形骸のたまり場

茶散る

初めの一歩

 桜の散り始めた頃、俺は府立生駒工科高等学校に入学した

しかし流石というべきかその昔、ワルでならした生駒工業高校を前身にもつだけあってその見た目は刑務所のようであり

桜の一本も植えられちゃいなかった

 ともかく俺は、

未来への漠然とした不安とこれから始まる三年間への期待感で胸が一杯だった

 そして現在、入学式から二週間がたった

この頃には、もう入学式の日はお通夜かと思うほどに静かで、近頃の商店街の如くそれはもう活気のなかったうちのクラスが、先生がブチぎれて職員室に戻っていく程度に活気づいて五月蠅くなっていたし、

当の俺はといえば未来への不安を抱いていた事さえ忘れていた

「おい小笠原」

しかしまったく騒がしものだ

「聞いてんのか小笠原!!」

こうも騒がしいととても思考なふけってはいられないと思った矢先、後頭部に激痛が走る、しかも何度も何度も!

「いてーぞ!沢良木ィ!」

俺は思わず振り返る!刹那、後ろの席の野蛮人が吠え出した

「うるせ!何度も何度も無視しやがって!」

まったくせっかくの昼休みだというのに騒がしいやつだ

「ところでだが、お前は何君だったかな?」

後ろのやつは豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をして

「おいおまッ…まあいい俺だよ沢良木だよ中学時代からの付き合いだろ?お前さっき俺の名前を呼んでたじゃねえか」

そうこの野蛮人は悲しいかな同じ中学出身だ、ここまでは、何の問題もないしかしこいつは、女好きともいうべき性格をしている

最もこいつは告白が一度も成功したことのない哀れな童の帝王なのだ

しかし勘のいいガキは嫌いだよ

「ところで沢良木、何の用だ」

「俺、今日の放課後に図書委員の当番なんだけど今日は用事あってさ、お前変わってくれね?」

「いやだよ、どうせその用事ってのはバイトだろ?」

沢良木は一秒にも満たない間ではあったが黙り込んだどうやら図星のようだ

「まあ頼むよ小笠原ァ頼める奴はお前しかいないんだ」

やなこった俺は自分の利益のためにしか動かない男だぞ?

「なあ親友がこんなにも頼んでるのに良心が痛まないのか」

こいつは何を言ってるんだ、あろうことか大衆的価値観のもと大衆的倫理観の中育った凡庸なる人間に良心を求めてきやがった

てかいつ親友になったんだよ

「仕方ない、引き受けてやる」

俺にも良心ってやつがあったらしい、もしくはこの押し問答が面倒くさいだけだったのかもしれない

 昼休みから二時間ほど経過した放課後、俺は、沢良木の代わりに図書室にきていた

「失礼します」

そう言って俺は図書室のガラス越しに熊さんのイラストが張り付けてある扉を開けた、

「やあ君が小笠原君だね、沢良木から事情は聴いているよ」

そこには図書室には似ても似つかないスポーティーなポニテ女生徒が立っていた、綺麗な人だ

「私は図書委員長の冨澤だ、よろしく頼むよ」

そう言うとその冨澤と名乗った図書委員長は握手を求めてきた

俺はその握手に少し挙動不審になりつつ応え、

「俺は小笠原です、こちらこそよろしくお願いします。」

と少々緊張気味に答えた、綺麗な人だからね仕方ないね

「おいおい小笠原君、何を緊張しているのだね、リラックスしたまえリラックス」

そう言うと微笑みかけてきた、あらやだ超可愛い惚れてまうやろ、ここは真面目な俺を見せて好感度アップだ!

