照継修行の旅にでる
毛利家の当主毛利興元が急死したことによる情報は半年遅れながら武田陣営に伝わった。
武田家は毛利家がまだ2歳の子供を当主に、後見人も初陣もしていない20歳の元就と美味しい獲物にしか見えない。
しかも武田家は元々安芸国の守護代なので安芸国の統治をするのが筋であり、大義名分は武田にある。
武田はまず吉川家に奪われた有田城の奪還に兵を向ける。
日和見が得意の国人達は武田の方が有利と見るや国人一揆の誓いを紙切れの様に破り、武田側に立つ事を表明。
永正14年10月(1517年)
安芸武田氏挙兵、それに呼応して国人達も集まり勢力は5500まで膨れ上がる。
「元就様」
「照継か」
「諸々の動きを調べて参りました。まず朗報です。尼子は動かず」
「よし、希望が見えた」
「次に吉川殿ですが有田城には300程の兵数しか居らず、有田救援に兵700程を集めた様です」
「こちらと合わせて1700、有田城の兵を合わせると2000か」
「元就様、どう動きますか?」
「私を囮としよう。照継、吉川には後詰めとして来るように伝えよ、毛利家単独で武田を殺る」
「危険です!」
「照継、武田元繁をここで討つぞ」
「……その為の囮ですか?」
「ああ、照継全力で暴れろ」
「わかりました。返り血にて化粧をしてごらんいれます」
照継が吉川家に毛利家が主体となって今回の戦を何とかすると伝え、毛利の覚悟を見ると言われたが、吉川家の当主である吉川元経は武田の大軍に勝てる策が思い付かず、毛利の策に乗ることにしただけだった。
照継は書状を届けすぐに多治比猿掛城下に戻ると武芸に才があると育てた10名の供回りと妖怪の仲間達に弓を持たせ、自身は特注の太刀と馬に乗って出陣し、毛利軍に合流した。
毛利軍1000名対安芸武田軍5500名の戦いが始まった。
まず動いたのは武田であり、毛利領に侵攻してきていた別動隊約600名を多治比の村を襲わせ挑発行為を繰り返す。
明らかに毛利を釣り出す策であり、迎撃のために志道広良が150名を率いて撃退しようとするが、村が襲われているのに兵が150しか割けない毛利に別動隊大将の熊谷元直は失笑し、軍を一旦毛利領内から撤退する。
ただまだ挑発行為を続けようと本軍と多治比の間の川に陣を敷いた。
「よし、敵陣に急襲し、弓にて攻撃を開始しろ」
元就の号令にて武田軍の熊谷隊に対して攻撃を開始したが安芸武田家でも3本指に入る武将熊谷元直は毛利の攻撃の知らせを聞き。
「やれやれ、早くも釣れましたか、どれ初陣の若造に戦い方を教えてやりますか」
ここで熊谷元直は正面から毛利隊を相手する選択を取る。
後方に武田本隊があり、ここで足止めすれば本隊が救援に駆けつけるだろうと正しい判断をしていた。
ただ熊谷元直は見つけてしまう。
一際大きく目立つ旗印を身に付け、懸命に刀を振るう若い武将を
「毛利……元就!?」
熊谷元直は目の前に現れた大将首に欲が出てしまう。
「皆の衆あの旗印を狙え!」
熊谷自身も兵を呼応するために前に出る。
が、それこそ元就が狙っていた罠であった。
バスン
「「「「元直様!?」」」」
どこからともなく放たれた流れ矢が熊谷元直の額に突き刺さっていた。
大将を失ったことで熊谷隊は指揮系統を立て直すことができずに敗走し、次々に毛利の兵に討ち取られていった。
「元就様、淡やりました!」
「よくやったぞ淡、後で可愛がってやるからな」
「えへへ」
元就の横で天狗のお面を被った弓兵を元就は誉めていた。
元就自身も妖怪を使役できるほどの妖力を身に付け、天狗を好んで仲間にしていた。
今回の戦にも元就の供回りや偵察として参加しており、人では引くのが難しい五人張り(4人が弓を曲げ、1人が弓を引くという運用を本来する強弓)を使い、普通では届かない位置から熊谷元直を狙撃した。
天狗は風を操る力を持っており、弓の腕も強く、今回の荒業に繋がる。
熊谷元直の戦死の報はすぐさま武田元繁の耳に入り、これに激怒。
短気だが猛将……西項羽(中華の名将)と呼ばれるくらい戦上手と知られる彼だが、自身の右腕の熊谷元直を討たれたと知ると3000の兵を率いて毛利軍に突撃を敢行。
「元就様をお守りするのだ!!」
馬から降り、突撃してきた雑兵を片っ端から血祭りにあげていく照継。
馬上で指揮をしていた者を馬ごと切断したりと妖怪退治で鍛えた豪腕で敵を薙ぎ倒していく。
照継の勇姿を見ていた部下や妖怪達も気合いを入れ武田軍を押し返す。
