箱男【KAC20243】

藤澤勇樹

第1話 一郎、現実世界から完全に遠ざかる

鈴木一郎、25歳。彼は極度の引っ込み思案で、社会との接点を持てずにいた。


毎日、自宅のアパートで過ごす日々。時折、妹の真美が様子を見に来るくらいが、外部との唯一の接点だった。


「お兄ちゃん、少しは外に出たら?」


妹の真美が心配そうに尋ねる。


「外は怖いんだ。俺にはこの部屋があれば十分だよ」


と一郎は答える。


ある日、一郎はアパートの前で大きな箱を見つけた。


それは、まるで一郎を誘うかのようにそこにあった。何かに引き寄せられるように、一郎は箱を部屋に運び込む。


「これは、俺のための箱なのかもしれない」


一郎はそう呟いた。


次の日から、一郎は箱の中で過ごすようになった。


外の世界から遮断された、狭くて暗い空間。しかし一郎にとって、その空間は安心できる場所だった。現実の重圧から解放された、自分だけの世界。


「ここなら、誰にも邪魔されない」


一郎は満足げに呟いた。


日が経つにつれ、一郎は箱の中で想像上の友人を作り出すようになった。


「ボックス」と名付けられたその友人は、一郎の孤独を埋めるかのように、一郎と会話を楽しんだ。


「一郎、君はここにいればいい。外の世界は君を傷つけるだけだ」


ボックスが言う。


「そうだね。ボックス。君がいれば、俺には何も必要ない」


と一郎は答える。


一郎は、現実世界から完全に遠ざかっていった。


真美が呼びかけても、もう一郎は答えない。一郎の世界は、箱の中だけに存在していた。


「お兄ちゃん、お願い、箱から出てきて!」


真美が叫ぶが、一郎には届かない。


友人のボックスが言うのだ。


「君には、もう外の世界は必要ない」と。


一郎は、ボックスの言葉を信じ込むようになっていた。


果たして一郎は、この箱の中の世界から抜け出すことができるのだろうか。


真美の思いは、一郎に届くのだろうか。


箱の中で、一郎の心の葛藤が続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る