第8話 〇〇〇を作ろう!(完成編)

 「行くぞ!」と俺は剣を――――ショートソードを構えた。


 俺は溶岩でできたゴーレムに対して、ショートソードを用いて戦うことになる。


 それも、火山地帯での戦闘は非常に厳しいものになるだろう。


 アリッサの支援魔法によって熱さを遮断されたとしても……だ。


 「ほらよっと! これでも食らえよ!」


 俺の魔法『肉体強化』から生み出される機動力と突進力。


 それはショートソードであっても、巨木を打ち倒せるほどの破壊力を生み出せる。


「狙いは膝部分。可動域を破壊させてれもらうぜ」   


 宣言通り、轟音と共にゴーレムがバランスを崩す。 


 チャンスだ。 


 ゴーレムの弱点と言えば、体のどこかに刻印された文字。


 僅かな時間ではあるが、倒れかけたゴーレムが、頭部を庇うような仕草を見せた。


「庇ったな! そこが弱点だ!」


 飛び上がった俺は、隠された弱点に向かって剣を――――


「いや、刻印がない? まさか、こいつ……心理戦で俺の攻撃を誘導した?」


 すでに俺は空中にいる。 逃げ場はなし。 


 轟音を纏ったゴーレムの拳が飛んできた。


 辛うじて防御は間に合うが、体がバラバラになるほど衝撃は流しきれない。


 地面。 


 燃える大地に衝突して、俺の体にまで引火してきた。


「一瞬、意識が飛んじまったぜ。やっぱり、ただのゴーレムじゃないな」


 勇者生活の経験で俺が遭遇したゴーレムたち。その精神性は単なる無機質な石の塊に過ぎなかった。


 だが、このゴーレムは別物みたいだ。まるで人間のように戦闘を熟知し、俺を追い詰めようとしている。


 俺が戦闘思考を行っている間もゴーレムは攻撃の手を止めない。


 熱い溶岩をまとった拳で殴りつけてくる。 


 怒涛の攻撃って感じだ。


「支援魔法で熱を無効化しているとは言え、流石に直撃をうけたらまずいかな」


 このゴーレムが『スキル』により強化されているのは明らかだ。 しかし、その『スキル』が何かわからない。


知能上昇ブレインブースト


気配遮断ステルス


弱点隠蔽ウィークネスロス


「流石に複数の『スキル』を同時に有してるとは思えないが……」


 よし! 回避に専念して、逃げ回っている間にダメージは回復した。


 そろそろ、分析は止めよう。 『スキル』を確認するのは倒した後からできる。


 次の一撃にカウンターの狙いを定める。 最後に強打を入れて決着をつけようか。

 

 そう覚悟を決めた俺は足を止めた。 けれども、それは叶わなかった。


 なぜなら、俺の背後で――――


「ユウキさん、危ない! 攻撃をします!」


 支援魔法に専念していた彼女――――アリッサが動いたからだ。


極寒氷結の弾丸フリージングショット


 彼女の杖先から拳サイズの氷塊が生まる。 それがマシンガンのように連続してゴーレムに叩き込まれていった。


「あっ! まずい」と俺はゴーレムに背中を向けると全力疾走。


 距離が開くと、耳を塞いで、身を低くした。


「アリッサ! お前も身を低くして、しゃがみ込め!」 


「え? 一体、何を? どうしましたか?」


「いいから、早く!」


「は、はい。わかりました」と彼女もしゃがみ込む。俺を真似して耳を塞いだ。


 その直後、ゴーレムは爆発した。  


 閃光と爆音。それから襲い掛かってくる純粋な衝撃。


 体が浮き上がり吹き飛ばされそうになる。時間にすれば、1秒に満たないのだろうが、無限に終わらないようにすら感じた。


「お~い アリッサ。生きてるか?」


 地形が変わった周囲を見渡すと、アリッサが地面に転がっていた。

  

