登校

 新たな出会いが始まり、退屈な日々が続いた中学時代とは違う、何かを求めて地元から離れた高校へと受験勉強をして入学した。親を説得するために進学校を選び、ある程度偏差値が高い所を選んだ。


 登校途中の川辺にひらり、ひらりと桜の花びらが落ちている風景を見ると、春を感じた。


 「きれいな桜」


 ピンク色の鮮やかな桜の木を眺めていると、学生服を着ている男子生徒が木の枝に何かをつぶやきながら結んでいる姿を見つけた。彼の手元に目をらすと、小さな紙片が風に揺れながら枝に結ばれていた。


 その表情は悲しく、寂しく、孤独な空気を醸し出していた。まるで捨てられた子犬のようにおびえているようにも思えた。


 彼は深いため息をつき、一度振り返って桜の木を見上げた後、重い足取りで学校へと向かっていった。その生徒は私と同じ制服を着ていたので、同じ高校の生徒なのだろう。


 「何を結んだんだろう…」


 私は興味津々に桜の木の下まで歩いて行った。草の上に立ち、桜の花びらが舞う中で木を見上げた。上を見上げると、木の枝に御札のような謎の習字で書かれた文字列が結ばれていた。風に揺れるその札は、何か不思議な力を感じさせるものだった。


 つま先立ちして、背伸びして木の枝まで手を伸ばし、その御札を枝から取り外した。手に取った札は何故か冷たく、わずかに湿っていた。


 「読めない」


 札の文字は古代文字のように絵を使った文字のような字が並んでいて、意味も何を表現しようとしていて、どのような目的なのかもわからなかった。指でそっと文字をなぞりながら、私は深く息を吸い込んだ。


「何だろう、これ…」


 頭の中で様々な可能性が巡り始めた。呪い?祈り?それともただの装飾?疑問が尽きないまま、私はその札をスマホで撮り、元通りに木の枝に結び付けた。


 もしかしたらその生徒に後で会えるかもしれないという期待を胸に学校へと登校した。


 校門をくぐると友達と笑いあいながら投稿する生徒たち、部活の加入をする先輩たち。たくさんの生徒の中であの人を見つけられるだろうか。


 「1年A組」

 一階に書かれているクラス分け表を見て、私は教室へと向かった。

 

 教室に入り、自分の席に着いた。窓の外を見ながら、今朝けさの出来事を思い出していた。あの御札を結んでいた男子生徒の表情が、ただの謎の御札以上に何か深い事情があるように感じさせた。


 しばらくして、クラスメイトが次々と教室に入ってきた。新しいクラス、新しい顔ぶれに、少し緊張しながらも期待感が膨らむ。そのとき、教室のドアが開き、あの男子生徒が入ってきた。驚いたことに、彼は私の隣の席に座った。


 彼は静かに席に着き、鞄を机の上に置いた。その瞬間、私は心臓がドキドキと高鳴るのを感じた。これも何かの縁だろうか。


「おはようございます」と私は小さな声で挨拶をした。


 彼は少し驚いた表情で私を見つめた後、柔らかく微笑んで「おはよう」と返した。その笑顔は、今朝の表情とは違っていた。それは同一人物とは思えないほどに。

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