能力世界の白雪戦士

長月零斗

prologue~燻る炎、始まりの銃声~

オレンジ色の陽が廊下を染め上げる。

教室どころか、学校内にすら生徒がほぼいなくなる時間帯。

そんな中、少女はは職員室から出てきた。

全体的にみると小柄な少女、制服から出ている華奢な腕からは、少しでも触れれば折れてしまいそうなほどに細い。一見、不健康そうな印象を受けるが、夕闇を照らすくすんだ蛍光灯に反射する純白の髪が、つややかなその白い肌が、そうではないことを暗に示している。

「失礼しました」

相変わらずけたたましい音を立てて閉まるドア、オレンジが染みる廊下を一歩ずつゆっくりと歩きだした少女は、ゆっくりと窓の外を見上げた。

彼女の名は、那月刹那なつきせつな。

今回、授業態度不良ということで、職員室に呼び出されてしまった、哀れな少女である。

今までの説教を思い返し、居眠りなんてするんじゃなかったとうつむく。

外はもう暗がりがオレンジを食い尽くそうとしている。

どうやら長い時間説教を食らっていたらしいことを、那月はそこで理解した。

「まったく、お話が長いよ、先生」


長時間の説教でひきつった足を延ばし、「帰ろう」とつぶやいてから、彼女は歩みを進めようとした。

しかし、ポケットの中でスマートフォンが振動したのを感じ取った彼女は、すぐさま制服のポケットからスマートフォンを取り出し、通信アプリを開く。

連絡先には、こう書かれていた。「CRONUS」と。

彼女は通信アプリをスライドし、留守電を開く。

その欄にあった”U”という頭文字をタップすると、音声を再生した。

その留守電は冷たい雰囲気から始まる。

「敵対勢力確認、攻撃を受ける可能性があります、注意してください」


もうすでに薄暗くなった路地裏を蹴り、微かに差し込む青紫色の光を浴びながら駆け抜ける。

ここは家までの道ではないことは、那月もわかっていた。

そもそも普段であれば、こんなくすんだ腐敗臭と埃が舞うような路地裏ストリートなんぞ足を踏み入れすらしないだろう。

それこそ、今路地裏で通路から通路へとコンクリートの角に体を隠しながら走ったりなんぞしない。

そう、おそらく、

背後からの熱気、いやな予感がした彼女は直後、急激に体制を変えた。すぐさま足を弾き上げ、コンクリートを滑る。

なびく白銀の髪をかすめた火の玉、それは通過した後、コンクリートが黒く焦げ付くほどの爆炎を一瞬にして引き起こした。

熱気とともに襲い来る爆風が辺りを震わせる。彼女は急遽体を丸くし、爆風の熱気に小さいうめきを上げながらコンクリートに打ち付けられた。

制服のスカートやら、学校用のタイツがほつれを起こし、破れていく、ところどころ透き通った白い肌が露わになる。

何とか立ち上がった。周囲を一瞥し、爆炎が辺りを包み、逃げ場がないことを確認した彼女は、路地の角に飛び込んだ。

深呼吸をし、現在の状況を確認する。襲撃者の人数は不明、おそらく能力は発火系統の、典型的な”パイロキネシス”だ。

”パイロキネシス”体から熱を発する系統の能力か、それとも、体内から直接炎を出す能力か、今回はおそらく後者だろう

あの爆炎を見る限りでは、直撃すれば問答無用であの世への片道切符急行便である。

そう考えた那月は、もう一度角を覗く。

まだ敵は近づいてきていない。

あいつと戦うには武装が必要だ。しかし、那月は武装を所持していない。

そういわば、丸腰状態。そんなものでは到底能力者とはまともに戦えない。

しかし、武装さえあれば話は別である。

すぐさまスマホを取り出した彼女は、通話アプリを開き、ある人物に電話する。

「那月様、どうされましたか?」

「コード404」

「かしこまりました」

ただ、それだけの会話、普通の人間から見れば、何の会話だったのかわからないだろう。

しかし、これはいわば彼女にとっての緊急コードである。

ここからだと、約3秒くらいか。

心の中で判断した彼女は、相手の様子をうかがうべく、鉄筋コンクリートの角から顔を出した。

いまだ敵の姿は見えない。

しかし、空気を沸かすような熱気は、刻一刻と温度を上げていた。

そう、近づいてきているのだ。

3秒であれば刹那のような間、空気を割く音とともに、空から黒い箱が落ちてくる。

コンクリートの地面に打ち付けられてもびくともしないその箱を開けると、緩衝材の中心に一丁の銃が鎮座していた。

M92F、ベレッタという愛称で親しまれている銃である。それと一緒に緩衝材の中からは予備マガジンとそれにフルで詰められた弾薬があった。

熱気は温度を増してきている。もう待ってはくれないようだ。

マガジンをグリップ下から叩き込み、荒々しい手つきでスライドを引く。

マガジンを付属のホルスターに入れて深呼吸。M92F愛銃を握る手に汗がにじんできたのは周囲の暑さからだろうか?それとも緊張からだろうか?

