第38話 真実ですわ

リディアが領地に戻り、全方位敵外交を繰り広げている最中。ガルロンの屋敷にはリディアの他にもう1人、新たにガルロンの屋敷を訪れた転生者の姿があった。


「初めまして。ハイン王国孤児院特区長のマリアです」

「今回は色物2人だけか。

初めまして。鍛冶師のガルロンだ。ハイン王国での活動はここまで聞こえて来てるぞ」

「色物2人、ということはもう1人はリディアさんですかね」

「……最近は察しの良いガキが多いな。まあガキって年齢じゃないんだろうが」



1000人を超える孤児達と、万を超える生活困窮者を取り纏め、指揮を執るマリアだ。彼女もまた、名有りの魔剣、というよりは短剣に導かれるがままガルロンの屋敷を訪問した。


ガルロンはリディアが訪ねて来た時と同じように、女神の存在をマリアへ告げる。するとマリアはリディアと同じようにガルロンへ質問攻めをするが、その中にはリディアと違う質問があった。


「女神を殺害する意図は、これ以上不幸な転生者を増やさない他に、もう一つありますよね?」

「どうしてそう思った?ああいや、良い。リディアにもその質問には答えたから答えてやろう。

……女神を殺すことが出来れば、元の世界に帰ることが出来るかもしれない。僅かな望みだがな」

「それは嘘。少なくともこの世界で成功しているガルロンさんは元の世界に帰るつもりなんてないでしょうし、それは他の冒険者達も同じですよね?」

「ほー、すぐに見破るか。流石はこの世界で共産主義思想を広めることが出来た悪女だ」


そしてマリアの質問に答えたガルロンは、すぐに嘘を見破られ、マリアを流石だと褒める。その後2人は視線を合わせ、答え合わせをした。


「この世界で転生者は基本的に上手くいかない。思い通りにならない。それはその女神の仕業?」

「ビンゴだ。転生者を増やすだけ増やすなら、ここまで不幸な連中は生まれない。成功者ももっと多いはずだ。そもそも転生者を増やすだけなら女神にとって復讐にも何にもならない。だから俺達転生者には、生まれた時からあらかじめ女神の『思い通りにならない呪い』みたいなものがかかっている」

「そのことに気付いて逆手に取ろうにも、結局は成功を思い描くから難しい。……それが殺害する理由?」

「まあ、盛大な足枷だからな。呪いとは言うが、魔法の一種だろう。恐らく術者を殺せば、その呪いは消えるはずだ」


この世界の転生者には全員、思い通りに行かない呪いのような足枷が存在する。転生者を呼び込むだけ呼び込んで、成功されては女神にとって堪ったものではない。


だから強く願うほど、願望があるほど、その願いは叶わないようになる呪いが転生者には存在する。この世界を少しでも生き延びた転生者であれば、自然と気付くレベルだ。それほどまでに、元転生者の運命は捻じ曲げられている。


「……もちろんリディアさんも、この呪いは受けてますよね」

「受けているはずだが、どうやら本人に神性があればある程度は跳ねのけられることが分かって来てな……。あとは、強い意思がある場合もか。

だからこそマリアも、宗教の創始をしたんだろう?」

「人に頼られる人、崇められているような人ほど強くなりやすいことは私でも分かりましたからね。となると、リディアさんは自力でその呪いを跳ねのけていると」

「ああ。だからこそリディアは女神を殺害出来るキーマンになり得る存在だ。もちろん、表に出ずに知名度を上げている俺やリンリン教の教祖様であるマリアもだけどな」

「鍛冶師と冒険者にとっては、ガルロンさんは神のような存在ですよね」


そしてガルロンは、他人から頼られたり、崇められているような存在ほど、女神の呪いに対抗できる神性を獲得できることまで知っていた。その上でガルロンは、リディアがその神性を獲得しに行っているから女神の呪いに抵抗出来ているのだと考察していた。


もちろん、リディアはそのようなことを知る由もない。むしろ他人からの呪いや悪意を受けやすいように、それらを増強して自身にかかるよう調整をしている。その結果、リディアは常に思い通りに行っていない。彼女は乱暴にされ呆気なく純潔を散らされることをお望みだが、未だに処女なのが何よりも雄弁にそれを物語っている。


マリアもリディアと同様に、情報交換をすることに同意し、女神殺害計画に加担することを表明する。思い通りにいかない呪いの話を聞き、思い当たる節もあったマリアにとって、悲願の達成のためには女神を排除しなければならない。


この場にいる転生者集団は全員、女神の殺害を強く望む集団だ。転生者にとって思い通りに行かない世界。女神殺害計画。そのような自身達の望む計画が上手くいくのか、不安を抱えながらも、転生者集団は戦力を集め続ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る