元就も頑張って耐えていたことで周りの家臣達は死ぬ気で敵の攻撃を耐える。
元就のことを皆あばら家に押し込められていた為乞食若殿と馬鹿にしていたのに、そんな若様が頑張っているのに己が逃げては武名が地に落ちるからである。
武田元繁は一向に毛利が崩れないのに対して苛立ちが最高潮に達した時、元就が周りの兵を鼓舞するの姿を目撃してしまう。
「もうりぃぃぃ!」
己が大将であることを忘れ、自ら突撃してしまったのだ。
川の真ん中付近で更に馬上……弓兵にとって絶好の鴨であった。
元就が伏せていた弓兵に合図を送り、弓兵は武田元繁に弓の雨を降らせた。
「う、うぐ!」
避けることもできなかった武田元繁は大量の弓を全身に受け、川に落馬するとそのまま流されてしまい溺死。
大将格が立て続けに死んでしまったことで武田軍は崩壊。
川から逃げようとするのを毛利家と後詰めできた吉川軍、更に有田城から戦の様子を見ていた城兵達も討って出て武田軍を包囲、結果生き延びた武田兵は最初5500だったのに対して1000を切る大敗をしてしまう。
結果武田家は勢力を縮小するものの依然兵3000を養える勢力を維持。
毛利元就は中国地方で武名を名を轟かせ、毛利家の手形の価値は跳ね上がり、それを回収していた宮永照継は5000貫以上の資金を回収することに成功する。
また照継自身も武将首2つ、雑兵は単独で50名も殺し、大暴れしたことにより全身に返り血で赤く染めた事から
「毛利は鬼を飼っている。照継と名乗る赤鬼を」
赤鬼と呼ばれる様になる。
照継以外にも元就の腹違いの弟である元綱は今義経と呼ばれる格好いい渾名を貰っていたり。
ただ一番名を挙げたのは大将である毛利元就であり、武田討伐を命令した京にいる大内義興、裏で武田を暴走させていた尼子経久はこれを高く評価した。
尼子経久は直ぐに行動し、親族関係にあった吉川と接触。
鬼吉川ここにありと評価し、大内は命令するばかりでこのままでは使い潰されるぞと脅して飴と鞭で懐柔、更に多額の銀を積まれたことで懐柔に応じてつい先日まで大内配下として振る舞っていたのに鞍替え。
毛利家も尼子に鞍替えするように促す。
更に毛利元就を大内、尼子両家が高く評価するのが気にくわない高橋家は高橋久光が幸松丸の後見人であることを理由に毛利家に介入してくる始末。
更に家臣達も大内派の井上一族と尼子派の渡辺一族が対立を激化。
それぞれが繋がっている陣営に高く毛利を売り込もうと必死に行動していた。
戦いに勝ったのに家臣と外圧から分裂しかけるという恐ろしい状況に陥っていた。
更に天狗達とおせっせして性欲を抑えているが、家臣達や外部は妖怪相手に楽しんでいるとは知らず、婚姻を早く結ぶようにせっついてくる。
「はぁ、皆めちゃくちゃいってくるぜ……なぁ照継」
「それだけ毛利の名が広まったということでしょう。元就様、まずは今回の戦で武田の名が落ちました。まあ尼子経久にとってはそれも織り込み済みだったのでしょうがな」
「調略……いや、謀略か。さすが謀聖と呼ばれるだけあるな」
「毛利はこの度の戦で名声は得ましたが、土地は結局のところ有田城を取り戻したのみでございます。その有田の土地も吉川の土地故に毛利家は何も得ておりませぬからなぁ」
「勝ってなお弱者のままとはなぁ」
「して、尼子に付くとなると尼子側の嫁を取らねばなりますまい。どこから取るおつもりで?」
「吉川国経の娘を貰い受けることにした。現状どこの嫁を取っても反対意見が出るからな。ならば近場の国人との縁を活かすべきだろう」
「それがよろしいかと……と、暗い話はここまでで、少し私は旅に出ようかと思います」
「はぁ!? 照継、今毛利は危機的状況なのだぞ!」
「危機的だからです。現状を打開するために妖怪や神々の力を借りねばなりませぬ。その為に力ある妖怪を仲間にしたいのと、自身の知見を広めとうございます」
「……はぁ、照継の知見の広さ、特に農業に関しては飛び抜けていると思うがな」
「それだけでは駄目なのですよ。今後毛利を支える以上、私自身が成長しなければならないのです。どうかお願いします」
「わかった。ただ職を投げて出ていくのだから知行は没収するぞ」
「構いません。ただ椎茸栽培や養蜂、養蚕の技術は秘匿には十分注意してくだされ。彼らの利益は毛利元就様に届きます。毛利本家ではございませんのでね」
こうして知見を広める為にと照継は嫁達や妖怪達も子育てがあるだろうと多治比の屋敷に置いて旅にでた