「い、一体何が起きたのですか!」 


 俺が近づくと勢いよく飛び起きた。どうやら、無事らしい。


 よかったよかった。 


「あぁ、溶岩は大量の水や氷と接触すると爆発するんだよ」


 大量の水が蒸発して水蒸気になる。 この水蒸気が膨張を起こして周囲の圧力を増加。


 結果として、周囲の物質が吹き飛ばされるような爆発が引き起こされることがある。


それをアリッサに説明をした。 


「炎属性のモンスターに氷属性の魔法攻撃は常識とされています。そんな危険な事だったなんて……」


 自身の常識を覆されてショックを受けたようだったが、すぐに……


「ごめんなさい。私の早計な判断でこんな大変な事態を起こしてしまいました」


「まぁ、仕方がないさ。 戦闘は瞬時の反応ができる奴が強くなる。それよりも……」


 溶岩ゴーレムの姿はない。 完全に消し飛んでしまった。


「依頼内容は、ここで暴れているゴーレムが『スキル』を持った人工的なモンスターかの確認だったのだが……これ以上は調査ができないか」 

 

 何か残っていないか、周囲の調査をしてみると……


「これは、あのゴーレムの魔石か。これをギルドで解析して貰えば何か分かるかもしれない」


 何も持ち帰らないよりはマシだろう。 魔石を拾い上げようとすると……


「熱っ! なんだ、これ? 魔石まで熱いぞ」 


 魔石は触れる事すらできないほどの高熱を発散していた。 


 モンスターの特性が魔石にまで出るなんて聞いたことはない。これが『スキル』の影響か?


「アリッサ、魔法で持ち運べるようにすることはできるか?」


「はい、可能です。 氷の精霊さん、お願いします」


 魔法で保存された魔石を今度こそ拾い上げた。 しげしげと見つめてみたが、何もわからない。


「これ以上の調査はギルドに任せるとして……帰るか」


 支援魔法があるとはいえ、高熱で汗が酷い。 体が汗でベトベトになった。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・

 

 ギルドに到着して、魔石を提出した。 

 

 どうやら、すぐに結果が出たようだ。ギルド長の部屋に呼ばれた。


 しかし……


「結論から言おう。この魔石には異常が見つからなかった」


 ギルド長、リリティは分厚い皮手袋をつけて、魔石を掴んでいた。 


「それじゃ、なんで高熱を発してるんだ?」


「コイツは熔岩が魔石化した物。たまに石の性質がそのまま魔石に宿ることもある」


「つまり……?」


「つまり、コイツはただの魔石だよ」とリリティはあっさりと言った。 


「ユウキが戦ったモンスターについても、『分析』のスキル持ちの職員に調べさせた」


 彼女の話だと、アリッサの『魔力探知』を掻い潜った方法は、地面の下を、マグマを通って移動したから。 


 知能の高さも、弱点を隠していたのも、あのゴーレム本来の能力だったらしい。


「それじゃ、これは返すよ」とリリティは魔石を投げてきた。


 反射的に受け取ろうとしたが、嫌な予感がして手を引っ込めた。


 床に落下した魔石はコロコロと転がって……木の床に引火した。


「わぁ! 何をしてる、私の部屋が燃える。火事だぁ!」


「自業自得だろ。落ち着いて魔法で消せ。そして、そんなものを俺に向かって投げるな!」


 リリティが涙目で火を消した。 魔石は水につけられているが水蒸気が登ってる。


 皮手袋をリリティから奪い取り、魔石を拾い上げた。


「この魔石、どうするんだよ。常時、この高熱なら売れねぇだろ」


 しかし、熱いなぁ。 近くに魔石があるだけで汗がとまらない。


 今回は汗をかいてばかりだな。 


 ……いや、待てよ。 思い付いたかもしれない。この魔石の使い方を! 


 数日後、俺は湖畔にいた。 


 元々、冒険者ギルドが持っている土地であり、特別に使用許可をもらった。


 新人冒険者への研修。 ギルド職員への慰安旅行などに使われていたそうだ。


 ぶっちゃけ、ホラー映画の『13日の金曜日』の舞台」を連想させる。


 周囲に民家など、人はいない。 実験をする条件は揃っていた。


「さて、準備はこんなもので大丈夫かな?」


 テントが完成した。 1人で使うには大きなテントだ。


「元々、騎士団が野営に使うテントだったらしい。こうやって見ると……」


 切り傷や赤黒い汚れが目立っている。この汚れは洗っても落ちないんだよなぁ。


 何の汚れか、深く考えるのは止めておこう。


「さて、こんなもんかな?」と俺はテントの中に入る。 上半身は服を脱いで裸になる。 


 テントの中、下は何も敷いていない。 あの魔石を直接地面に置いた。  


「溶岩の性質が残っているからといって有毒ガスはでないよな? 念のために、毒消し草は用意しておこう」 


 そうして俺は水を魔石に振りかけた。 水が蒸発して生まれた水蒸気がテントないを覆う。


 あっという間に内部は高温になった。 湿度も高い。 


「用意していた温度計は……うへぇ100度を越えてるぜ」


 魔石の高温を利用したサウナだ。 


 まさか、サウナを知らない人はいないと思うが、念のためサウナの説明をしよう!


