中学生サディスティック

乃仲 柔

一 酩酊

私の恋はいつまでもサディスティックである。


今日の表現ではドSと言うのかもしれない、(しかし、そんな一般的ではない)常に支配し、私のものにする。

そうして、私は言い難い悦楽に浸って居るのだ。


一般世界は私のことを非人道的・鬼畜と言って非難するだろうが、この衝動は後天的なもので有り乍らありながら、仕方のないことなのだ。

私のこの可笑しな・サディスティックな衝動を遡ると中学生にまでになる。


私は両親から十分な愛を受けて育てられた。

実際そうだろう、私には兄弟はいない。ごく一般的な家庭の一人娘で、ごく一般的な女児であった。

そんな私は恋をした。

相手は、三守みかみという私の幼馴染であった。


幼稚園からの付き合いで、親同士仲が良く、というような在り来たりな「幼馴染」で、「小・中学校に入ってから急に恋愛対象に成る」という、思春期の在り来たりなラヴ・ストーリーである。


今考えると、三守は容姿端麗な男であった。それであって、皆の太陽のような存在だった。その影響で付き合いの深かった私は他の女から妬まれることが多々あった。

それがある度、他の女には「お前の努力不足だろ」と馬鹿にしていた。と同時に、羨望の目は気持ちがよかった。

そして、「三守を私のものにしてもっと他の女を羨ましがらせよう」とふと思った。

勝算はあった。

学年一の美少年、三守を私のものにすることで、自分だけの快楽を味わおうとした。

そして、「私なら此のアイドルを自分のものにできる。」そう確信していた。


私の予想は的中した。

周りの女からの羨望・嫉妬の代わり、憧れを自分のものにできる権利を手にしたのだ。私は歓喜した。最早もはや、”好き”より”独占悦”が上回る程に。

(しかし、愛していなかったわけでは無い)

そう、アイドルは私にとって”攻撃力”を以てもつて、相方の”守り”を捨てていた。(アイドルの彼女という攻撃面と、自分は他の女からの妬みを受けるように)

三守は私にとって武器の一面、悦楽に浸る道具の一面も以ていた。


そんなある日、三守の部屋に行った私は、机の上にあるスマートフォンに目を向けた。

画面に表示された「一件の着信 かな」


三守は寝ていた。浅く。

走る緊張。女の名前、直ぐに疑った。浮気を。

私は下手ながら三守を愛している筈だった。


起きた三守を静かに問い詰めると、

「違うよ。これは友達。」

「一番愛してるのはお前だよ。」

そう言って憎たらしい笑顔で接吻した。

この笑顔。人間はこんな逆境であんな屈託のない笑顔が出来るのか?

私には拒む気力さえ、あの笑顔で吹き飛んでしまった。

そんなの、周りの女と一緒。「惚れた」のだ。すでに付き合って居ると言うのに。

「この男は二度落とすことが出来るのか。」そう思いながら、三守に体を委ねた。


が、三守とは直ぐに別れてしまった。

彼は浮気をした。休日、二人で動画を見ているときに着信があった。再び問い詰めると三守は全て吐き出した。もう何度も見逃してきた(あの笑顔、あの顔、あの半笑いの侮辱するような表情。)


私は覚悟を決めた。別れるという、”自殺”とも取れる行為。

その相手は学年ナンバー2の美女と謂われる青海おうみだった。


何を隠そう、此の青海とも幼馴染であった。


彼女は学校中の女子を裏で束ねる”ボス”的な存在だった。それと、私が三守と付き合ってることを好くないと思っている女から擁護されていた。(これが組織の嫌なところだ。所詮学校の為政者いせいしゃの金魚の糞でしかない雑音。そう言う奴が組織を腐らしている。自分のユーモア、センスで成り上がれなかった奴、なんと惨めなんだ。私は軽蔑する)


そして月曜日の朝、私は青海に激怒した。正気か?浮気など鬼畜の所業だ(今の私からしてみたら滑稽だが、此の時はまだ幼気いたいけだった)


「は?」青海は言った、その刹那、私は其の冷淡な言葉で色々な感情が沸き上がった。


「あんたが、ちゃんと愛していないからいけないんでしょう?」

「違う、」

私は反論しようとした。

しかし、

「それは優亜くんが選んだからだよ!」

周りの取り巻きから。

「そんなわけない、そんな、」

私は泣いた。月曜日の朝、廊下の真中で。

もう、三守は居ない。

武器の失った私は、ただの”元カノ”。

なんにもない。

これが私の初めての恋。中1だった。



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