採用!君が司令官!

「説得が難航しております」

「まぁ、そうか……そんなもんだよな。どっちの意味で?敵だからか?貴族だからか?」

「もう軍人は懲り懲りだと……」

「じゃあ……無理だな、うん」


俺も懲り懲りだしな、強要したくないぞ。俺がやられて嫌なことを他人にしたくはない。だからトーチャお前許さんぞ……。いや、あいつは自分がされて喜ぶことを他人が喜ぶと思って振りまいてるかもしれん。

騎士団員になってからやたらと臨時秘書やカルマンさんやアランが付けた人間がやたら恭しくなった。ただの上司から尊敬できる上司くらいのか?ドルバーニュ領都でも文官がなんか敬意持ってくれる感じには変わってたけどそれとはだいぶ違う態度だ。

これ騎士団員になるってことの重み、意外とあるな?


「よろしいのですか?」

「仕事の強要はよろしくない、うちで働いてるならまぁ……わかるが。今は勧誘だからな、したくないならしかたあるまい?」

「そうですか……」


あー欲しかったなぁ!攻戦に強い人材!あの体たらくじゃ……次になんかあったら俺は終わりだよ。


「兵の大半は領軍に入ってくれるそうです。なんとか1万人に戻せますね」

「前より増えるのではないか?」

「負傷退職もあるので9000人程度です、あとは再度雇用でもすれば戻るでしょう、相手持ちなら問題ありません、局長には感謝ですね。財源に打撃にならない程度に発展させるまで局長に払わせましょう」

「それは私が決めるわけでは……」

「私にお任せください、カール様、失礼カール伯爵様」

「どちらでもいいよ……」


そういうとドント臨時秘書はすごい笑顔になった。獰猛な獣が隙だらけのを餌を狩る時はこういう感じだろうか。君たち身内だよね?内務省派閥の問題だったらそもそも連れてこないだろうし、あれか?原っぱで喧嘩して仲良くなる不良みたいなやつか?じゃれ合いの範疇か?


「ああ、そうでした。この男どうしますか?ウインドウと言う男です、捕虜で一番我が軍に被害を与えた男です」

「被害?具体的には?」

「兵の損失ですね、最後の突撃の時先頭にいた男です。こちらは容易に説得ができました」

「ほぉ、それはいいな。攻撃の要が手に入るわけだ……どのへんの地位につけるかだな」

「地位ですか……経歴は説明していませんが?」

「戦果が語ってるだろう?武に問題がないし突撃で切り開いてそこから騎士団とやり合って生きてるんだぞ?まさか兵卒ではあるまい」

「敵の部隊指揮官ですね、小隊程度ですが……」

「十分、それでこちらは勝てなかったしな」

「本当に経歴は不要ですか?」

「危険な犯罪者ならそもそも声をかけないだろう?」

「……そうですね、では手配します。お会いしますか?」


会う?小隊長程度……いや勧誘するには直接会ったほうがいいか。無双系っぽいし指揮官としての力量ならそれはそれで評価しがいがある。

それに小隊長って前世は士官とかだろう、ここでは知らんがすくなくとも酒場でさらったり村から引っ張ってきていきなりということはあるまい。


「もちろん、会おうではないか」

「では、隣の部屋にいるので連れてきます」


お前も俺を一杯食わせる側かよ、お前たちは上司を試さないと気がすまないのか?毎回思うがこれ断ってたらどうするんだろうな。秘書が会うか聞いた時点で会うことが正しい可能性はあるが……それはそれで罠にかけてきそうで信用が置けない。信頼はできるが信用はできない。トーチャ副団長イズムが蔓延してるのか?




「お初にお目にかかります、賊軍小隊長ウインドウ、御前に」

「そう気を使わなくてもいいですよ、ウインドウさん。今は我軍の一因でしょう?カール・ジョストンです。伯爵位を授かっております。早速ですがウチの領軍の教育を担当して欲しいんですよ」

「……教育?ですか?」

「領軍をあなたの小隊のように育て上げてほしいのですよ」

「私に領軍教育総監になれということですか?」

「にもなってほしいのですよ」

「失礼ながら私の経歴をご存知ですか?」

「残念ながら存じません、戦場の結果が全てです」

「…………」


おっ、焦りが見えてきたぞ。ドント臨時秘書も驚いている。まぁ止めないあたり問題はあるまい、悪いが防戦以外ダメな軍ではまた騎士団に引っ張り出された際にどうなるかわからん。きっちり領軍を仕上げて貰うからな!


「一応伝えておかねばなりませんが……私は元新帝国軍中佐です、割譲地域で過ごさずこちらにまで引っ越してそのうえ謀反人の領土で生活し、仕事で加担したうえで戦ったのですが?」

「そうか、伝える義務があるなら仕方がないな!では、領軍司令官ウインドウはクレマンソー指揮官と協力して領軍システムを構築再編して、そのうえで調練をしてくれ」

「御意」


ぜってぇ逃さんぞ!お前バケモン揃いの新帝国軍の佐官だと!なに小隊率いてるんだ!いや、部隊全軍率いてたら死んでたかもしれん、むしろよく死ななかったな!


「よろしいのですか?」

「問題があるのか?」

「…………ありません」

「ではウインドウ司令官、早速領軍を頼むよ。終わったらジョストンに帰るがそれまでまだかかるだろうからね」

「はっ!それでは失礼いたします!」


いやーこれは勝ちだろ、人材雇用イベントですよ!はー助かった後は全部投げるぞー!


「他に新帝国の軍人がいたら雇用したいんだがなぁ……」

「さすがにこの辺にはいませんね……新帝国軍の経歴は彼だけです」

「ウインドウ部隊が最初から最前線にいたらどうなってたかね?」

「…………」


答えは沈黙だけどそれは雄弁な答えだよ。まぁ突破されて終わりだな。

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