パンドラと、希望と……

雲条翔

パンドラの箱の中身

 私は、女神パンドラに訊ねた。


 君が、時折楽しそうに中身を眺めている、その箱。


 その中には、何が入っているのか。


 同じ神のよしみだ、教えてくれないか。


 パンドラは答えた……。


 ◆ ◆ ◆


 教えてあげましょうか?


 人間たちの伝承では、「パンドラの箱」だなんて有名になっているみたい。


 ゼウス様から頂いた、「開けてはいけない」と言われていた箱を好奇心から開けてしまって、詰まっていた数々の災厄が飛び出し、世界中に不幸が蔓延して……箱の底に最後まで残っていたのが「希望」だとか。


 そのあとね。

 人間が勘違いしているのは。


 そのあと、絶望した人間のひとりが、残っていた「希望」欲しさに、箱に飛び込んだのよ。


 ひとりが最初に飛び込んだら、二人目、三人目が「次は自分だ」と言い争いを始めて。

 そんなに「希望」が欲しかったのかしら。


 そんな大きな箱じゃないから、人間ひとりが入れば、いっぱいになっちゃうじゃない?

 私は、箱を広げて、もっと大きくしてあげたの。


 そしたら、もっと多くの人間たちが、「希望」にすがって、箱に入っていく。


 身近な場所にある「希望」を探しもしないで、誰かに「あそこに希望がある」と聞いたら、無条件に信じ込んで、取りに行くような愚か者ばかり。


 私は、さらに箱を広げてあげたわ。

 もっともっと、大勢の人間たちが、箱に入って「希望」を奪い合った。

 悲惨なものね。「希望」を求めて、互いに殺し合うなんて。


 気づけば、人間すべてが、箱の中に入り、箱の中で暮らすようになっていたの。


 こうして、広げて大きくなった箱がね。


 地球って場所なのよ。


 長い時間が経って、人間たちは、自分たちが「箱の内側」にいることを、忘れてしまった。そして、今も争いながら、「希望」を欲しがっているの。


 多分、他人と争ってまで探すうちは、永遠に見つからないでしょうね。

 だって、「希望」ってそういうものでしょう?


 私は、時折「箱」を開けて、その無意味な争いを眺めるの。


 とてもいい気分よ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パンドラと、希望と…… 雲条翔 @Unjosyow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