第23話 ミンチ肉

 * * *


:ウタ姫やりました! ドラゴンを見事に討伐です!


:おめでとう!


:まだ終わったわけじゃないけどおめでとう!


:あとは鬼丸さんの死体を回収するだけだ!


:それが難しい。


:なお、まだ神代君は猿と戦ってる模様。


:あの猿、一度逃げようとしたくせにしぶとい。


:でも、たぶんそろそろ決着付く。


:ところで、ウタちゃん、さっき何した? 翼が生えたの何?


:もはや剣術では説明のつかない特殊スキル。


:元々、剣術とは全く別のスキルを持ってるって話?


:よくわからんけど、翼が生えると力が増すのかな? だとしたら、 始めから使ってさっさと倒しておけば良かったんじゃねーの?


:ドラゴンに上空に運ばれたときにはドキッとしたけど、演出されたピンチだと思うとちょっとな。


:まだアンチが潜んでたか。ウタちゃんがそんな姑息な真似するわけないだろ。


:たぶん、使いたくない理由があったんだよ。


:なんで使いたくないん? 変身で一時肌が露出しちゃう、魔法少女みたいな演出でもあんの?


:配信慣れして、自然に演出入れちゃっただけじゃね?


:神代君もそういうところあるしな。


:あっちはエンタメとしてあえて芝居がかったこともしてるから、まぁそういうもんだって感じ。


:演出じゃない風を装う演出は萎える。


:ステマで萎えるのと同じ。


:まだ移動中のハクアです。探索者は探索者狩りなどに狙われる可能性があります。その対策で、高ランクの探索者は公表しない奥の手をいくつか持っておきます。全てを見せてしまうと、対策を練られて殺される危険が高まります。


:Sランク探索者のハクアちゃん!?


:ご本人様!?


:ハクアです。本人です。


:ついにウタちゃんがハクアちゃんにも認知されたか。


:わたしは前々からウタさんを知っていますよ。普通にファンです。


:ハクアちゃんがウタちゃんのファン宣言!


:修羅場の予感がするのは俺だけか?


:落ち着け。紳士はただ静かに見守るのみだ。


:ハクアさんは、ウタ姫をどのくらい好きなんですか?


:ヒカリちゃんが動き出した!


:どうする、ハクアちゃん。


:ハクアです。わたしは常々ウタさんと一緒に探索したいと思っていました。実力もはっきり見られましたし、直接お会いできるいい機会なので、誘ってみようと思います。


:ダメです。ウタ姫との探索は認められません。今すぐお帰りください。


:ハクアです。ヒカリさんのことも存じていますが、あなたはウタさんのなんなのでしょう?


:わたしはウタ姫の妻です。


:ハクアです。わかりました。では、わたしはウタさんの義妹です。お義姉さん、どうぞよろしくお願いします。


:ウタ姫の義妹、ですか? うーん……よろしくお願いします……?


:ヒカリちゃんが反応に困ってる。


:もしや、ハクアちゃんも結構天然か?


:神代君が猿を倒した。後は鬼丸さんの死体を取り出すだけだな!


:またトラウマ配信が始まるぞ。覚悟しろ。



 * * *



 流歌は地上に降り立って、すぐに戦乙女ヴァルキリーを解除。リスナーに見られてしまったのは好ましいことではないが、死ぬよりはマシ。それに、奥の手は他にもあるので、いつまでも気に病むことではない。



「さて、ジンさんの方は……おっと」



 流歌は神代が戦っている方を向こうとして、少しよろけてしまう。赤竜と激しく戦い、最後には奥の手まで使ったせいで、魔力も体力も危うくなっている。


 流歌は腰のポーチから中級の回復薬と魔力回復薬を取り出す。二つとも透明なパウチに入っていて、量は百ミリリットルほど。体力を回復したり傷を治したりする回復薬の方は青く、もう一つの方は赤い。


 それを二つともさくっと飲んで、帰り道分の体力と魔力を回復。なお、二つともお値段が三万円するので、気軽に飲めるものではない。



「……これも経費としてゴウケンさんに請求したいところですね。それで、ジンさんの方はもう終わりましたか?」



 神代は、三百メートルくらい離れた場所でまだ鬼猿と戦っていた。とはいえ、鬼猿は既に満身創痍で、神代の勝利はほぼ確定状態。



「あの鬼猿、意外としぶとかったんですね。真っ先に逃げようとしたのは、死にそうだったからではなく、戦っても勝てないと見極めたからでしょうか。なかなか賢い魔物です。普通の魔物は、まだまだ戦えるという状況ではまず逃げません」



 流歌は、一応加勢することも考慮して、神代に近づく。


 そうする間に、ジンは鬼猿の頭を炎で焼き尽くした。鬼猿が倒れる。



「お疲れ様です、ジンさん」


「おお、ウタさんもお疲れ! 赤竜を倒してくれてありがとう! あんまり見てる余裕はなかったけど、怪我はない?」


「まぁ、大丈夫です。ジンさんもご無事で何より。鬼猿、意外と強かったですか?」


「強かったねぇ。死ぬかと思ったよ」


「それにしては、無傷のようですが」


「俺は物理攻撃をある程度無効化できるもんでね。でも、限界はあるから、結構ぎりぎりだった。それはそうと……ゴウケンさんの死体を回収しなきゃだよねぇ……」



 神代は随分と渋い顔をしている。



「ジンさん、死体は苦手ですか?」


「苦手だよ。むしろ、得意な人なんているの?」


「まぁ、私はだいたい平気です。それと、私が懇意にしてる聖女さんも割と平気です」


「それはすごいな……。悪いけど、回収はそっちに任せていい?」


「構いません」


「じゃあ、あっちの死体は俺が回収するよ」


「お願いします」



 神代は、まだ死体が原型を留めている者たちの方へ歩いていく。


 その間に鬼猿の体が消滅し、魔石とドロップ品の毛皮、そして鬼丸さんたちのミンチ肉が残った。


 筋肉、臓器、骨、歯、皮膚、眼球、粘膜、毛髪、体毛、などなどがぐちゃぐちゃになった状態で地面に転がっており、モザイク魔法でも欲しくなる惨状になっていた。

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