第8話 血で血を洗う戦い(後)
僕の能力による攻撃の余波を校長のじーさんが赤い何かで弾いたと思うと突如、彼のだろうか、記憶が脳に流れ込んだ。なら、恐らく僕の記憶も彼に観られただろう。何故今回の任務でここへ来たのか理解して僕は声をかける。
「僕はね、もう知ってるよ。彼女を助けられなかったから。」
―泣いてる女の子がいたら、優しく声をかけて。きれいなハンカチを貸してあげるんだよ―
―お別れするときは、笑顔で、だよ。―
大した話じゃあない。隣人だったお姉さんが大人になってしまって、会えなくなっただけだ。二度と。
「う、うぐ…2人の、記憶…?」
僕の横に立つ風知が呻く。強い感情の載った能力同士がぶつかると稀に互いの感情や記憶が流れ込むことがある。…ッ!?待て、なぜヤツは能力が使える!?子供達(ぼくたち)の特権じゃあなかったのかい…ッ!?
頭がぼんやりしている、目を覚まそうと開いていなかった目を開くと、なっ!?、
「磔刑に処す」
ヒュガッ、と赤い何かがじーさんの手元で閃いたかと思うと、狼狽える僕と風知が手錠で戒められる。
「フン、血液操作の精度が甘い。鈍ったかな、もう少し意識を混濁させられたはずだが。」
「き、貴様何しやがったァ!」
「大したことでは無い。お前達の血流を止めて脳への酸素供給を断っただけだ。残念ながら、他人の血はあまり上手く操れなかったがな。」
言うが早いか彼の手に真紅の太刀が握られ、次の瞬間には横凪に振るわれていた。
なんとか左眼から刃を飛ばし戒めを解き、倒れ込みながら攻撃を躱す。風刃で手錠を斬った風知が倒れた僕を庇うように風の壁を展開し斬撃を防ぐ。今までと違って己の意思で使えるからか、風の操作が高度になっている。
苛立たしげに舌打ちをし、じーさんが叫ぶ。
「何も知らずにジャマしやがって!あー、あー、さっき覗き見したから知ってんのかぁ!?こっちもしょーもないモン見せられたぞ不快だ!!さっさと潰れろ!!」
太刀に加え、彼の肩から飛び出した赤い腕による攻撃が振るわれる。扉のあった壁が薙ぎ払われ崩れた。
「ずいぶんと感情豊かだなじーさん!子供みたいだね!!流、アレを!無くなっちまった!」
「い、いいいきなり名前で呼ぶなっ!?ほ、ほら受け取れッ!」
なぜか急に動揺した彼女からわさびチューブが投げられる。キャップが斬られたが丁度良い!
僕の身体を刺激が駆け巡る。涙が眼から溢れ出す。わさびのせいだ、それだけだ。
―僕の背丈よりも大きく、透明な剣が輝いて左眼から顕れ、僕の両手がそれを掴む―
「僕がお前の涙も背負う!後は任せろ!!!!!!!!」
風知がグレネードと風刃の合わせ技による爆風で、僕の足を薙ぎ払おうとしていた血腕を吹き飛ばす。真っ直ぐ突っ込んだ僕の持つ長大な剣、
―ティアリング・ティアー(引き裂く涙)―
が振るわれる。峰に強打され真紅の太刀が砕け、じーさんの年を取ってるとは思えないゴツい腹に一撃が突き刺さる。
ミッション、コンプリート。
***
その様子を彼らの預かり知らぬ所から観ていた包帯男が呟いた。
「やっとそこまで辿り着いたか。"担任"、手出ししすぎじゃないかなぁ…。ティアリング・ティアー、懐かしい得物だ。なぁ、"僕"よ。」
誰に聞かれるでもなく、その声は闇に散った。
***
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