「ところで委員長、俺は何をすればいいのですか?」

「お?小笠原君、やる気だね」

一拍ほど置いたあと冨澤委員長は口を開いた

「ないね、というのもまず図書館を利用する人がいないからね、まあせいぜいカウンターに座って私とおしゃべりするぐらいだな」

 まさに天啓、天は俺に冨澤委員長と仲良くなれと言っているに違いない、などと思いつつ着席し、雑談に雑談を重ね雑談をしているとあっという間に下校時間の十五分前になっていた、

その時だった、廊下の鵬からバタバタと聞こえ、十秒もしないうちに扉が激しく開き、ザザザーといった感じの音が聞こえた

「すいません、送れました!」

確かに声は聞こえた、しかし声の主の姿は俺の知る限り見当たらない

「おい神崎川、遅いじゃないかなにをしてたんだ?」

冨澤委員長がカウンターの前の虚空に話かけている!なにこれ怖いと思っていると

「す、すいません、ちょっとお腹痛くてトイレに…」

カウンターの前から一人の女生徒が顔を出しながら言い訳を語りこちらを見るやいなや、顔面蒼白で固まった、しかしこの女生徒、

見覚えがある

 顔面蒼白の女生徒は、俺の存在を確認するや否や冨澤委員長の後ろに隠れ、さっきの威勢のいい声にうって変って

弱弱しい声で言った

「委員長ぉ知らない人がいますよぅ」

知らない人ってなんだよ

「神崎川、知らない人じゃないぞお前のクラスメイトだ」

冨澤委員長は言った、そうだ思い出したこいつは、同じクラスの神崎川だ

出席番号では、一つ後ろの奴を忘れちまうなんてなんて記憶力なんだと少し恥ずかしくなった矢先、

「わかりません」

そう神崎川は言いやがった

「おい神崎川、俺だよ出席番号で一つ前の小笠原だよ」

俺は思わず声をあげた

しかし神崎川は分からないとでも言いたげな顔をしていた、というか最初から覚えてないのだろう

この後、十秒以上の沈黙が図書室を襲った、

この状況を破ったのは冨澤委員長の鶴の一声だった

「私は用事を思い出したから、十分程図書室を去るが君たち二人は図書室の整理をしたまえ」

神崎川は不安そうな顔をして

「委員長ぉ」

と言いながら冨澤委員長にすがりついていたが、冨澤委員長は神崎川の抵抗もものかは図書室を出ていった

 かくして、図書室には、神崎川と俺の二人きりの空間が出来上がってしまったのである

何たる空気感、圧倒的地獄

ひとまず神崎川に声をかけることにした

「おい神崎川」

そう話しかけた瞬間、神崎川はびくっとして

「な、なんでしょう」

怯えながら返事をした

「あ、ああとりあえず整理を始めるか」

かくして俺と神崎川は別々の場所から図書室の整理を始めた

 整理を初めて五分程たった頃だろうか、俺は神崎川の仕事ぶりが気になり、神崎川の方をみてみた

なんと神崎川は事もあろうにサボタージュしていた、しかなんかニヤつきながら本よんでるし!

これはもう気になる訳だ、どんな本を読んでいるのか

かくして俺は、神崎川の背後に回り込み、

神崎川の読んでる本を取り上げた

「ああああああ待って、見ないでください!」

なんて声も気にせずに本を見た

見た瞬間、俺には後悔の念と神崎川に対する申し訳なさがこみあがってきた

BLものの漫画だったのだ、それだけならまだしも、いい体つきの男たちがそれはそれは熱く愛し合っていたのだ!

神崎川は顔を真っ赤にしていた、おれは思わず

「うほ、いい男」

伝説のセリフをつぶやいていた

神崎川は顔は溶けた鉄のように赤くなっていた、やばいこれ以上いじると訴えられる!

