第8話・奪われた昼食時間
教室に向かうと、ジネベラを見たクラスメート達は驚いていた。でも、やはり殿下達とのやり取りを見ていた者がいたようで、クラスメート達は、ジネベラの変化を良い方向に受け入れなかった。
「バリアン男爵令嬢ったら、見た目がずいぶんと変わったじゃない?」
「あれって殿下の気を惹くためだったみたいよ」
「殿下達と鉢合わせするように、わざわざあの時間に登校してきたらしいわ」
「今まで大人しいと思っていたけど、結構あざといのね」
「あんな庇護欲を誘うような態度を取ったりして、みっともないわ」
「殿下から声かけられて浮かれているのよ。きっと」
そのせいで、ますますクラスメート達から距離ができたようだ。今までも遠巻きにされていたけど、今度はそこに悪意が加わってしまった気がする。
その一方で、教室移動の為廊下に出れば、他のクラスの紳士科や、騎士科の男子生徒達から声をかけられた。
「きみって、可愛いね。どこのクラス?」
「淑女科の1年生? 今まで全然気がつかなかったよ」
「淑女科に、こんなに可愛い子がいたなんて」
「きみ、それは重いだろう? 教材運ぶのを手伝うよ。きみみたいな可愛い子なら喜んで手伝わせてもらうよ」
男子生徒達がジネベラを構うのを見て、なお一層、女子生徒達には嫌われてしまったようだ。睨まれるようになってしまった。
──もう、何なのよ……。
ジネベラにとっては踏んだり蹴ったりだ。この状況は自分が望んだものではない。お望みなら喜んで交換したいくらいに。それでも昼食時間が来るのをひたすら待ち続けた。
ジネベラには、クラスの中で仲の良い友達は出来なかったが、たった一人だけ気を許せる友達がいた。それは薬草学科のクラスにいる男子生徒バーノ。
薬草学科は特殊な部門で薬草学の知識は勿論のこと、医療や、癒やしの効果などについても学ぶそうで、相当頭の優秀な者しか入れない特別な学科だ。
実はジネベラの父もここの学科の出身だったりする。この学園に通っていた頃に、淑女科に通っていた母を見初めたのだとよく聞かされていた。
バーノもジネベラ同様に、中庭のベンチで昼食を取っていた。毎日顔を合わせるので、いつしか言葉を交わすようになり段々と親しくなっていった。
彼とは昼食を共にしながら、その日あったことを語り合うようになり、いつも昼休み時間がくるのが待ち遠しくなっていた。早く昼休み時間が来ないかと思っていると、ようやく授業終わりの鐘が鳴る。
お弁当を持って廊下に出たジネベラを、アヴェリーノ殿下とその仲間達が待ち構えていた。
「やあ、ジネベラ。さっそく誘いに来たよ。これからは僕らと一緒にお昼を取ろう」
満面の笑みを湛えた殿下を前に、拒むことの出来なかったジネベラは連行され、その日からバーノと昼食を取ることが出来なくなってしまった。
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