第35話 時限爆弾ですわ

アーセルス王国はロウレット帝国よりも遥かに規模が小さいのですが、それでも人は多いですし豊かそうな国ですわね。今は飢饉の真っ最中とはいえ、きちんと備えもしていたようですし、流石はオーシェイ連邦とロウレット帝国という2つの強大な国に挟まれながらも独立を保っている国ですわね。


個人の戦闘能力を大きく上げるガルロンがいるというだけでも、大きい気がしますわね。Sランク冒険者の量産が可能な腕利き鍛冶屋がいるのはズルいレベルですわよ。中身はただのマッドサイエンティストですが。あの感情に作用する魔剣は、聞いたところによると元々は「主人公」を作りたかったとのことですわ。


よく物語とかで滅茶苦茶強いだけのキャラを絆パワーや怒りパワーや謎パワーで主人公が倒すという展開はありふれていますが、要するにガルロンは感情が一つに統一されている状態が人間の真の力を最も引き出せると考えているようで、怒りに支配されたり、復讐心に支配されたり、戦闘行動そのものが好きになる魔剣を作っているようですわ。やっぱただのやべー奴ですわね。


エイブラハムの隣にいた女の子なんかもう魔剣の柄を握ってないのに泣き続けていましたし、中々に個性豊かな連中ですわよ。あの女の子はメイによると、メイより強い存在だと感じたようですし転生者集団もやべー奴らですわ。


せっかくなのでアーセルス王国で色々と商談もしようと思いましたが、蝗害の時と同じようにワイバーン兵がチラシのような紙を撒いているのでまた事件ですわね。今度はアーセルス王国軍のワイバーン兵達が情報を配っていますが、明らかにワイバーン兵の練度はアーセルス王国の方が上ですわ……。


配られた紙を拾い読むと、ロウレット帝国の皇帝と第一皇子と第二皇子が殺害されたようで、犯人は第一皇女ですわね。皇城で殺人事件が起こるなんて物騒な世の中ですわ。……はい?


「メイ、ここに書かれているのは本当のことですの?」

「……ここまで突拍子な話だと信じられないです。ですが、これが偽情報だとしてもアーセルス王国に利益はないので……本当かもしれないです」


あまりの出来事に脳が一瞬理解を拒みましたが、要するにロウレット帝国の直系男子はこれで息絶えましたわね?第一皇女は誘拐された後、魔族達に何か仕掛けられてないか徹底的に調べられたはずですが、まあ魔法の練度で魔族に勝てるわけもありませんわね。誘拐された後、奪還されて、約半年後。


油断し切ったタイミングでしょうし、家族で夕食を食べる時に第一皇女は唐突に皇帝を殺害したようで、護衛や家臣達も騒然としたでしょうね。その後の第一皇子と第二皇子は第一皇女を止めようとして殺害されるとか、この2人は揃ってまあまあの無能ですわね。……いえ、無能でしたわね。


しかも皇城内では権力争いも当然ありますから、情報が錯綜して第一皇子派閥と第二皇子派閥が盛大に同士討ちした結果、僅か一夜にしてロウレット帝国の中枢は完全に麻痺しましたわよ。


魔族に洗脳されていた第一皇女はすぐに地下牢へと収監されたようですが、皇族はどんな問題児でも処刑だけはされない法があるので一生飼い殺し確定ですわ。当然第一皇女が継ぐという選択肢はないため、この状態のロウレット帝国を継ぐのは第二皇女か亡くなった皇帝の姉の2択という地獄ですわ。


どちらが皇帝になっても皇帝への求心力というものは低下するでしょうし、皇帝の姉の方は子供がいないので詰んでますわ。実質、第二皇女しか選択肢がない状態ですが、第二皇女は洗脳されていた第一皇女と接していた期間が一番長いですし……ロウレット帝国の崩壊が、一気に現実味を帯びてきましたわね。


これで飢饉が発生していなかったらまだ何とかなったかもしれませんが、帝国内に存在する私を含む王達は、上納金を払うことで帝国を構成する一部となっていましたから、今回それを払わない王が多数出れば一気にロウレット帝国は分裂を開始しますわ。


というか早速ハイン王国が離反を開始して、現在暴動真っ最中のヘルソン王もそれに続きそうなので崩壊待ったなしですわね。この2王国が抜けてもまだかなりの勢力図を誇るロウレット帝国ですが、この後も私が率いるナロローザ王国や、ナロローザ王国から見てハイン王国を挟んで反対側に位置するレオン王国が離反するでしょうからもう無理ですわね。


上納金自体は決して安くない額ですし、皇帝が弱くなって鎮圧されないなら独立する王が生まれるのは当然のことですわよ。元々アーセルス王国もロウレット帝国を構成する一王国でしたが、独立した過去がありますからね。


とにかくこれで、戦乱の世が訪れるのは確定ですわね。……国境の守りでも固めるよう指示を出そうかと思いましたが、そう言えば大規模な城塞を建築中なので特にやるべきこともありませんわね。せっかくアーセルス王国の王都まで来ましたし、この国の上層部へ適度に喧嘩だけ売って帰りますわよ。

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