少なくとも、その時の彼女にはどうでもいい話だった。

そこからも刹那の時は流れ去る。彼女からすると3分ほどの時が流れただろうか?ものすごい熱気とともにコンクリートを打ち鳴らす足音が迫ってきていた。

チャンスは一度、失敗すればこの路地裏と仲良く焼死である。

(まだだ、まだひきつけろ)

彼女は内心焦っていた。しかし、それを押しとどめながら相手が適正距離まで近づいてくるのを待つ。

まだ......

足音とその反響が近づいてくる

まだ......

周囲の空気に息をすることすら苦しくなるような熱気が発生する。

まだ......

そして静かなストリートで息遣いしか聞こえなくなったその刹那

今だと、満を持して飛び出した。

まず目に入ったのは、赤を帯びた体。次に、その周囲に渦巻く熱炎。

相手がこちらに振り向く瞬間に、彼女の愛銃、そのバレルは相手の脳を捉えていた。

「終わりだ、炎人間」

そうつぶやく前か後か、彼女の愛銃から放たれた弾丸は、その炎人間の脳天を貫いた。



暗闇が空を飲み込み切った夜。

戦いを終えた那月は現在、「CRONUS」の本部に足を運んでいた。一見ただの雑貨ビルだが、中身は違う。

もはや明かりすらなくなった路地裏の雑居ビルの中に足を運んだ主人公は、そのビルのエントランスの奥、エレベーターに足を運ぶと、B2を入力し、閉扉ボタンを押した。

機械的な音とともに分厚く冷たい鉄の扉が閉まり、浮遊感とともにエレベーターは降りていく。

そして止まったかと思うと浮遊感も消え、扉が開く。


そこには、大規模な地下施設が存在していた。

そう、この地下施設こそが、対能力者犯罪対策民間軍事企業CRONUSの中央司令本部である。

この組織は能力者犯罪によって家族や友人を失った経験がある人たちによって、公式的な政府の許可をとって起業された民間軍事会社P M Cである。

那月がこの組織に所属したのは6年前であり、この組織ができたのが10年前である為、だいぶ古参なのだ。

しかも、今までに那月が解決した能力者がかかわる事件は61件とベテランなのである。

なので、那月には専属のマネージャーがついており


「お待ちしておりました、那月様」


すると、スーツ姿で高身長なクール美女。黒くつややかな髪に整った顔立ち、青紫色の澄んだ瞳をしている、THE、お姉さん。といわんばかしの美女が、こちらに頭を下げてきた。