「ほ、ほら悪かったよ、十人十色、多様性だよ、多様性…ほら返すよ!誰にもいわないからさ!」

とにかく俺は必死だった

神崎川は顔を上げて言った

「本当ですか?本当に誰にもいいませんか?」

「ああ冨澤委員長にだって言わな…」

言い終える前に神崎川は勢い良く立ち上がり俺の両を手を握り握手して

爽やかな笑顔でこう言った

「ありがとうございます、貴方は命の恩人です!お礼に今度、お勧めの同人誌、貸してあげます!」

「いや、それはいいわ」

俺は即答した

 その後、十分ちょっきしに帰ってきた冨澤委員長は神崎川の変わりように驚きつつも今日の業務の終了を宣言した

そして今俺たちは図書室から追い出された

故に今は、自転車置き場で話している

「小笠原くぅんいいじゃないですかぁ私のお勧めの同人誌読みましょうよぉ」

神崎川はそう言って俺を激しく揺さぶる、こいつ、こんなめんどくさい奴だったのかよ

しかし改めて見ると神崎川はちゃんと整えればそれなりに美しい外観をしている、最も今の風貌だとジャージが似合いそうだが

少し神崎川のジャージ姿も見てみたいが悲しいかなうちの高校は制服以外の着用は必要な授業以外認められていない

なんて考えている間にも神崎川は吠えて俺の体を揺さぶっている

何たる鬱陶しさか

「大体お前、学校にああいう本持ってくるなよ、生活指導の先生に見つかったらどうすんだ」

「大丈夫です、上手くやります」

神崎川は自信満々で答えた

「でもお前、俺にバレたじゃん」

神崎川は口笛をふいたしかし

「かすれてるんだよなぁ」

「ま、まあ細かい事気にしてるとモテませんよ」

「ばかいえ、うちの高校来てる時点でモテようなんて考えてないんだよ」

嘘である、本当はすごく期待していた、しかしうちは工科高校、つまり女子が少ない、いやこうして女子と関わっているのだから女子が少ない事に対する文句を抑えたとしてもわざわざ工科高校に来ている奴だ、神崎川を見ててわかると思うが男女関係なく大半が際物だ

「なあ、神崎川、俺思ったんだけどさお前が今日遅れてきたのってあの本読んでたからだよな」

また神崎川が口笛を吹き始めた、どうやら図星だったらしい、しかしこうもかすれていると逆に笑えてくる

そう思いつつ俺は自転車の鍵を解除し愛車に跨った

「小笠原君、もう帰るんですか?」

「おいおい時間を見てみろよ」

もう五時半だ俺のような一般人は春とはいえ暗くなる前に帰りたいに決まっている

「ええ、いいじゃないですかぁもっとゆっくりしましょうよぉ」

また神崎川がだだをこね始めた

「ええい、俺はかえってゆっくりするんだよ」

「ぐすん、分かりました、では途中までお供しましょう」

こいつ、泣きまね、うまいなこれなら大根役者になれるのではなかろうか

「神崎川、お前どこ住んでんだよ」

「摂地市です」

なんたる不幸、俺もだよ

「仕方ない行くか」

「ところで小笠原君はどこ住みなんですか?」

こいつなんて非道いことを聞くんだ

「いやだね、教えないよ」

神崎川はくいついてきた

「ええ、小笠原君もしかして住所おぼえてないんですかぁ?」

なんだろうこいつの喋り方、なかなか、腹立たしいぞ

「お前に住所教えたら、毎日、ポストに同人誌突っ込まれそうで嫌なんだよ」

神崎川は黙り込み、一分程の静寂の後、ようやく口を開いた

「そ、そんなことしませんよ」

「絶対、する気だったろ!」

俺は即座に突っ込んだ

「と、ところで小笠原君、明日は部活紹介の日ですね、どこか目ぼしい部活動はありましたか?」

こいつ話題を強制的に切り替えやがった

「俺は特にないな、お前はどこかあるのか?」

俺が、尋ねた瞬間、神崎川は自身の携帯を取り出し、その画面をみせてきた

「ここです!」

そこには近代文化研究部という文字が自己主張強めに書かれたホームページが表示されていた

「面白そうじゃありませんか?」

こいついきなりテンション上げてきやがった、

「そうだな面白そうだな、がんばれよ、応援してるぜ」

心にもないセリフである

「もー小笠原君はつれないなー」

神崎川はそう頬をふくらませて言った

「ところで小笠原君」

「なんだ神崎川」

「LENEやってます?」

 学校を出てからはや30分、俺の家の近くの公園に来ていた。

小さい時、よくこの公園で遊んだ、思い出の公園だ。

俺はふと何食わぬ顔でブランコを漕ぐ神崎川に言った。

「お前、いつまでついてくんの」

そう、こいつは学校を出て以来ずっとついてきているのだ。

もしかするとこの辺りに住んでいるでいるんじゃないかと頭をよぎったのは気のせいだろう。

しかしうちの中学にこんな奴はいなかった

確かにこの辺りは隣の中学校区に隣接している。というか俺の家の前の道路が境界線になっていたりするのだ。

「私の家はこの辺りですよ?」

こいつ、近所に住んでやがる!

