知ってた

第1話

「知っていると思うが、あの件は彼が犯人だったらしい」

「知らないが」

「…？」

「不思議そうな顔をするな。何の件だ、彼とは誰だ、犯人ということは何か事件があったのか？」

「おやおやおやおや、何も知らないじゃないか、君らしくない」

「俺らしさとは何だ。俺の何を知っているんだ」

「君のことならなんでも知っているさ。そうだな、今日のお昼ごはんは焼きそばパンだとか」

「今目の前で食ってるからな」

「それに、今日の体育のバレーで突き指したとか」

「その現場にお前もいたからな」

「どうだい？君のことなんでも知っているだろう？」

「浅いなぁー」

「む。そういうこと言うならもっと君のことを教えてくれよ」

「嫌だが。まだ知り合って3日なのに距離感の詰め方がおかしいんだよ」

「恥ずかしがり屋さんめ☆」

「それは否定しない。それで、結局何か事件があったのか？」

「事件なんて無いよ」

「は？」

「君に話しかけるための方便さ。知らなかっただろう？」

「知ってた」