欲望の函
青月クロエ
第1話
あれはいつの時代か──、たしか文明開化の音が鳴り出して数十年経た頃でしょうか。美人画ばかりを描くことで有名な一人の画家がおりました。
画家自身も、芸術家には珍しく品行方正、厳しく自己を節制する人でした。
毎朝早くに起床。粗食ながら三度の食事も決めた時間通りに摂る。宵の時間が終わる前には布団へ入る。天気が良い昼間は近所を散歩し、酒も煙草も嗜まない。他の画家の作品を貶したことも、気難しい画家連中や一筋縄ではいかぬ画商連中と問題を起こしたことも、ただの一度たりとてありません。
だからでしょうか。清廉な作品と彼自身への印象とを結びつける者がほとんどでした。
書生たちの仕事は老女中には任せられない力仕事や雑用の他、画家の手伝いもさせたりしています。しかし、彼らにはもうひとつ仕事がありました。その仕事は老女中も知らない、秘密の仕事でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます