第13話 第一話「夢か現か幻か……」 化け物
そして昼休み後半。
今日も屋上に向かった。空は青く平和だった。そして誰の姿もないベンチへと向かったのだ。私はそこで横になる。
だけど、すぐには眠れなかった。
やっぱりクラスのみんなのことが気に掛かっているようだった。でも、……いつしか私はまどろんだ。
「……ここは」
教室だった。
私は机に突っ伏していたみたいで、頭を上げるとその光景に絶句した。
クラス全員が眠っているのだ。これは今朝見た現実の状態とまったく同じだった。
「そ、
後ろを振り返り、園絵の肩を揺する。
だけどまったく起きる気配がない。そして周りのクラスメートたちにも同じ事をするけど、やっぱり起きないのだ。
「ねえ、起きてよっ!」
大声で叫ぶ。だけど誰も返事がない。
「ど、どうしよ?」
私は戸惑った。これは夢だとわかっていたけど、なにもできないのだ。
そのときだった。
教室の隅になにか黒いものがわだかまっていたのだ。
その姿は煙とも霧とも言えない感じで、向こう側がわずかに透けて見える気体のモコモコとした固まりだった。
「……な、なんなのっ?」
私は身を引いた。
するとその黒いものはぐんぐん大きくなって、やがて人型に変わっていた。
真っ黒な煙か霧のようなものが人間の形に変化したのだ。
そして大きさもずんずん伸びてきて、やがて天井まで頭が届きそうなほどに巨大化したのだ。
黒いものはなにかを探すように辺りに頭を動かした。
目も鼻も口もない。だけどこっちをじろりと見たのだ。
ぞぞぞと戦慄が走る。怖かった。
「……っ!」
机の影に隠れようとした。
だけど黒いものはそんな私に気がついたようで、その大きな手をぐいぐい伸ばして私を捕まえようとしたのだ。
「い、嫌っ!」
私はもつれる足で教室のドアを開けた。
そして廊下を全力で走る。そして振り返ると巨大な黒いものがドアから身を乗り出し始めるのが見えた。
窮屈そうだけど、腕から頭、そして身体と言った順番で徐々にその姿を廊下に出し始めたのだ。
「に、逃げなきゃっ!」
私はさらに走り続けた。
そして階段を駆け上がり、屋上へとつづく扉を一気に引いた。そして外へと飛び出したのである。
「お、鬼平くんっ!」
驚いたことにフェンスのところに鬼平くんが立っていた。
「どうしたの? 血相を変えて」
ところがちょっぴり憎らしいほどに鬼平くんは冷静だった。
「お、お化けが追っかけてくるのっ!」
フェンスまで駆け寄ると背の高い鬼平くんを見上げて叫んだ。
「お化け?」
「う、うん。教室でみんなが眠っていたの。そしたら黒いお化けが現れて、私を捕まえようとするの……」
「絵に描いたような悪夢だね。……ええっと、これはみすずさんの夢じゃないの?」
鬼平くんは苦笑する。
「ええっ! ……じゃあ、私が
「そう考えるのが、ふつうでしょ?」
私は驚いた。
今夜は怖い物語を読んだり、見たりしていない。
「あ、あのね。
……今朝、学校に遅刻して来たんだけど、教室に入ったら先生もクラスのみんなも熟睡していたの」
「熟睡?」
「う、うん。その後、みんな、保健の先生に診断してもらったんだけど、全然平気だったの。
だから集団睡眠じゃないかって話になったのよ」
私は一気にしゃべった。
その間、鬼平くんはひとことも口を挟まずに聞いてくれた。茶化したりふざけたりすることなく、真剣に私の話を聞いてくれているのだ。
「……集団睡眠ってのは穏やかじゃないね。なにか原因でもあったのかな?」
「ううん。教室の窓は開いていたから、空気が淀んでいたとかじゃないの。
それにみんながみんな徹夜明けだとかじゃないから、全然原因はわからないんだって……」
「だけど、それが元ネタになって、みすずさんがこの悪夢を見たってのがそうじゃないの?」
「う、うん。……そうかも」
「その今朝方の教室の印象が強烈に残っていて、それが夢の中で具現化してしまったのだと考えるのが、ふつうなんだけど……」
「ど、どうしたらいいの?」
私は鬼平くんに尋ねていた。
鬼平くんの正体はわからない。いや、実在するのかだって私は確認したことはない。
……だけど頼れるのは鬼平くんしかいないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます