雨の御霊 肆

雨月 史

KAC20243

鴨川デルタから少し北大路方面に河原を戻り、少し高級そうな住宅街を抜けてると右手に木々の生い茂ったちょっとした森の様なところへでてくる。奥の方には朱色の鳥居が見え隠れしている。そこが滲鴨しみかも神社の参道だ。


神社というのは自然崇拝が基本の様で、

神をまつるとともに、その土地の地の利をあがめ、たてまつっているのではないだろうか。


「柚……。」


「ん、何?」


またスマホを見てるのかと思い、反射的にスマホをジャケットのポケットにいれた。


「あの男の子がなんか手招きしてる。」


「え?」


見ると和装の男の子が鳥居の向こう側でこちらを手招きしている。


「なんや何かのイベントやろか?」


「まー観光地やしね。おもろいやん。ちょっと行ってみよ。」


と何の警戒もなく美晴が鳥居をくぐって、

僕はそれを追いかけた。


「えらい遅かったですやん。だんさん、あねさんお待ちしておりました。」


と、時代劇に出てくる丁稚さんの様な格好をしたその子は言った。


「え…っと……誰?」


「はーあっしは先程姐さんに思い出してもらった、この神社の御祭神ごさいしん雨御中主神あめのみなかぬしかみ様』の御使みつかいこんと申します。」


まー通常考えられない様な出来事だったにも関わらず、なんでかその時は二人ともすんなりと受け入れられた。


「はーそれでその御使さんがなんの用事?」


「へーとりあえずこちらへ……。」


と二人でこんの後へ続いた。

長い杉の並木を抜けると今度は先程よりも大きな鳥居が待ち構えていたが、そこには向かわずにこんは鳥居の手前の横道の方へと向かった。


「なーなー本殿の方にはいかないの?」


「はー主のはこちらになってまして。」


?」


「あー……まー箱ってのは所謂……領域ってやつですわ。」


「領域ね……。」


先程の鳥居から随分歩いた気がする。

小道はいつしか獣道の様に道無き道のようになり、なんとなく人が近づいては行けない空気?の様な雰囲気に包まれていた。

それを美晴も感じたのか、彼女の僕を握る手に力が入り少し汗ばんで感じる。

よく考えるとこの小道に入ってから、すっかり外界の音を感じられなくなっていたし、

僕も美晴もちっとも声を出さなかった。

それを感じたのは水の音が、と言うか雫が滴る時に落ちる『ポチャン』という音が聞こえたからだ。

すると木の影に小さなお社が出て来た。

そこでこんが立ち止まって、


「ちょいとお待ちいただけますか?」


と言いながら社の戸を叩いた。


「おー来られたか。」


社の中から若い?女性の声が聞こえた。


「旦さん。姐さん。こちらが我が主の、雨御中主神あめのみなかぬしかみ様でございます。主は雨を司る神の一族でしてな、雨水から有難い水を生み出しこの神社の境内に流し出されておられる。五穀豊穣とか、雨乞いとかそう言った物の神ってやつなんですわ。僕たちはその水に生きる精霊てやつでね、それがほれ、あのお守りに入ってた水ですわ。」



「それでその雨の神様が、何の用事ですか?」



「実はな……この箱を守っている箱守はこもりが、使いに行ったきり帰って来なくてな……どうやら現界で迷子になったみたいで……。」


箱守はこもり?」


「はー所謂いわゆる、領域を守っている門番みたいなもんですわ。」


「なんのご縁がわかりませんが、このタイミングで私のところへこんが戻って来たので相談した次第なんです。箱守たちには雨の御霊という勾玉を持っているの。」



「雨の御霊ってこれ?」


「いえ、それはイミテーションよ。本物は私の3人の箱守に持たせてるから、その一つがこんが入ってたそれ。」


そう言いながら美晴の御霊をさした。


「えーという事はこんちゃんの御霊は量産品のお守りに混ぜていたという事?なんでそんな大事な物を量産品のお守りに混ぜてるの?」



「そういう事なのよ。しかもこんを御霊の中に入れてね。まーほら当たりつきのクジってわくわくするじゃない!!だからイミテーションの中に混ぜてみたのよ(笑)」



「いや(笑)やないですわ。」


こんが困ったひとだ……という顔をしている。


「で……引き受けてくれる?というか任せたわ!!」


こちらの意向は聞く耳無しかい……。


「そんな事言われてもね。美晴どうする?」


と、美晴の方を見ると珍しく強張って顔をしている。そう言えばさっきから全く美晴の声を聞いていない。引き受けたくないんのだろうか?


「あの……。」


「へい。あねさんどうしやした?」


「近くにトイレありますか?」


あー……その落ち2回目。

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雨の御霊 肆 雨月 史 @9490002

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