第65話・もしも、お兄さんがいたらこんな感じかも


「ベラ。あなた、お兄さん、欲しがっていたでしょう? カナレッドもね、あなたのような可愛い妹のような存在が出来たら嬉しいと思うわ」


「会長。それはこちらのお嬢さまに失礼ですよ」




 その翌朝。朝食の席でキャトリンヌが談笑中に言い出した。何を言い出すのかとカナレッドは目を剥く。




「ああ。そうそうカナレッド。この後、ベラと一緒にお出かけでもしていらっしゃい。若い人同士、気が合う話もあるでしょうから」


「叔母さま?」


「それがいいわ。カナレッドくん。王都は観光したかしら?」


「いえ、まだです」


「じゃあ、ベラ。ご案内してあげたら?」




 キャトリンヌ同様、母にも勧められてジネベラは頷くことしか出来なかった。一時間後、簡単に身支度を調え、カナレッドと馬車に乗り込んだ。彼は苦笑した。




「僕みたいな小父さんと一緒でごめんね」


「カナレッドさんは小父さんじゃないですよ」


「僕は28だよ。きみより12歳も年上だ」


「そんなに気にすることですか? カナレッドさんは、わたしから見ればお兄さんですよ」


「ありがとう。急な話だったけど僕とお出かけって大丈夫? この後、屋敷にはどなたかいらっしゃる予定だったみたいだけど」


「……?」




 彼がそう言うと、屋敷を出た辺りでこちらに向かってくる馬車とすれ違った。馬車の紋からしてそうではないかと思ったが、通り過ぎた馬車に乗っていたのはユベールだった。




──今日は薬師長さまが来る日だった?




「別に私達を追い出さなくても良いのに……。お母さまったら」




 もう邪魔なんてしないわ。と、呟くと、それを聞いたのかカナレッドがフフッと笑った。




「気まずかったのかも知れないね」


「もしかしてカナレッドさん、叔母さまがこれから会う予定の人が誰か知っているの?」


「何となく。会長もそわそわしているみたいだったから」


「そう……」




 カナレッドは、何も言わなくとも事情を察していたようだった。キャトリンヌの側にずっといた彼だ。彼なりに察するものもあったのだろう。




「王都見学楽しみだな。どこに連れて行ってくれるのかな? ジネベラさま」


「さま呼びは止めて欲しいです。親しい人にはベラと呼ばれているからベラと呼んで欲しいわ」


「じゃあ。僕のことはレッドと」




 思わず笑みが零れる。もしも、ジネベラに兄がいたらこのような感じなのだろうかと思う。カナレッドとは仲良くなれそうだった。






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