の諦観が全員に共通していた。

「もし、さ」

 唐突に立ち上がったかと思うと、一人の少年が真面目な口調で言う。

「もし、また会えたら、俺を殺してくれないか」

 彼は全員の顔をぐるりと見回す。

「誰でもいい。起きたあとに正気な奴がいたら、俺を殺して楽にして欲しい」

 先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気が一瞬で冷めて、全員が俯いて静まり返る。その言葉は誰もが見て見ぬふりをしていた現実を突きつけるものだった。彼は後に苦しむことになるであろう自分たちを救うため、あえてそれを口にすることで、この場でその現実と決着を付けようとした。

「わかった。約束するよ。その代わり、もし君が正気だったら、そのときは僕を殺してくれ」

 一人が立ち上がり、彼の前に向き合う。

「私も。もしものときは、せめてこの中の誰かの手で止めて欲しい」

 さらにもう一人が立ち上がり、二人の瞳を見つめる。

「俺も」「ボクも」「僕も」「私も」

 そうして全員が立ち上がる。抱えていた心の靄が晴れ、ようやく眠りにつく覚悟ができたようだった。

「これは、無事だった人の方が大変そうだね」

 その一言で、真剣な顔が再びほころんで、おかしそうに笑い合った。

「それじゃ、約束だな」

 みんな各々がすっきりとした表情で、お互いに目を合わせて頷く。

「終末、また会えたら」

 そう言って別れたあと、彼らはみな長い眠りについた。

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