拾参話 「南へ」

 出発までの数日は、とにかく家族と過ごしました。里帰りと言っても、中々帰れない距離。

 羽田からなら、一日に爆発的な便数であるのに対し、福岡からは数便しかありません。その他の空港からは、羽田で一旦乗り継ぎ経由。

 今回は車を持って行くので、頑張ってフェリーで行きます。

 

 結婚が決まってから、或日、両親とテレビを観ている時に、たまたま住む場所を、何度かテレビで見る機会がありました。これも、婚活パーティー同様、気になると九州の番組ばかり目に入る。

 でも、こんなにピンポイントで?って思った程。「人間観察バラエティ モニタリング」に出た時は、え…こんなとこに住むの?大丈夫…?と、両親、失笑。私も、不安になりました。

 そのくらい、田舎でした。

 まあ、その後、行って見ると、居住した場所は全てが揃った唯一の町中だったので、不便ではありませんでしたが、少し走ると、もう、山だけです。自然、一杯。

 住めば、都。大丈夫、やっていける。はず。

 と、見たことを抹消しようと無になります。

 でも、実際は正直、不安だらけ。

 引っ越しても、一ヶ月経たない内に、布袋先輩は訓練で一月ひとつき不在。

 挙げ句その後は海外訓練で数ヶ月不在。

 年に半分は、不在。

 でも…。大丈夫、大丈夫。

 私、やれる。

 自分で自分に、洗脳の日々。


 そんな日々もありながら、最終日は、姉家族の家で一泊してから、フェリーターミナルへ向かうので、両親とは一日早く、お別れとなりました。

 もう、ですね…。

 一生帰って来ない訳じゃないのですが、泣けてきて泣けてきて…。

 看護学校や、看護師として働きながら、関東に十年以上離れて住んでいましたが、そういうのとは、又、違うのですよね。

 私は、父とは血が繋がっていますが、母も姉も、私は血が繋がっていないのです。

 なのに、本当の娘、本当の妹。そんな感じで想ってくれて、育てて貰った。

 本当に有り難い。

 涙も鼻水も、全部ぐちゃぐちゃになりながら、両親と一日早く別れ、姉家族宅へ到着。

 姉夫婦、姪、甥と、お別れパーティー。

 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、いざ、フェリーターミナルへ。

 

 フェリー出発は、日の長い夏でも、すっかり夜――

 星空と、どんどん小さくなってゆく街を目に焼き付けながら、私は新しい生活に向け、布袋先輩と共に、旅立ったのです。

 

 

                終わり

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る