箱入り娘
華川とうふ
とある村の娘の証言
こんな田舎町、大したものは何もないでしょう。
まあ、私にとってはこの村がすべてなんですけど。
この村から出たことはありません。
でも、恵まれた村でしょう?
こんな山奥でなにもないくせに、村人はほとんど遊んで暮らしている。
この村で生まれて、この村の水を飲み、この村で作られたものを食べて育ってきた私にとって、ここは離れることができない場所なんです。
ええ、出たいと思ったことはないのかって?
どうでしょう……他所に行ったからといってどんな人生が待っているかなんて想像もできません。
えっ、こんな田舎なのにほかの村人と違って、訛りがないって?
ええ、毎日ラジオを聞いて話し方を学んだせいかもしれませんね。
ありがとうございます。
さて、時間もありませんし、貴方様の望むことをいたしましょうか。
あら、そんなことでいいんですの?
この村に伝わる呪術をお知りになりたいなんて……そんなことのためにここまでくるなんてお気の毒な方……。
でも、いいでしょう。
私が知っていることをすべてお話いたしましょう。
この村に伝わる呪術、一般に『箱入り娘』と呼ばれています。
名前の通り、生贄になる赤ん坊を生まれてすぐに箱にいれて育てるのです。
産湯に入れるどころか、生まれてすぐ、赤ん坊が入る大きさの箱に。
そして、その箱の中ですべてを済ませます。
食事も風呂も何もかも。
成長すれば、箱をばらして、更に大きな箱に作り替えて。
箱は木でできていますからね。ばらして、くっつけてさらに大きなものにしていくのです。
最初の箱の大きさは、そうですね。そこの隅の床板が一番濃い部分がありますよね。あれくらいの大きさです。
赤ん坊が大きくなって歩き出したら、箱を抜け出してしまうだろうって?
もちろん、赤ん坊が成長して這いまわる様になれば、壁を高すればいいだけです。
そうやって、生まれてから赤ん坊の足の裏が外の世界に一歩たりとも踏みしめることのないように育てます。
ええ、もちろんこんな育て方じゃ、昔は成長する前に赤ん坊が死ぬことが多かったそうです。
そのせいで、なかなか箱入り娘が完成せずに、村が困窮することもあったそうです。
成長した赤子がどうなるかって?
箱入り娘は成長すると流した涙は真珠に。
流れ出る血液は紅玉に。
そして、箱入り娘が産み落とす赤子は金塊に。
そう、箱にいれて大事に育てた恩返しをするかのように。
村はそのおかげで豊かになるのです。
もちろん、箱入り娘はいつまでも生きていません。
いくつかの金塊を村にもたらしたあと、箱入り娘は死にます。
もちろん、その死後も箱から出すことはありません。
一種の呪いですからね。
箱から出したら呪いも一緒に漏れ出てしまいます。
まあ、そんなことどうでもいいですけどね。
こんな馬鹿げたお役目さっさと終わりにしたいんです。
さあ、私が金塊を生み出せるようにお手伝いください。
そんなの馬鹿げてるって?
常識ではありえないようなことをするから呪術として成り立つのですよ。
呪術を研究される学者先生ならそれくらいご存知ですよね。
箱入り娘 華川とうふ @hayakawa5
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