知ってて当たり前みたいな言い方をしているのがこいつの不思議なところである

「でもお前、俺と中学違うだろ?」

「そうですね、私たちは惹かれあう運命なんじゃないですかね?」

神崎川は満面の笑顔で言い放った。

「だったら俺は運命に抗うよ」

俺がそう言った途端、神崎川は、ブランコを飛び降りて殴りかかってきた

しかし俺はそれを容易に避けることができた。そして神崎川はそのまま転んだ。見事なまでのこけっぷりだった。

なんだろう、この光景、前にもどこかで見たことがある。これがデジャヴか。

「ちょっとッ、避けないでくださいよォ、私のご尊顔に傷でもついたら責任とってもらいますよ。大体ですねー」

神崎川は起き上がるや否やアーダコーダと猛抗議してきた。しかしいやはやご尊顔って自分で言うかね。

こうしているうちに時刻は19時を過ぎていた

「そろそろ帰るか」

「私の話、聞いてくださいよ・・・小笠原君は鬼畜です」

神崎川は泣きまねをしながら言った

「それでお前の家はどこなんだ?」

「何を言ってるんでです?小笠原君の家の向かいじゃないですか」

神崎川はけろっとしてそういった

[chapter:トラブルメーカー]

 昨日から一夜明けた今日

つまり神崎川と知り合った翌日だである

さて本日は部活動紹介の日である

とは言っても俺には、あいにく部活動やそれに類するものになにか特別、思い入れがあるわけではない。

中学の時と同様に俗に言う帰宅部なる部活に属することになるだろう。

最も、既存の部活の枠に収まらない奇怪な部活動があるとでもいうならば入部を検討するだろう。検討するだけだが。

まあ、当然というか必然というか当たり前だが、俺の知る限り、そのような部活は物語の世界にしか存在しないのである。

などと思考しながら俺は、ギーギーガーガーと唸る愛車を漕ぎつつ、いまだに目に新しい通学路を疾走していた。


なにはともあれ心地の良い朝である。


 さて俺は学校に到着し、愛車を駐輪所に止め、下足室で靴を履き替え、教室に行きついた。

そこに神崎川の姿はない。

俺はなんとなく自分携帯を覗いてみた、そこには8時5分、そう表示されていた。

朝礼までまだ15分もあるし、特段気にする時間でもあるまいと、そう、俺は思った。

ただ俺は漠然とした何かじっとしていられないような、何かものたりないような不思議な感覚に陥っていた。

なんとなく久しく陥っていなかったように感じる。

だが残念なことにそれは、デジャヴってやつだろう。

どれだけ思考してもみても、今以前にこの感覚に陥った時の記憶を思い起こせないからだ。

なにはともあれその後はなんとなく携帯を覗いたりと、せわしない時間を過ごした。

この時、俺の状態を表す言葉があるならば『ソワソワ』が最も適切なのだろう

そんなかんなしているうちに予鈴が鳴った。しかし学校の雰囲気といえば日常風景然としていて、全く焦りを見せない。

流石は大阪府下、有数の工業高校といったところか。

しかし、うちの担任教師は全く素晴らしい、毎日プログラム機械仕掛けのごとく、予鈴ピッタリに教室に入ってくるのだ。

その担任教師というのがまた奇怪な人なのである。

なんと彼は入学したての我々に「君達とは慣れあうつもりはない」っとそう言い放って、迎えたのだ。これには大いに驚いた。

なにせこれを聞いた時俺は、校舎見た目も相まって、間違えて少年刑務所に入ってしまったのではないかと疑いさえした。

さらに驚くことにこの学校にはこの担任教師に負けない個性の強い先生が大勢いらっしゃるのだ。

しかし、予鈴がなったのにも関わらず神崎川は一向に姿を現さない。

そうこうしているうちに、朝礼は始まってしまった。

神崎川!!遅刻である!!

