[KAC20243]ストーンボックスの行方はやっぱり誰にもわからない?〜再び異世界オークション〜

のりのりの

第1話 ストーンボックス

 世にも珍しく、高価なものを手に入れたいと願う人々が集うザルダーズのオークションハウスは、終盤にさしかかり、異様なほどの熱気と興奮に包まれていた。


「皆様……お待たせしました! 本日、最後の品でございます!」


 トリを飾るベテラン競売人――オークショニア――の滔々とした口上と共に、コロつきの台座が、スタッフの手によってオークションの舞台へと運び込まれる。


 台座はコロコロと小さな音を立てながら舞台の中央まで進むと、そこでピタリと止まった。

 スポットライトが、台座の上に鎮座した今回の主役に当たる。


 片手の手のひらに乗りそうな小さな石の塊が、てらてらと光沢を放つビロード生地の上に鎮座していた。


「こちら……。某帝国にて、デビューしたての幼い冒険者たちが、古代遺跡にて発見した世にも貴重な『ストーンボックス』でございます!」


 オークショニアの説明の後に、会場に押し殺したざわめきが広がる。


「ああ、あれが……」

「例のちびっ子冒険者たちが発見したという、石の古代遺品シリーズの第二弾」

「前回のオークションでは『ストーンブック』が10000万Gで落札されたそうよ」

「じゃあ、今回も……」

「いよいよよね……」

「いよいよだな……」


 ダン! ダン!


 シワ一つ無い燕尾服を隙なく着こなしたオークショニアは、年代物の木槌――ガベル――を高く振り上げ、これまた年代物の打撃板――サウンドブロック――に二度、強く叩きつける。


 参加者たちの注目を集めるため、浮足立つ会場の空気を引き締めるために、オークショニアは手に馴染んだガベルを高々と掲げる。

 そして、大仰な仕草でガベル振り下ろすと、高級蜜蝋ワックスで磨かれ、艷やかな光沢を放つサウンドブロックを叩いて鳴らす。

 

 会場の隅々にまで響き渡る高らかな乾いた音に、着飾った人々は、夢から覚めたかのようにはっと息を呑んだ。


 ダン!


 そして、最後にもう一度、木が叩かれる音が高らかに鳴り響く。

 その音に導かれ、オークション参加者の視線が自然と舞台へ集まった。


 ビロードの生地の上には、石でできた箱……いや、箱の石彫が鎮座していた。


「こちら……まるで本物の箱のようではありますが、間違いなく、石でできたものでございます。石の種類は鑑定の結果、世にも珍しい代理石と判明いたしました。魔力も微量ながら含有しており、間違いなく、用途不明の古代遺品になります」


 静かなざわめきが、驚きとなって波紋のように広がっていく。

 ここに集う人々に『代理石』がどのようなものであるか、いかに貴重な石であるか、という説明は不要だろう。

 場がしらけるだけだ。


「まあ、あの貴重な代理石ですって!」

「見たこともない古代遺品だ!」

「なんて、緻密で精巧な彫刻なの……」


 今日、この場に集った仮面の貴人たちは、声を潜めてさわさわと囁きあう。


「魔石や宝玉が使用されていたら、もっと素晴らしいものとなったのに……」

「ええ。残念ですわ……」

「でも、あの彫刻、素晴らしい細工ですわ。今の細工師にこれだけの仕事ができるかしら」

「さすが古代遺品ですわね」

「なにに使用したのかしら?」

「小物入れ……かな」

「アクセサリーをしまうには……少し小ぶりですわね」

「石ということは、普通の装飾箱よりも重いのかしら?」


 パートナーと共に参加した者たちは、競売人の解説を聞きながら、舞台に華々しく登場した出品物の品定めを愉しむ。

 今回のオークションは私語が多く、ことあるごとに会場がざわざわと震えている。


 参加者はチラチラと会場内に視線を走らせながら、舞台に登場した『ストーンボックス』を観察する。

 口元を扇や手で上品に隠しながら、マナー違反とならないギリギリの声量で、感想を早口で語り合う。

 この緊張……スリルがたまらないと、参加者たちは口を揃えて言う。


「ねえ、ねえ。やっぱり、今回はいらしていないみたいよ?」

「ほんと。カタログを見たときは、ちょっと期待したのに……」

「ああっ。『黄金に輝く美青年』様が、今回もいらっしゃると思っていたのに……」

「あきらめるのはまだ早いわよ」

「人混みで見えないだけじゃないかしら?」

「あれだけ素敵な方なら、どこにいらしてもすぐにわかるわよ」


(やれやれ……)


 ガベルはため息をつく。


(おい、どうした相棒? 元気がないじゃないか?)


 パートナーであるサウンドブロックがガベルに小声で語りかける。


 隣人にしか聞こえない声での会話も、この会場の支配者でもあるガベルとサウンドブロックの耳は、ひとつも漏らさずしっかりと捕らえている。

 そして、いつもとは違う空気の流れも感じ取っていた。


(今日のオークションは荒れているな……って思ってな)

(そうだな……なんか……異様な熱気というか、ちょっと普通じゃないよな)


 ガベルの指摘に、サウンドブロックは大きく頷いた。

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