戦後処理って一番めんどくさい

 いいとこ全部騎士団が持っていった、いただけたわけですけど。


「申し訳ありませんでした!」


 トーチャ副団長が土下座を決めていて非常に気まずい思いをしている。止めてくれませんか?クレマンソーの俺を見る目が化け物を見る目に変わってる気がする。いや、ちょくちょくこんな目で見てきたわ。5才児だからか?


「頭を上げてください、トーチャ副団長」

「あと、兄には黙っていただけませんかね……?」

「被害の請求はカルマンさん宛なので全員覚えのない裂傷を受けで2000人くらい急死したと言い張れるならできますがどうしますか?」

「……それで報告できませんかね?」


 できるわけねぇだろ!監査が来るわ!


「その……カール伯爵……3000人いくかもしれないのですが……」

「最後の突撃でそこまで被害があったのか!?」

「実際より左翼の被害が大きかったことと、右翼後方が完全に食い破られる形となったので……」

「うーん、3000では報告はごまかせないか……カール伯爵!兄に口添えをお願いします!」


 1000人でも無理だろ、何の基準だ!騎士団ではあり得るのかよ……。何を口添えするんだよ。


「正式な報告でないと出兵費用と弔慰金がいただけないのですが」

「じゃあ私が全額出すのでなんとか……これが神聖帝国の兵だったこととかには……」

「バレたら殺されると思うのですが?」

「その前に私が兄に殺されます」


 知らん、こんな事になって俺が一番殺してやりたい気分だ。よくも……よくもこんな面倒事に……。


「騎士団指揮したことにしますから!カール伯爵が!」

「どう考えても越権じゃないですか!罰せられます!」

「私が頼んだことにすればいいんです!とにかく!兄になんとか口添えをお願いしたいのです!このとおりです!戦功の口添えとかもしますんで」


 いらん!本当に止めてくれ!これ以上俺を追い詰めるな!


「そもそもここに陣を構えた事自体は手紙でつたえてますよ、ジョストン領都に」

「クッソ!俺の命もここまでか!敵兵6000でしたっけ?6万だったことにしませんか?」


 古代史みたいな盛り方するな!それで勝ったら無駄に評価上がるだろうが!俺は無双できないんだよ!数が多いのにこのザマだぞ!


「流石に刑場で死にたくありません」

「じゃあ兄を説得してください」

「何をどう説得するんですか?」

「私を殺さないように」


 殺すように説得してやろうか?


「考えておきます」

「…………ところで何か欲しいものはありますか?」

「今のところはありません、カルマンさんが色々欲しがってるのでそちらに聞いたほうが良いと思います」

「…………」


 あとはカルマンさんに全部任せよう。報告書書いて戦後処理だ、手紙を何通か書いて……。




 それはドルバーニュ領都で書類をまとめていたときのことだった。血相を変えたドント臨時秘書が飛び込んで手紙を渡してきた。

 何をそんな焦ることがあるんだ?攻撃されそうならクレマンソーあたりが来るだろうし……戦後処理も終わらんのに帝都に来いとはなるまい。


 それは帝国国旗を模した紋章、騎士団の証。黒い四角の下に交差した剣が描かれたそれに重要の赤インク。最優先で開封する必要のあるそれを見て俺は嫌な予感が止まらない。蛇に睨まれた蛙とはこのような感じなのだろう。副団長が死んだのはお前のせいだ、決闘だみたいなのだったらどうしよう?死んだ話はまだ聞いてないけど、葬式かな?


            帝都騎士団叙任のお知らせ

 この度の戦功、及び帝都騎士団への多大なる助言により帝国席次599番、カール・ジョストン伯爵を正式な騎士団メンバーとして認めることにしました。正式な叙任は皇帝陛下の手によって行われるものではありますがカール・ジョストン伯爵は5歳という年齢であることを加味して席を置き正式メンバーであると認定することにしていただきたい。

 皇帝陛下の手による正式叙任後は騎士団任務をこなす必要があり、カール・ジョストン伯爵には訓練、戦闘が不可能であることを把握しており、成人後も文官としての活躍が見込めるため簡易叙任とさせていただきたい。

 正式な役職は副団長付き参謀という位置が決定いたしました


 推薦者:内務省国土局長カルマン

     帝国騎士団副団長トーチャ

     帝国軍中将ガバン

     帝国軍工兵中将ブレイクニー

     帝国騎士団第1騎士団長ガルバン



 貴様ァ!トーチャ!ほしいと思ったかこんなもん!お前の参謀とかいらないものでしかないだろうが!

 あと副団長より推薦者の名前が上なのはなんでだ!


「こちらのものが……」

「…………この箱は何だ?」

「さぁ……?」


 いやにきれいな小さい白木の箱、副団長の薬指だったりしないよな?うわ……いやだな。

 渋々開くとメダルとリボンが入っていた。小さなメダルと青いリボン。なんだこれ?


「騎士団章ですね、あまりつけることはないと思いますが……大抵はそちらのリボンを第2ボタンにつけます」

「そうか……普段から?」

「普段からですね、騎士団就任おめでとうございます」

「……ありがとう」


 最悪だ、これは次の戦争があったら死ぬフラグですよ。俺は戦場にはいかないぞ!

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