第30話 〜大きな寂れたゆうえんち〜

「ふぅー。2日連続意味わからんヤツと連戦とはなぁ……それにしても、アイツが言ってたの、どういうことなんだ?」


 ミトが消えていく前に放った謎の文言。彼女が言う、「ヤベー奴」とは何を指すのだろうか?

 号外が刷られるほど騒がれていたナイトホーク団のことなのか、とんでもない魔物が潜んでいるのか、それとも……。一度大人しく街に戻り、犯罪者でも探した方がいいのか。色々悩んだ末、リュウゴは結局さらに山を調査することにした……ご飯を食べてから。


「ふぅ……休憩も兼ねて雑談配信でもやるか。ちょうど小腹も空いてきたところだしな。たまには平和な配信もいいだろ」


 リュウゴは慣れた手つきで配信を開始する。と言っても、アプリを起動してボタンを色々とタップし、マイクなどを装着するだけなのだが。ちょうどいい切り株に腰掛け、リュックから水と食事を取り出して画面を見ていると、すぐに視聴者が集まってきた。



カーゴパンツ「わこつー!」

コタロウ「配信きたー!」

法蓮草「わこ!」



「おお、早速! やっぱゴールデンウィークって感じだなぁ、もぐもぐ……」


 戦いでエネルギーを消費した身体に栄養がどんどん入り込んでくる。いくら若い肉体といえど腹が減っては戦はできぬ、リュウゴは手にした食料に次々とかぶりつく。


「さっきさぁー、変な奴と戦ってたんだけどマジ疲れたわぁ。身体っつーより頭の方が疲れちゃった」



カーゴパンツ「それはやばそう……」

豚カルビ「そういう奴最近多いって聞くわ」

リュウゴ好き好きガール「草」


「そうそう! マジでやばかったからね、自分のことコウモリだと思い込んでそうなおっさんとか、アウトローな女とか。ちょっと厄介ですレベルの魔物の方が全然マシだわ! ま、春になるとそういうのが増えるイメージだわ。毎年」


 リュウゴは惰性で視聴者との雑談を続ける。会話を続けてくれるコメント、リュウゴをイジってくるコメント、始めて見に来てくれた人のコメント……持ち前のトークスキルでどんどんコメントも視聴者数も増えてきた頃、不思議と目に留まるコメントが流れてきた。



-「ちかくに男の子いる」



「……男の子?」


 こんな街はずれの山の中に子どもだと? 辺りを見回してもそれらしき人は見当たらないし、第一聞こえてるのは動物の鳴き声と草木が揺れる音だけだ。正直、怖がらせ目的のコメントなんだろう……そう何度も感じるたびに、なぜかその文言はリュウゴの好奇心を刺激してくる。


「男の子いるってマジ? どこにいる?」


 つい、視聴者に問いかけた。だが、他の視聴者も子どもなんていないと書くばかりで、リュウゴも再度周りを確認するも他の人影などどこにも見当たらない。名前欄もハイフンだけだし、捨て垢からのイタズラなんだろう……そう思いアカウントをブロックしようと画面に目を向けた瞬間、リュウゴの後ろにはもう1つの顔があった。


「う、うわぁぁぁ!」


「あ、おどろかせちゃったね……おにーちゃん、ゴメン……」


「あ、いやいやいや! 大丈夫よ、大丈夫! それより……」


 あのコメントの通り、確かに小さな男児の姿がそこにあった。見たところ服は泥だらけ、靴には穴か空いているし、髪もグシャグシャ。親とはぐれてここに迷い込んでしまったのだろうか? それにしては全身ボロボロだが……リュウゴは男児に事情を聞こうとするも、彼は全く何も答えようとしない。ただリュウゴの手を握り、こっちこっちとか弱い力で腕を引っ張ってくるのみだ。


「おにーちゃん。こっち!」


「坊や……山を降りるならあっちだよ。警察も呼んで、親と連絡取ってもらおう。ご飯なら残ってるけど、アレルギーとかない?」


「ちがう。あそんでほしいの、こっち!」


「え、ちょちょちょ、ちょっと……!」


 リュウゴは無理やり、木々が生い茂る山奥へと引っ張られる。それは男児にというより、何かもっと恐ろしい何かに吸い寄せられるようだった。もはやリュウゴも抵抗することすらできないまま、暗い暗い世界へと足を踏み入れていくしかできなくなった。


「コラ、そっちは危ないよ! 明らかに開拓されてないというか……クマとかいたらどうするの!」


「だいじょうぶ! こっちにきたら、おにーちゃんもたのしいから!」


「いや、楽しいとかじゃなくて危ないんだって! こら、お兄ちゃんも怒っちゃうよ……!」


 男児に注意をしようとも、その足が止まることは決してない。ただ深い深い茂みの中を進んでいき、もはやここに来る前の場所などとっくに見えなくなっていた。


 縦横無尽に張り巡らされた草木が織りなすバリケード、それは自然からの警告とすら認識できる。とっくに野生から離れた人間が決して立ち入ってはならない、触れてはならない存在がこの世にはあるのだ。


「ちょ、本当にやばいって! スマホも圏外になってるし……いい加減にしないとマジで…………ん?」


「ほら、おにーちゃん見て! ゆうえんちだよ、すごいでしょ!」


「遊園地……? 山の中の公園的な感じか……?」


 男児が指差す方を見てみると、確かに看板にはゆうえんち、という文字が掘られた看板があった。長い間雨ざらしになっていたからか、文字も言われてそう読めるぐらいにはオンボロになった看板が無造作に立てられている。


「おにーちゃんもあそびたいでしょ? いっしょにいこ!」


「……いや、これはちょっと、さ…………」


 よく考えれば、山の中にこんな場所があるなんてありえない。もしやこの男児は魔物で、リュウゴを騙して喰ってやろうとでも企んでいるのかもしれない。確実におかしい。確実にここに入ってはならない。リュウゴはバレないように少しずつ後ずさりする。だけども、入ってみたい気持ちもある。怖いもの見たさというか、成長とともに失われた好奇心というか……。


 脳裏に天使と悪魔が現れる。逃げるべきだ、入っちまうぜ……背反する言葉を投げかけてくる。こんなの決まってるだろ、入るなんてありえない、いますぐ逃げよう!


 リュウゴは遊園地に背を向け、ダッシュで来た道を戻ろうと試みる。だけどもこのときに限って転んでしまって、立ち上がったときになぜかリュウゴは……遊園地の、ゲートをくぐっていた。


 

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