Part4~再開そして敵対~

月光射す路地。

世闇の下、一つの影が、那月たちに立ちふさがった。

真っ先に目に入ったのは鬼の面。おそらく素顔を隠しているのだろうが、路地の暗闇と浴びた返り血によってその姿はまさしく修羅に見えた。

服はストリート風の薄手ジャンバーにダメージジーンズ、Y字型に開いたジャンバーの間からは黒みがかったTシャツが見える。

体格的には男だろう。そして、何より目を奪われたのは、腰に携えられた鞘と、右手にしっかりと握られた、一振りの太刀。


那月はそいつを一瞥し、腰にあったホルスターからGlock13を抜き放つと同時に、セーフティーロックを解除し、トリガーに指をかけた。

「Stop and drop your weapon止まれ、銃を捨てろ!」

バレルが向いているというのに、微動だにしない。

「ほう?貴様ら、捜査隊の人間か?」

琥珀も後を追うようにLARグリズリー愛銃を抜き放つ。

「警告です。止まってください、武器を捨て、両手を頭の後ろに組んで伏せてください。」

「断る。と言ったら?」

刹那。Glockのバレルが轟音を吹いた。

閃光のように放たれた9×19㎜パラベラム弾は、しっかり仮面男の足を捉えた。


筈だった。


男は目にを止まらぬ速度で右手の太刀をふるうと、金属同士がぶつかり、こすれ合う甲高い金属音が響き渡る。

閃光は二つに割れ、衰えた勢いのままコンクリートに着弾し、消滅した。

「ッ.......!?」

弾丸を切った。漫画やアニメにはありがちなことだが、本来であればできるはずのないことをこの男は平然とやってのけたのである。

驚いたのは那月だけではない。すぐさまLARグリズリーを構えなおした琥珀は、すぐにその男の眉間にバレルを合わせると有無を言わさず引き金を引いた。

45ウィンチェスターマグナム弾の高威力。その轟音は予想以上であり、激しい火花と共に撃ち出されたそれは、またもや仮面男を捉えるに至らなかった。

しかも、目にもとまらぬ猛スピード、風のような剣戟で、高威力弾丸を切り落としたのだ。

「その弾丸が俺を捉えることは無い」

刀を鞘に戻し、ひねるように腰を曲げると、右足を強く踏み込む。そうして、刀の柄に軽く手を当てた。

彼女は、その構えを

「琥珀!?伏せろぉぉぉぉぉ!」

叫んだ刹那。雷鳴と閃光を纏った一太刀が襲い掛かった。


無音だった。だが、ぎりぎりで回避した。

ほんの刹那。瞬間の出来事。見えなかった居合抜刀

達人の芸当で刈り取られる寸前だった琥珀の首は、どうやらつながったようだ。

文字通り伏せた琥珀。その上を通り過ぎた瞬間の剣戟。

しかし結果として、突進のように突っ込んできた彼は、振り下ろした後隙を琥珀にさらすことになったのだ。

近距離まで迫った琥珀と男。その瞬間。伏せた体制の彼は、そのまま男の顎をめがけて拳を繰り出した。

強い打撃音。まともに入った拳は、男をよろけさせ、仮面を吹き飛ばしたのだ。


「やはり、貴様だったか」


その素顔をあらわにした男に、那月はそう呟いた。



まだ彼女の家族が亡くなって間もない頃。

彼女は孤児院に引き取られた。

そこにはの、当時能力者犯罪が横行したころに、能力者に家族を奪われた子供たちが暮らす部屋があった。

そこで出会ったのが、彼だった。

氷月 錬ひづき れん

彼もまた。能力者に家族を奪われた少年だった。

当時まだ小学生ほどの年齢だった彼女たちは、サッカーをしたり、絵をかいたり、積み木で遊んだり、日替わりで使えるテレビでともにアニメを見たりなど。

兄弟、はたまた、幼馴染同然のように過ごした。

時が経ち、中学時代。

思春期だからか、はたまた、忙しくなったからか、彼女たちがともに遊ぶことは極端に減った。

そうして、互いに引き取り手が決まってしまった。

錬は剣術を引き継ぐ名家の養子として

刹那はCRONUSの特務捜査官養成学校の学生として

最後に話した時。こんな約束をしていたのを、互いに覚えていた。


「次会う時には、お前を守れるくらい強くなってるよ」

「その時代感。もう古いよ」

微笑みながらそういう那月は、とても穏やかで、自分を責め続けた少女にはとても見えなかった。

「じゃあ、約束。今度会った時には二人で......」



「なあ?錬」

黒と赤に染まった路地裏。

その隅で、互いに銃と剣先を向け合う、那月と錬。

「いつからわかった?」

さわやかな水色の髪。素顔が露わになり、紫に光る瞳はまっすぐに那月を射ている。

「さっきの居合抜刀だ。貴様が本格的に寺に引き取られる前、練習していたのを見ていたよ」

「なるほどな。それはお手上げだ」

「それで?なぜこんなことをしている、錬」

「君もわかるだろう?刹那。こんな世の中には、今も、俺達のすべてを奪った能力者たちがのうのうと生きている」

「だが、そいつらを勝手に殺せば、貴様も同罪だ」

「わかっているさ、だからこそ、犯罪者どもを皆殺しにした後、その罪ならいくらでも引き受けよう」

「お前は狂っている」

「狂わないとやっていけないんだよ」

互いに感情的になる。

話していくうちに互いに怒りがこみあげていく。

ついにトリガーと、柄に手が当たる。

「どうする?錬」

「何がだ?刹那」

「私はお前を殺してでもここで止める」

「俺はお前を斬ってでもこの場から退かす」

強くグリップを握る。

手袋から張り詰めた音が聞こえるほどに、ただ、それは彼も同じだった。

彼もまた、冷静さとともに怒りを共存させ、彼の握る太刀の柄からも同じ音がする。

さっきと同じ、居合抜刀の構え。同時に刹那は、トリガーに指をかけた。

「最後の警告だ。その刀を置き、両手を頭の上に組んで投降しろ」

「断る」

刀身が月光に妖艶に反射する。

そうして、那月がトリガーを引いた瞬間。

雷鳴とともにホワイトアウトした那月の意識が最後に聞いたのは、たった一言。

「すまない」

戦いの末に立っていたのは、錬だった。


これは、彼が戦い続ける物語

これは、彼女が彼に追いつく物語


あとがき

皆さんこんにちは、長月零斗です。今回は戦闘シーン大目になります。

はい、予告通り主人公の一部過去が明らかになりました。次回はこの世界の歴史と主人公の能力について明らかになります。さて、主人公と錬君の途切れた関係。そして、錬と刹那の秘められし約束とは⁉いつの日か明かされる彼女たちの結末をお楽しみください。

それでは、また次回お会いできることを願って。

そう、これは、この物語を見届けるべく、作者が頑張るあとがき

そう、これは、この作品がいつの日か、この作品が世に出ることを夢見た作者が頑張るあとがき。

                            By 長月

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