権威への服従は権威が何かによるものである

「この手紙が本物か、ですか」


 そもそもの発言であれば新設貴族の手紙をたかがた貴族ごときが持っているのかという意味にも取れる明確な挑発行為。

 これを言ったのが貴族であればリリーナとて始末する方に動くであろうが相手は財閥の社長の一人でしかない。

 そして対応を見て良くて『お友達』。悪ければいらないと判斷した。

 どちらにせよ決してお友達になることはないだろうと。

 彼が売り込んできたときはニカラに任せていたがこのざまであればいらなかったかもしれない。

 この手の財閥の人間は自分が上になったと錯覚すればどこまでも無礼になり、傲慢になり、まるですべてが金銭で解決できると勘違いしているようであった。

 ウェラー公爵を見て勘違いしたのだろうか、金というものは手段の一つであってそれが最強の武器というわけではない。

 そうであれば疾うの昔にウェラー公爵は神聖帝国を買い上げているだろうに。


 ウェラー公爵という名家でも新設貴族でもない相手は恐れていてもリリーナ・シュツッテンファンベルクは恐ろしくないというのはリリーナからしたら良いことであった。相手が侮れば侮るほど勝ったときにどうなるか。

 どれだけ実績があっても舐めてくるものは舐めてくる。それをしてくる相手はたいてい愚かな人物であるのでとってもやりやすいものである。

 幼い自分を舐めてくれるのであればそれはそれで利用しがいがあるので本人としては望むところである。

 競馬で大穴が勝った際に1番人気を抑えていた連中はどうなるかというものは楽しいものである。リリーナは貴族として賭け事は嗜みとしてやっているが一番楽しいのは大穴を当てたときに莫大な金額を1番人気の単勝にかけて破滅する人間の先見性のなさと愚かさを見ることである。ただの賭け事として負けた人間は別段興味はない。

 必ず勝てると信じてすべてを注ぎ込み負けた瞬間に次の一手がなく終わる人間が本当の意味で終わってしまう姿は愚物な貴族とは名ばかりの連中が滅びる姿を見るようで彼女はそれを好んでいるのである。

 また彼女が好むのは一番人気を買わずに破滅する人間も好きではあった。今のイントツルスのように。


「ふふふ、まるであなたはこれが偽物のようなことをおっしゃいますね。もしかしてベッサ公爵の筆跡を知っているのですか?もしやお手紙をもらったことでも?」


 本物である手紙に猜疑を持つのであれば理由はあるのかと尋ねるもののイントツルスはあくまでそれが本物かわからないと言っただけである。

 それを偽物であると糾弾されたかのようにすり替えるのはリリーナも完全に降してしまおうと割り切ったのかもしれない。


「いえ、私のようなものが新設貴族の方からお手紙など……。せいぜい幹部の方くらいで……カルマン内務大臣からすらお手紙を頂いたことはございません」

「あら?では汚染土はどなたから?」

「ベガリア州のマンダード州副知事です」


 あらまぁ……そこまで信頼されていないということはこれはもうダメそうですね。

『お友達』になるかどうかの瀬戸際でイントツルスは明確なそれ以下に成り下がった。


「そうでしたの。それではほんとうの意味での首脳陣とのやり取りはないのですわね。それは残念……。まぁいいでしょう。私ができるのであればなんの意味もないことですからね。それではこれが本物であるかどうかは説明がいるのであれば仕方ありませんわね。オリバー来てくださる?」


 リリーナが呼びかけたのは佛跳牆を啜っていたオリバー。

 事実上も法的にもハリスン侯爵家と無関係とされたが貴族学院教師で翌年から帝都専門学校教師に就任が決まっているカールの兄である。

 佛跳牆を注文する際に金貨4枚(異世界通貨換算40万円)にドン引きしてスフレにしようとしたところをニカラやエスメラルダに窘められてたときとは違い、貴族的な風格と教師的な風格を纏い立ち上がってリリーナたちの席に歩いてきた。


「およびですか?リリーナ様」

「ええ、イントツルス氏がこの手紙がベッサ公爵のものではないとお疑いなの。証明してくださる?ああ、そうでしたわね……こちらにいるオリバーはカール・ベッサ公爵閣下の兄君ですの。法的には無関係の人間のようですが、法では家族間の愛情や信頼は破壊できないことはご存知だと思いますわ。もちろんそれが元からある場合はですが彼は今後何があろうが、世界が否定しようが兄として接する唯一の人物ですわ」


 きっぱり言ったリリーナはちくりとオリバーのことも知らないだろうから説明してあげようと貴族的に小馬鹿にしつつイントツルスを見ていた。


「兄弟仲がよろしいとは、意外ですな」


 義母に殺されかけてなおも兄弟仲がいいとは彼の価値観ではありえないことだった。表面上の話だろうと思い、実は不仲ではないかとも疑い、それでもそのような致命的な失言をすることは流石になかった。


「ええ、仲はいいですよ。法からは否定されましたが私のの家族ですからね」

「唯一ですか」

「ええ、法が許してもでしょうね」

「…………左様ですか」


 教育を重視する帝国で帝都専門学校で教師になることが決まっている、おそらくは新設貴族になる可能性の高い彼に関してはイントツルスは強く出ることは出来なかった。

 そしてその態度を見たリリーナはまたイントツルスへの評価を1段下げた。

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