第4話・奇病?


「ジネベラ? ジネベラなのよね?」

「お母さま。それにお父さまもどうしたの?」

「ジネベラ。おまえのその変わり様……!?」


 母はジネベラの両手を取り、探るように見てくる。その後ろでは、父親であるバリアン男爵がわなわなと震えていた。 

 両親の反応から鏡に映っていたのは、やはりあれは自分の姿のようだと悟った。視界に入る髪の毛もピンク色に見える。ジネベラは自分の目を疑ったが、皆にも自分の髪色や瞳の色が違って見えるらしい。


「ボーナっ。すぐにナーリック医師を呼んで来るのだ。これは何か悪い病にでもかかったのかも知れない」

「は、はい」


 父はジネベラの姿が変化したのは、尋常では無いと考えたようだ。ボーナをすぐにお抱え医師ナーリックのもとへと、向かわせた。

 ナーリックは、バリアン男爵家専任のお抱え医師。10年前までは王宮に勤めていたらしい。バリアン男爵家の当主が祖父の代から交流があり、退職を機会に隣の屋敷に移り住んできたお爺ちゃん先生だ。しばらくして顔を出したナーリックは、ジネベラを見るなり目を見張った。


「……! ジネベラ嬢ちゃんか?」

「先生。これは何か悪いものでも食したのでしょうか? ベラの外見がこんなにも変わるなんて……」

「それとも娘は、何者かに呪われたのか?」


 ナーリックが、寝台の上に座ったジネベラの瞳を覗き込み髪に触れる。母は一晩で髪や瞳の色が変わるなんて、体に害する何かを知らないうちに食していたのかも知れないと考え、父は最悪、誰かに呪われたのではないかと考えたようだった。


「安心せい。嬢ちゃんは呪われてはおらぬよ」


 昨晩までジネベラの姿には変わりがなかった。一晩でこのように変化するなんて聞いたこともない。最悪の場合も考えていたようだが、それが原因ではないとナーリックに言われたことで、両親や、ボーナは安堵のため息を漏らした。

 今では呪いなど滅多に聞かないが、曾祖父の時代までは呪術師達が暗躍していたそうだ。権力争いなどで政敵を屠る為に、上級階級の王族や大貴族の方々は、密かに呪術師を雇い、呪っていたと聞く。


 ジネベラは誰かに呪われるほど自分が他人に影響を与える存在でも無いと思うが、「呪い」などという恐ろしい言葉が父の口から出てきたことで、もしもそうだったなら……と、恐れてもいた。そうではないと知り、少しだけホッとした。


「ではこれは……?」

「奇病じゃ。まさか再び目にすることになろうとは」

「「奇病?」」


 呪いでは無いとなると、こうなった原因は? と、問う父に医師は断言した。奇病と聞いて両親の声が重なる。ボーナは息を飲む。ジネベラはナーリックの言葉に引っかかるものを感じた。

奇病と聞いてこれはそう簡単に直る問題ではないのでは? と、不安になってきた。


「直るのですか?」

「放っておいてもそのうち直るじゃろう。ただ……」

「「ただ?」」


 両親の声が再び被る。息の合った連携だ。ナーリックの言葉の先がジネベラも気になった。


「いつ直るかは分からない」

「そんな! お薬とかないのですか?」


 医師の宣告に、ジネベラは目の前が真っ暗になったような気がした。いつ直るか分からない? じゃあ、ずっとこのまま?


「処方箋はある」


 ナーリックの処方箋と言う言葉に、希望を見出した気がした。ジネベラは縋るようにナーリックを見つめた。両親もお願いする。


「ではそれをすぐに処方してもらえませんか? お代はいくらでもお支払いします」

「ん~。これは飲み薬なんかで治るものでも無くて……」


 しかし、ナーリックの表情は硬い。期待した分、気持ちが急激に萎んでいくような気がした。


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