オルゴール
あぷちろ
窓際にひとり
私の部屋にはとある小箱がある。
結論から言ってしまえばそれはオルゴールで、昔もらった贈り物であった。
藍色の天板の内側にはコスモスの陶板画が取り付けられ、蓋をあけるとぜんまいと連動して小鳥の置物がゆっくりと回転する仕組みだ。
幼い時に遠縁の親戚がヨーロッパ旅行の土産として、私に手渡したものだった。
試しに蓋をあけて油のきれかかったぜんまいを捲く。指先に時代の重さを感じながらぎりぎりと回しきると、柔らかな高音から音楽が始まった。
すると、遠い異国の聞きなれないメロディは耳を傾けるだけで知らない国へと私をいざなってくれる。
私にこの小箱を手渡した遠縁の親戚の、彼女は元気にしているだろうか。多くの国をリュック一つで世界各国を飛び回る根無し草の彼女は、定期的に唯一の親戚である父に会いに来る。
その時にはいつも私を呼び立てて、故の分からぬ土産物を手渡しては去っていく。毎回違ったものを渡してくるが、その大抵はガラクタだ。
時折、このオルゴールのように”ちゃんとした”お土産もあって、そういったものは自室に飾っていた。
彼女から渡された土産物の中でも、このオルゴールはお気に入りの一品だった。
くるみ製の外箱には色とりどりの色石が散りばめられ、花の模様が彫刻され縁取りがなされている。このオルゴールの面白いところといえば、異国の曲ともう一つ。
私は陶板画が張り付いている天板の隙間に爪を差し込み、手前に陶板画を引き起こす。その部分が外れて中から一枚の紙片が舞い出る。
一枚のポラロイド写真の、色あせた印刷面には二人の女性が写っている。
一人はセーラー服に身を包んだ少女--私である。
もう一人は妙齢のベースボールキャップを被った闊達そうな女性--件の親戚の彼女だ。
この写真は彼女と私が写った唯一の写真だ。彼女とは連絡を取れなくなってもう十数年となる。
彼女は何をしているのだろうか、
私は写真を眺めながらオルゴールの曲に耳を傾ける。
もし、再開できるのであれば貴女とこの曲が生まれた街を歩いてみたい。
オルゴール あぷちろ @aputiro
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