第46話 女神の悪意ですわ
リディアは人間に変身したメルトと護衛のメイを引き連れ、魔族領側の入り口からダンジョンへ入り、アーセルス王国側の入り口からダンジョンを出た。アーセルス王国の上層部に喧嘩を売り、王城まで破壊したリディアが堂々と街中を歩けているのは、ガルロンがリディア個人に対して手を出さないよう指示したからである。
元々鍛冶屋として有名だったガルロンは魔剣を大量生産し始め、大量のSランク冒険者を生み出したことで地位が飛躍的に向上した。そのため、ダンジョンの入り口がある都市を完全に牛耳っていた。また冒険者が多いこの都市は半分独立した都市として機能しており、その頂点に立つのがガルロンだった。王都にも広い屋敷を持っているため、非常に重宝されている。
リディアがガルロンの屋敷を訪ねたため、ガルロンはリディアと再会し、リディアが女神を殺し得る存在だと再確認した。この世界は転生者の思い通りに行かない世界であり、2回目の会合にしてガルロンはようやくリディアの本質を掴んだ。リディアは領主として人気こそあるものの、神性の獲得にまでは至っていない。それでも女神の呪いに対して、抵抗出来ているように見える原因。
『リディアは死を目前にして、死にたいと強く思える人間』
残念ながらガルロンは、リディアの性癖まで見抜くことが出来なかったが、リディアがきちんと呪いを受けていることを確認した。それと同時に、封印された女神の呪いのギミックについて再度考察した。
この世界を管理していた女神が、転生者達を苦しめるために創った法則。それが転生者の本意の反転であり、これは結果の方が反転しやすい。
例えば努力して何かを達成する、をそのまま反転すると努力しないで何かの達成も出来ない、となる。意思の全てを反転させると、転生者を苦しめる法則にはなり得ない。そのため女神は本意の結果部分を反転しやすいようにしている。
これに気付いた者は、当然結果を反転した思考をする方法について思いつくが、反転した結果が望むべきことだと意識しただけで運命がねじ曲がってしまう。死を間際にして、心の底から死にたいと願えるような存在は、残念なことにリディアが誕生するまで皆無だった。
ガルロンは、この意識の操作を強制的に行わせるために魔剣シリーズを開発した。その中の切り札的存在となるのはエイブラハムの持つすべての魔剣を扱えるようになる『リア』と、この世の全てに絶望し、自身の死を望むようになる魔剣『デプハスション』だった。
持つだけで強烈な死を望む魔剣が、もしも転生者に渡ればそれが反転し、一向に死なない人間が誕生するのではないかという目論みだったが、当然ガルロン自身も転生者の呪いを受けているため、自身の望むような転生者の手には渡らず、途中で追跡も出来なくなった。
貴重なジョーカーであるため、当然捜索を行うが見つからない。リディアもガルロンに対してデプハスションを持っていると告げていなかったため、ガルロンは未だにデプハスションを探し続けている。
ガルロン視点でデプハスションが見つかるのは3年後、もはやガルロンがデプハスションを意識していない時のことだった。
「マリアの魔剣はどのような魔剣ですの?」
「簡単に言ってしまえば、毒を作る短剣だな。持ち手の嫉妬や悪意を吸収して、斬りつけた相手に精神を崩壊させる毒を送り込む」
「……ということは、綺麗なマリアが見れるということですわね?」
「残念ながら、あの短剣を握りながらもなお腹の中まで真っ黒だったぞ」
ガルロンとリディアは情報交換をしつつ、マリアについても触れる。旧ロウレット帝国領で急速に勢力を増しているリンリン教の教祖かつ聖女を名乗り、女神の呪いに対抗するための神性の獲得に乗り出した人物。
昨今ではマリアが孤児達を利用した売春事業を展開しているという情報までリディアは掴んでおり、そのことをリディアがガルロンに話すとガルロンも「やはりか」みたいな顔をする。
それだけマリアは、マリアの動きを理解出来る者にとって胡散臭い人間だった。孤児を利用した売春事業により、情報を広範囲から素早く集められるようになったマリアは、新聞事業の方にそれを反映し、支持基盤を更に強化していった。
「リディアは、この世界の法則に気付いているのか?」
「ええ、気付いてますわよ。何度も同じ痛みや毒を受け続けていると、それの耐性が出来る。前世でもその傾向はありますが、この世界ではそれが顕著ですわね」
リディアが成功している理由について気になったガルロンはリディアに対し、転生者が上手く行かない法則についてリディアの考えを聞き出そうとするが、リディアは転生者が思い通りにならない件を把握していない。そのため、この世界の大原則について触れる。
技能や耐性獲得が早い。これは世界を管理していた女神が作ったルールではなく、この世界を作った神が作ったルールだ。女神が作ったルールについてリディアが触れなかったことで、ようやくガルロンの中には「リディアが破滅的願望を抱いているのではないか」という疑惑が発生した。
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