結局朝礼が終わっても、神崎川は来なかった、しかし、神崎川の席はどこなのだろう。

全く、いつもさんざん思考ばかりしているのにこういうことは把握していない、自分の頭が残念に思えてきた。

隣の席が空いているのだが、誰であったのだろうか。

[chapter:君よ全生徒諸君の模範たれ]

そうこうしているうちに退屈な一時間目がおわり、気づけば四時間目が終わり

先生の「起立」の掛け声のもと皆が立ち上がった。よく考えればまったく奇怪な光景である。

そうして先生は云う


「礼」


 昼休みの食堂は賑わいを見せていた。

その光景は例えるならば都市部のエスカレーターとでも言うべきであろうか。

なにせ大勢の人間が妙に整然と列を作っているのだ。

 などと思いながら食堂の先頭争いに負けた俺はこの妙な列の只中にいた。

まだ俺の番が来るまではかかりそうである。

いやそれはまだいいのだ、中途半端なタイミングで列に加わったが為に、

列から抜けてすいた頃にまた来るといった事が出来ない。

この環境というのがまたなんとも憂鬱で人間が多数いるためにその会話は周りの音を遮ってしまう。

まるで動物園だ。

こうも騒がしいと先ほどから流れる放送の内容もろくに聞き取れやしない。

断片的に聞こえた言葉は『生徒会』や『募集』といった単語である。

まあ俺には関係あるまい

『次のひとー』

おばちゃんの声が騒がしい中でもはっきり聞こえた

どうやら俺の番が来たらしい。思考には時間を操る力でもあるのだろうか?

そうして俺は無事、昼ご飯を手に入れて教室へ凱旋したのだった。

「ちょっとォ小笠原君、どこ行ってたんですか~」

そこには図々しくも人の席にふんぞり返って昼ご飯をたべる神崎川がいた。

「お前今来たのか?もう休んでもいい時間だぞ」

俺は言いながら神崎川の席を引っ張りだして座った

「何を言ってるんです?小笠原君、私は最初っからいましたよ?」

神崎川がいたずっらぽく笑う

俺は構わず神崎川が机一面に展開した弁当箱の蓋などをどけて先ほど食堂で買った昼食を広げた

「っちょっと!滑ったかもしれませんけど無視が一番きずつくんですよ!」

「んん?俺はただ一人で飯を食うだけだ。一人芝居なら他所でやってくれ」

「泣きますよッ?いや抱きますよッ?」

神崎川は俺の肩を激しく揺らしてきた。

ご飯がボロボロ箸から零れ落ちている。

「ところで神崎川、なんたって今日こんなに遅くくたんだ?」

神崎川は突然俯いて

「・・・からです」

聞き取れない程に小さく呟いた。

きっと神崎川にとっては、人に言えないことなのだろう。

「なんて言ったんだ?もう一回言ってくれよ」

俺がそう言うと神崎川は、

「ああああああああああ!もう!いいじゃないですかァ・・・」

手で顔を覆い隠して言った。指の隙間からこぼれ出た頬は紅潮していた。

こっりゃ面白い!!

なるほど神崎川をからかうとこんな反応をするのか。

まあ俺も少しやりすぎたな。

だが神崎川の指の隙間からちろちろ見てくるのはなかなかに不快だな。

「・・・ところで」

神崎川がいつもより少し小さい声で言った、全く不気味である。

一体どうしたらこんなにもあの神崎川がしおらしくなるのだろう。

まるでコーンポタージュに入ってるカリカリのパンだ

「唐揚げ一個ください」!

「だめだ」

「一個ですよ?それぐらいいいでしょう?」

こいつこの一瞬で本調子に戻ってやがる!おきあがりこぼしかおまえは!

