第44話 復活配信
「人類不適合者の皆さん、おはようございます。万年Bランク探索者、通称死体回収人のウタです。七月四日木曜日、朝からお仕事やります。最終目標は死体回収ですが、今日はそこまで行きません。探索がメインになります。さて、私は現在、紅月のダンジョン、地下八十八階の転移陣の間にいます」
流歌が配信を開始すると、早速リスナーが集まり始めた。今日は平日で、しかも朝の忙しい時間にも関わらず、見に来る人はいるらしい。
:嘘嘘嘘!? 本当にウタちゃん!? 生きてたの!?
:本当に本物のウタちゃん!? もう会えないかと思った! 生きててよがっだああああああああああ!
:行方不明になってからどうしてたの!? 何があったの!? 他の皆は!?
:ウタちゃん、本人確認のためにちょっと仮面取ってみて!
「顔出ししたことないので、仮面を取っても本人確認にはなりませんよ。それで、詳しい話は探索者協会から公式の発表があるはずですが、簡単にあの日のことを説明しますね。
ニュースにもなっていたようですが、私たちはダンジョン一階に仕掛けられていた転移トラップに引っかかりました。飛ばされた先はそれぞれ違っていたようですが、私も地下九十階以降のある階層に転移しました。敵が強く、地上に帰ってくるのに一ヶ月以上かかってしまいましたね。スマホを一時的に使用不能にする効果もあったようで、連絡が取れませんでした。
そして、他の皆が転移した階層は、ひとまずわかっています。ジンさん地下九十三階、ゴウケンさん地下九十一階、ハクアさん地下九十二階、ヨルさん地下九十五階、その他のゴウケンさんのパーティーメンバーは地下九十階、ヒカリさん地下五十四階です。どうやってそれを知ったかについては、機密情報が絡むのでここでは言えません。
転移した後、私以外の皆がどうなったのかはよくわかりません。ただ、一ヶ月も帰ってきていないということは、全員、今は死んでしまっているのでしょう。私だけ帰還したことになりまして、ヒカリさんを除き、皆の死体を回収するよう、探索者協会から依頼が入りました。ヒカリさんについては、階層がわかれば他の者が探しに行けるということで、協会に捜索を託しています」
:ウタちゃんだけでもよく無事で帰ってきた! 良かった!
:帰ってきて早々また死体回収って、忙しすぎる。ちょっと休んでもいいんだよ? 数日の違いで救える救えないが変わるわけでもないし。
:もしかして、送られた階層がその人の強さを示してない? ヨルちゃんが一番強いってこと? ウタちゃんは何階に行ったの?
:なんでヒカリさんは地下五十四階? 強さで言うならせいぜい地下一桁階じゃね?
「協会の方にも少し休んでいいとは言われましたが、私は大丈夫です。送られた階層がその人の強さを示す、というのも間違いではないでしょう。ヨルさんが一番強かったんですかね? 私が送られた階層は……まだ秘密です。ヒカリさんが地下五十四階なのは……まぁ、この話はしても問題ないでしょうか。
どうやら聖女スキルを持つ者は、レベル一でレベル五十相当の力がある、ということのようですね。トラップ的にも、そういう判定をされたようです。そして、聖女には専用武器が存在して、地下五十階以降くらいの探索をすると、ドロップアイテムとして専用武器が手に入るそうです。それを使えば普通に探索者として活動できるんだとか。そういう影響で、今回の転移トラップでは地下五十四階に飛ばされてしまいました」
:ちょっと待って、今さらっと聖女についての新情報流した?
:世界的にも新情報じゃない? 聖女って回復専門じゃないんだ?
:今の伝聞情報だったよね? 誰に聞いたん? もしくはダンジョンの攻略本的なものでも見つけた?
:誰かに聞いたってことなら、ダンジョン内に知性のある生命体がいたってこと? まさかの異世界人発見!?
「あー……えー……色々と疑問はあると思いますが、協会の公式発表を待ってください。私の一存で勝手に話せる内容ではありません。とにかく、私は今日からしばらく、皆さんの死体回収のために働きます」
:えー! めっちゃ気になる! どうなってるの!? ウタちゃん、何を見てきたの!?
:誰にも言わないから、ここでこそっと教えてよ。今ならまだ同接百人くらいだし。
:ダンジョン内に異世界人がいたとしたら、これはものすごい新発見だ。
:猫耳獣人とかいた!? エルフは!? ドワーフは!?
「あのー、本当にそういうのはまだお話できないので、ご想像にお任せします。ところで、今日は平日ですけど、学校とかお仕事とか、いいんですか?」
:今風邪を引いたから、仕事は休み。
:ごほ、ごほ、ごほ……。ウタちゃんがいない間に、ちょっとタチの悪い風邪が流行っててね、俺もお休みなんだ。
:自営業だから問題なし。
:学校は爆破予告で休校になった!
「……まぁ、それぞれの生活に支障のない範囲でご視聴ください。あまりだらだら話している状況でもないので、そろそろ探索に移ります。今日は特に死体とかは映らないでしょうが、最終的には映ることになるはずです。ご視聴は自己責任でお願いしますね」
流歌は転移陣の間から外に出て、気分的にはつい先日訪れた空中庭園の階層へ。
:死体が映るって言っても、もう白骨化してるだろ。
:ゲチャグロではないと思う。
:油断するな。行方不明から一ヶ月後、呪いで変形した状態で死体が見つかったこともあった。
:死体回収も大事だけど、とにかく異世界人について聞きたい。
「……聖女専用武器については、話すべきではありませんでしたね。少し口が滑りました。忘れてください。これ以降は話題にしません」
うっかり、変な匂わせのようなことをしてしまった。異世界の住人について、いつまでも隠し続けられることではないだろうが、安易に存在をほのめかすべきではなかった。
「……ああ、あと、全く話は変わりますけど、一つ、これだけ言っておきます。転移トラップを仕掛けた犯人を、私は決して許しません。いつか必ず捕まえます。覚悟してくださいね」
:おお……ウタちゃんが怖い……。
:ウタちゃんを怒らせるなんて相当だぞ……。
:よほど酷いものを見たんだな。犯人、マジで覚悟したほうがいい。
:バカなことをしたもんだ。敵に回してはいけない相手を敵に回した。
「……さて、じゃあ、お仕事を始めましょう」
流歌は、地下八十八階に足を踏み入れた。
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