「ええ、ただいま、マネージャー」

そう、この人の名前を那月は知らない、それどころか、自分をサポートしてくれる文字通りの”マネージャー”としての側面しか知らないのである。

「早速ですが、CEOがお待ちです。会議室まで来いとの命でした」

「OK、今すぐ向かおう」

マネージャーから案内を受けた那月は、その鉄の反響する廊下をゆっくりと歩きだした。


「今回の件で君には昇格を命じたい」

第一会議室に通された彼女たちは、CRONUSのCEOである、グレン・イディスと面会していた。

その言葉が出た刹那、彼女の顔が、歪んだ。

「何か不服か?」

「お言葉ですがCEO、私に人を指導する、指揮官としての実力はありません、よって昇格を辞退いたします」

会議室に不穏な空気が漂う

「私の取り決めだぞ?」

「はい、私は指揮官としてふさわしくない、今まで通り、一人で任務をこなしたほうが成功率は高いと思われます。」

そうすると、なぜかCEOは吹き出し、笑い始めた。

「度胸があるな、那月大尉。いいだろう、明かすつもりはなかったが、これは明かさないといけないようだからな。実は君の師匠も君という弟子を持つ前に、同じ話をしたよ」

傑作だ、といわんばかしに笑うCEOに、怒りとも、呆れとも相いれない複雑な感情を抱いた那月。笑い終えたCEOが、那月の様子を一瞥してから、ゆっくりと話し始める。

「当時の君の師匠にも答えてもらった問題を出そう、民間軍事会社P M Cなどの軍事部隊にとって、必要な人間とは、どのような人間だと考える?」

その問いに、少し黙りこみ、考えを巡らせた那月。

「それは、一隊員としての実力に秀でており、柔軟な対応ができる人材。だと考えます」

CEOはにやりとした笑みを浮かべた後こう言った。

「確かにそれも大切かもしれないな、だが、答えはNOだ。いやそれにしても、おまえたち師弟は何処までも似ているな」

どこか懐かしむように、哀しむようにうつむいたCEOは、再びゆっくりとしゃべりだす。

「私が思う答えとは、結束力、仲間想いの集団行動に長けた隊員だ。確かに貴様の言うような個々人の技量に秀でた、いわばスターソルジャーのような人間も必要だろう、事実、貴様がそのような人間なのだ、しかし、人間はどれほどすごい能力を所持していようが、どれほどすごい技能を持っていようが、どれほどすごい知識を持っていようが、一人ではそれを扱いきることは不可能だ、だからこその他人との接触が大切なのである。私は、それに長けた人員こそ、最高の人員だと思うのだ」


確かにCEOが言っていることは正しい。それを分かってしまったからこそ那月はその場で黙り込んでしまった。


「わかりました、反抗した身ですが、その命を承ります」

その答えをきいて、再び口角を上げたCEOは

「ようやく受けてくれたか、では、貴様の部下は宿舎の305号室で待機させている。面会してはどうかね?」

「そうですね、まあ、私がうまく指揮できるかわかりませんが、頑張ってみます」



薄暗い光刺すコンクリート造りのアパート。

蛍光灯には虫がたかり、夕焼けすらない明かりはとても不気味な得体のしれない何かを隠し持っていた。

分厚さのある鉄の扉の前で、那月はメモ用紙を見ながら、何度も何度も部屋番号を確認していた。

「確かにここだよね?だよね、そうだよね」

なんて独り言をつぶやきながら。

はたから見れば明らかに変人だ。しかし、那月は必死だった。

那月はCEOと話した後、自らの部下となる人間に会いに来ていたのだ。

前に自分を育ててくれた師匠が言っていたように、部隊間のコミュニケーションというのは大切なのである。

しかしまあ、ここで意外な那月の悪いところである、「コミュ障」と「心配症」が発動してしまい、このざまである。

震える手でインターホンを押し、部屋主が出てくるのを待つ。

しばらくして、「は~い」というはきはきとした高めの声が聞こえ、玄関の扉がゆっくりと開いた。


「民間軍事会社CRONUS、大尉の那月刹那だ。ここは”宵島琥珀”少尉宅で間違っていないだろうか?」


すると玄関の扉を開けた青年が慌てて扉を固定すると、こちらに向き直り敬礼した。


「は!失礼いたします。那月大尉殿、小官確かに宵島琥珀です。明日からそちらの部隊でお世話になります。」


「ああ、よろしく頼む、今日はその挨拶に来たんだ、明日の午後16時から我々が当たる任務と主な内容についてのオリエンテーリングを行うから、本部の第一会議室に来てくれ」


「承知しました」


敬礼をして、コンクリート佇む薄暗いアパートを後にする。

そうして、世闇に包まれた外套の灯す道を、コンクリートを鳴らしながら歩いて行った。

「私が部下を持つなんて、いまだに信じられないことなんだがなぁ、あのCEOには毎度毎度してやられるよ」

だからついていこうと思えるんだけどな、と、舗装された道に消えてゆく独り言を吐き捨て、ただ、再び歩き出した。


そう、これは、少女が戦いゆく物語

そう、これは、彼女がかけがえのない仲間を手に入れる物語。



あとがき

皆さんこんにちは。え?過去作はどうしたのか?って.......えー、打ち切りです大変申し訳ございませんでした。それに関して、リアルが最近忙しかったりしたので、と、理由にさせていただきます。てなわけで、ここから新作なのですが、これを読む前に注意点を、作者が学生である為、定期更新はあまり期待しないでいただきたく存じます。また、今回みたく、いきなり「打ち切りです!」なんて言うことは今後ともないようにいたします故、信じてください、本当だよ?決して、本当でございます。

てなわけで新作、能力と現代の交差する世界で、一人の少女が、たった一つのことをなす物語でございます。そのたった一つを見届けるため、わたくしも尽力いたしますのでその過程をお楽しみください。

そうこれは、何時か終わる物語の始まり。

そうこれは、何時か始まる物語の前触れ。

                           作者:長月零斗

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