「おいおい、神崎川ァ見てみろ俺の昼飯を唐揚げ三つに白米一パックだ!お前に一つあげちまったらこの量の白米をどう食べろっていうんだ?」

「そのまま食べればいいじゃないですか」

このアマァ言いやがった禁断のことばを!

「そういうお前は大層豪勢な飯じゃあないか!!」

そういうと俺は神崎川の弁当箱からデザートでを奪い取り、一気に飲み込んだ!!

こんにゃくゼリーだった。

 その後、何とか一命を取り留めた俺はそこからの一生を病院で過ごしたわけもなく

クラブ紹介の為に体育館に集められた。

「うう・・・ゼリー・・・」

後ろから神崎川の悲しそうな声が聞こえる。

「おい神崎川、もういいだろ唐揚げやったんだから」

「でもォでもォ」

「大体、お前がひとの昼飯を狙うからこうなったんだ。唐揚げを返して貰いたいね」

神崎川はまたしても俺の肩を揺らsi・・・

「吐く!!吐くから方揺らすのやめろ!!」

「小笠原君が私をいじめるからわるいんですよ!!」

神崎川は勝ち誇ったように悪い笑顔で言った

「たく今日は災難だこんにゃくゼリーはのどに詰まるし、吐きそうになるしな」

「それらは全部小笠原君の自業自得じゃないですか」

俺が言い返そうとした時、

「お前らそんな仲良かったけ?付き合ってんの?」

沢良木がへらへら話しかけてきた

「なんだ憎き糞野郎こと沢良木じゃあないか」

「小笠原ァ!!心の声が出てるぞ!!」

心で思っているだけならいいのか

ワーワー喚いている沢良木を横目に俺はふと神崎川の方に目をやった

神崎川はシーンとなってり俯いている

「おーい神崎川?」

ははあーん?こいつ沢良木の事、好きだな

俺はほくそ笑んだ

その後、部活PVを流され、生徒会長が壇上にて何かを演説した。

しかしこの生徒会長、中々に奇人くさい、

丸メガネで一見おとなしそうな女子であるがなぜかゲールを巻いている

[chapter:邂逅]

その後、校内を自由に歩いて各部活動を見学する時間となり特に行く当てのない俺は、

中庭のベンチに腰掛けて、ぼーっと思考していた。

そんな俺の安寧を終わらせたのは、やはり神崎川だった

「あっ小笠原君!!」

そういうと神崎川は校舎に通じる扉から駆け寄ってきた。

「小笠原君なにやってるんですか?一緒に回りませんか?」

などと神崎川が話しかけてくる中、俺は気が気ではなかった

なぜなら

「君、あのベンチで暇そうにしているのが君の友人かな?」

生徒会長殿を神崎川が連れているからだ!

「はい!」

なに勝手に友達認定してやがるんだこいつは

そんな事を気にせずに会長は問うてきた

「ところで君が小笠原君かな?」

「そうですよ」

俺がそう答えた瞬間、会長の口角が心なしか上がった気がした

「しかし会長、どうしたんですか」

俺が問うたら、少し会長は驚いたような顔をした

この人案外、表情豊かだな

「じつはね・・・」

会長が口を開くと

「かっ会長ォ?言わないでって言いましたよね?ね?」

神崎川は会長の肩を掴みながら会長に語り掛けた

神崎川の顔からは血の気が引いていた。

会長は少し考えこんで、神崎川に向けニヤリとほくそ笑んで

「神崎川君はどうも極度の方向音痴でね、入学以来たびたびこうして目的地まで案内しているのさ」

言い放った

「かいちょおおおおお!!言わないでって言ったのにいいいい!!」

神崎川は発狂しながら膝から崩れ落ちた。

どうやらよっぽど方向音痴である事がコンプレックスだってらしい

「お前・・・もしかして今日遅刻したのはそのせいか?」

神崎川は突如にして立ち上がり、

「ああああああああ!」

俺と会長の肩を激しく揺らした。

「いやうるさいせえよ!耳元で叫ぶな!鼓膜を殺す気か!」

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