 サウナってのは、熱い部屋のことさ! 人が人として健康を保つための部屋……


 熱気が体を包み込み、汗をかいて老廃物を排出する。それによって、体がリフレッシュされるんだ。


 サウナに入って1分を越えたあたり……


 湿度の高い空気が皮膚を包み込み、体中にじんわりと汗がにじみ出る。


 「こいつは整いそうだぜ」


 自分の言葉が、この至福のひとときを表現している。だが、そんな至福の時間も長くは続かなかった。


「あらあら、面白そうなことをしているじゃないの」とリリティが入り口から顔をのぞかせた。


「え? リリティ? なんでここに?」


「私はギルド長だよ。ギルドの私有地をどう使ってるか視察に来るのは当然じゃないか」


「当然……そうか?」と俺の疑問の声は無視された。


「これがサウナってわけね」とリリティは中に入って来た。


 彼女の体はタオルで包まれている。 下には水着を着ているのはわかっているが目のやり場に困る。


「わぁ、凄い熱さ。汗が止まらない! でも、不快じゃないわ」


「気に入って貰って光栄です」と本心ではない言葉で答えた。


 俺の予定では、1人気ままにサウナを楽しんで、このまま1人でキャンプにバーベキューをするつもりだったのだ。


 そんな俺の落胆に気づかない彼女は、「それどころか、自分がいて嬉しいだろう?」 と言わんばかりであった。 


「あれ? 他の2人は何をやってんだろ? 着替えそうな服してるからなぁ」


「他の2人……だと!?」


 「お~い! 早く入りなよ。中は気持ちいいよ」


 そう言ってリリティが呼び込んだ2人は、受付嬢さんとアリッサだった。


 リリティとは違い、2人がバスタオルで体を隠しているのは、本当に目のやり場に困る。 本気で困る。


「ユウキ、何か私に失礼な事を考えてないか?」


「キノセイ、キノセイ」と誤魔化しておいた。


「受付嬢さんもギルド長を止めてくださいよ」


「私もサウナを気になってましたので。男女が密室で半裸になって汗だくになる行為とだけ説明されて……」


「言い方! サウナはいかがわしい行為をする所じゃない」


「そうなんですか……」となぜか、受付嬢さんはがっかりした。まさか、本気だったのか?


「もしかして、今の私の恰好って不適切だったりします?」


 彼女は、クルリと振り返った。 


 なぜ、背中を見せる? そう思っていたら、受付嬢さんはバスタオルを少しめくって、おしりを……


 ――――穿いてない。だと!? まさか、本当に3人とも?


 自然と視線はアリッサに移った。 


 顔を真っ赤に染まった彼女は「あわあわ、ち、違うんです」と口にする。


 「わ、私は、嫌だったのです。ギルド長にこれが正装だと聞いて……


 もう、お嫁にいけません!」


 彼女は自分の体を隠すように勢いよくしゃがみ込んだ。


 おい、止めろ。 その姿で激しく動くと、見えたらいけない箇所が見えるだろ!


 アリッサは王族だ。こんなことが公になったら、俺はギロチンの露と消えてしまう。


「大丈夫だよ、アリッサちゃん」とリリティ。


 さすが、ギルド長。 ここから逆転の一手を――――


「お嫁にいけないなら、みんなでユウキに責任をとってもらいましょう」


 俺は気配を消した。 そのまま、無言でサウナから抜け出して、岸辺から湖に飛び込んだ。


冷たい水が肌に触れると、心地よい刺激が全身に広がる。俺は深呼吸をしながら、冷水に身を委ねる。


 疲れと熱気が流れ落ちる。


「ふぅ……これが、整うってやつかぁ」と執着心が無くなっていく。

 

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