第62話・オロール公爵家の事情
「それはお祖母さまではなくて、キャトリンヌ叔母さまだと思うけど?」
「キャトリンヌさま? 最近、オロールの爺さまがご執心の?」
「あの二人は元夫婦よ。心情的に何かあっても当然だと思うわ」
ジネベラの告白に、バーノは目を見開いた。
「キャトリンヌさまが、オロールの爺さまの元妻?!」
「知らなかったの? わたしも最近、事実を知ったばかりだけど」
「知らなかったよ。本当に?」
「本当に、本当の話よ」
「じゃあ、オロール爺さまの逃げた奥さんって、キャトリンヌさまだったのか」
バーノが何とも言えない顔をする。ナーリック医師は、オロール先代公爵は奥さんに逃げられたと言っていたが、真実は違うような気がした。
「違うわ。追い出されたのよ。叔母さまは当時の王族の方々に認めてもらえなかったそうだから」
「爺さまは庇わなかったの?」
「分からない。当時は親の言うことは絶対だったのでしょう?」
怪訝そうに言うバーノに、ジネベラは自分が聞いて知っている事のみを告げた。
「それにしては納得が行かないな。爺さまは別れた奥さまを心底思っていて、未練がましく再婚もせずにきたのに」
「え? 再婚していないの? あなた達はオロール先代公爵さまの孫じゃないの? 違うの?」
先代公爵が妻と離婚した後も再婚していないとバーノは言った。当然、ジネベラの頭の中には疑問符が湧いた。ジネベラの追及にバーノは事も無げに告げた。
「僕の母や現在のオロール公爵は養子だよ」
親の世代の話だから、僕ら世代にはそのことを知らない者は多いと思うと、バーノは教えてくれた。
「オロールの爺さまは奥さまと別れた後、自分の両親を離宮へと追いやり、弟の子供達を養子に迎えたんだ」
「なぜ、弟さんのお子さんを養子に?」
「爺さま同様に臣下に下っていたの末弟が、妻と海外の旅行中に不慮の事故に遭って、二人の子供を残して亡くなってしまった。それを不憫に思った爺さまが引き取って育ててきたのさ。当時は再婚を勧める話が沢山あったらしく、それを一蹴する為だったのかもしれないけど」
引き取った子供達が成人したのを機会に、爺さまは当主の座を養子である、血縁上は甥御にあたる息子に譲ったとバーノは言った。
「僕達の本当の祖父母は爺さまの弟夫婦。オロールの爺さまは血筋から見れば、僕らの大伯父に当たる」
僕達というのは、アンジェリーヌとバーノのことだと理解は出来ていた。
「オロールの爺さまが、別れた奥さんのことを未だ忘れられないのは、公爵家の古くからの使用人達も皆、知っている。奥さんの名前を明かしたことはなかったけど、今も奥さんのいた部屋は、当時のまま残されていてね、そこで爺さまが一人でお茶をしている時もある」
ジネベラの脳裏に、一人寂しく元妻の部屋でお茶を頂く薬師長の姿が思い浮かんだ。その薬師長の前に置かれているのは、きっと例のショートケーキだったに違いない。
「あの洋菓子店で出しているショートケーキ。もしかして元はキャトリンヌ叔母さまの為に?」
「そうなのかも知れない。爺さまの希望で作られたケーキだから、想い出がそこに残されているのかも」
「そこまで好きだったのに、どうして叔母さまと別れたの?」
「分からないけど、きっとそこには僕らの知らない何か深い事情があるに違いないよ。離婚後、自分の両親を離宮に追いやっている辺りからして、離婚を爺さまは望んでなかったと思うし、爺さまの留守か不在時に両親らが勝手に勧めた事かも知れない」
憶測でしかないけど、もしもそうならキャトリンヌだけではなく、ユベールも被害者だったのかも知れないとジネベラは思い始めた。
「ベラはオロール爺さまのこと嫌い?」
「幼い頃、ユベールという名前の人を話題にしては、叔母さまが泣いてきたのを見ていたから、大好きな叔母を泣かせるなんて、相手はどんな人なのだろう? って、気になっていたわ。一度、会ったら文句を言ってやりたいといつも思っていた」
「オロールの爺さまは不器用な人なんだ。誤解されがちだけど、悪い人では無いよ」
だから出来れば、ベラにも好きになって欲しいなとバーノは言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます