特殊能力:ハコミエール

ハルカ

ヴィトンの箱の中身が財布ではなくメモ帳だったとき、私は父に殺意を抱いた

 私の父はとても無神経な人で、たびたび家族に「逆サプライズ」をした。


 あるとき父から美味しそうなお菓子の箱をもらって喜んで開けると、中身はただの文房具だったことがあった。使わなくなった文具をくれようとしたが、手頃だったので自分で食べたお菓子の空き箱に入れたのだそうだ。


 またあるときは、パズルの箱をもらってワクワクしながら開けてみたら中身は参考書だったこともあった。それは父の知人の息子さんが使っていたもので、大学に合格して不要になったらしい。パズルは父が昔作ったやつの空き箱だった。


 そうやって何度もぬか喜びさせられた私を、神様が哀れに思ったのだろうか。

 いつしか私は不思議な能力を得ていた。ふれなくても文字通り「手に取るように」箱の中身がわかるのだ。


 私はこの能力を「ハコミエール」と名付け、役に立てている。

 一番便利なのは福袋ならぬ「福箱」を買うときだ。ブラインド商品も欲しいものをピタリと当てることができる。

 また、底上げして中身を多く見せている商品だってお見通しだ。


 不透明な箱の中身がわかるのは地味に便利だ。

 おかげで私の部屋は「見せない収納」でスッキリ片付いているし、探し物をするときもこの能力が役立つ。

 それに食べかけの食品やティッシュなどの残量がわかるのも地味に便利だ。


 だけど、この能力のせいで少しだけ困ることもあった。


 ある日、私は恋人に誘われてレストランで食事をしていた。

 食後に化粧を直して戻ってくると、テーブルの上に小さな箱があった。気になって中身をハコミエールした私は息を呑んだ。

 指輪だ。彼は今日、ここで私にプロポーズをするつもりなのだ。


「あっ、あのさ……実は大事な話があるんだ」


 そう切り出した彼はひどく緊張しているようだった。

 でも、残念ながら私はこのあと彼がどんな話をするのか見当がついている。

 ハコミエールは私を逆サプライズから救ってくれたけれど、どうやらサプライズの喜びも奪ってしまったようだ。

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