「さてうろ覚えの神話を頼りに各地を巡りましょうかね」
まず照継が向かったのは出雲と伯耆の国境にあるメンヘラ元人妻がいるとされる比婆山だった。
目的の神はイザナミ、女神として日本の国々を産んだ逸話が存在し、死後は日ノ本に災厄を起こす疫神として扱われることがある。
まぁ日本を作った神であり、愛が重いメンヘラ女であるが、多くの神々を産んだ女神である。
一応勇者の才を送られて別の女神に頼まれて転生した身(転生場所はミスっているが)……強力な女神を仲間にしたいという欲望を持って黄泉比良坂に向かった。
黄泉比良坂……黄泉へと続く道とされ、大岩が道を塞いでいる。
封印石にもなっており、黄泉のからの邪気、厄災を防いでいる岩であり壊す訳にはいなかい。
ただ冷たい霊気と呼べるものが漏れだしており、ここが黄泉に繋がっているのは確かだろう。
大岩を鍛えた肉体で押してみたところ人1人が頑張れば通れるだけの隙間を作ることに成功し、黄泉の国へいざゆかん。
結界で区切られていたのか大岩を登ったり、迂回して通っても何も無かったのに、大岩の隙間から侵入したら当たりが真っ暗となった。
凍えるように寒く、進むごとに霊気と寒さが増していく。
「照継! 照継! なぜお前がここに!」
「親父」
黄泉の国であるので死んだ今世の親父が居た。
首がプラプラと胴体にギリギリくっついており、身体中血まみれ傷だらけで矢も刺さっていたりしてとても痛々しい。
「親父、毛利の殿様の為にイザナミ様に会いに来た。イザナミ様はいるか?」
「い、イザナミ様じゃと! お前正気か!」
「うつけ(馬鹿者)だよ。イザナミ様を娶りに来た」
そういうと親父だけでなく周りの亡者達もざわつき出した。
どいつもこいつもゾンビ映画みたいな見た目をしているが腐臭がしないだけましだろう。
いや嗅覚が死んでいるのかもしれない。
黄泉の国に入ったことで霊体に近くなり五感が鈍くなっているのかもな。
親父が必死に止めてくるが俺は構わず奥へと進む。
歩くこと1時間……半身が溶け、半身からこけが生えた女がいた。
「お前がイザナミか?」
「いかにも。わらわに会いに来た生者の話は聞いておる。どれ、会った礼じゃ。食事でもだそう。黄泉の飯は旨いぞ」
「あいにく黄泉の飯や水は飲めねぇんだわ。黄泉の国で食べたり飲んだりすると亡者になっちまうからな」
「なんじゃ、知っておったのか……つまらんのぉ。しかし、わらわの姿を見て何も思わんのか? イザナギも逃げたした姿じゃが?」
「半分が美しければいけるだろ。崩れていてもそれもまた味ってもんだ」
「ククク、面白い小童だ。望みはなんだ?」
「国産みをして貰いたい。イザナミ、お前を抱かせろ」
「ククク、わははは! 凄まじいうつけ者だ! お前は! なめるなよ小童、私が愛するのはイザナギただ1人だ」
「ですよねぇ……まぁ知っていたんですけどね。ダメ元でいってみたんだけどねぇ」
「ただうつけぶりとここまで来た度胸に免じて我が分霊を娶る事を許そう」
パチンと指を鳴らすとおっぱいの大きな麿眉の美人さんが現れた
「こやつを連れていけ。わらわの分霊故に嫉妬深いぞ」
「あ、俺性欲やばすぎて1日20回はするから多分愛が足りないとかはないと思うぞ。妖怪や神も構わず孕ませてるし、人間の側室も5人いるし」
「ホッホッホ! 凄まじいな! 本当のうつけじゃ! 大うつけじゃ! これも持っていけ!」
「ずいぶんと気前が良いな」
「対等に話すのが楽しくてしょうがないのじゃ。イザナギの残したブドウの種じゃ。あやつが黄泉の民から逃げるために使った残りじゃな。これをやる……黄泉の国に次来る時を楽しみに待っておるぞ」
「あぁ、じゃあな!」
岩の隙間を通り、現世に戻ると神主が腰を抜かして驚いていた。
「よ、黄泉の国へと行っていたのか!!」
「あぁ、イザナミ様に会ってきた。少し会話をしたらこの子を嫁にくれた」
「美命と申します。旦那様を精一杯手助けしとうございます」
「黄泉の国について色々話そうじゃないか」
照継が神主に話した内容は後世書物として残され、照継の逸話黄泉でイザナミに謁見し、褒美に美女を貰い、正妻としたと伝わることとなる。
またこの時貰ったブドウの種を後々安芸に戻り植えたところ巨峰の様なブドウが実り、黄泉というブランド名で現世に続く安芸の名産品となることをまだ照継は知らない。
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