第11話 第一話「夢か現か幻か……」 悪夢

「パラオか……」




 私は箸でごはんを食べながら、思わずつぶやいていた。




「パラオがどうしたの? 旅行にでも行きたいの?」




 するとお母さんが尋ねてきた。




「ううん。さっき勉強してたから。

 ……すっごくきれいな国みたいだから、もちろん旅行はしてみたいけど」




「パラオねえ……。

 確かおじいちゃんのお父さんが大昔にパラオで働いてたって聞いたわよ。貿易の仕事のために行ってたんだって」




「へえー」




 私はあのきれいな景色の国とつながりがあるなんて知りもしなかった。




「……それにしても」




 私はついひとり言をつぶやく。

 一日に二度も夢に現れた鬼平くん。彼はやっぱり実在するんだろうか? 近くに住んでいるのだろうか? 

 そんな事を考えていたら、食事が止まっていたので、お母さんから注意を受けてしまった。




 その夜、私は宿題も手早く終わらせて、早めに寝た。




 そして夢を見た。

 それはまがまがしい魔物が迫ってくる夢で、必死で逃げるのだけど、逃げても逃げても追いかけてくる。




「……っ」




 目が覚めると午前二時だった。真っ暗な部屋で時計を確かめた。




「ひどい夢……」




 気がつけば汗をびっしょりかいていた。

 まるで風邪でも引いたみたいに身体が冷えている。私は着替えをして、再びベッドへと戻る。




 だけど……、どんな夢だったんだろう?




 ものすごく怖い怪物が登場したのを憶えている。

 だけど、それ以外はさっぱり思い出せないのだ。




 私はしばらく時間がたってもまだ怖かったので、気晴らしに本を読み始めた。

 それは子供の頃から何度も何度も読み返した『赤毛のアン』で、表紙はすっかりぼろぼろになっている。

 だけど、物語は全然怖くないので、心の方はだんだん落ち着いてきた。




 ……そう言えば、東田先生は怖いものをイメージしちゃいけない、って言ってたよね?




 私は産婦人科医院の先生の言葉を思い出した。




 そして一時間ほど経ってから眠りについた。

 結果的に言えば『赤毛のアン』は悪夢のリハビリには最高だったようで、私はアン・シャーリーの視線から、ダイアナと会話をして、うつくしいプリンス・エドワード島の風景の中を歩き回ったのであった。緑の木々、小川、切妻屋根の家々……。




 翌朝のことである。

 私は遅刻した。

 目が覚めたときにはすでに授業開始の時刻になっていて、時計を見て顔が真っ青になったのだ。




「そ、そう言えば……」




 家にはお母さんがいなかった。

 今日は確かパートの日で早朝から出かけている。そしてもちろんお父さんは出勤しているので、家には誰もいないことから誰も起こしてくれなかったのだ。




「ど、どうしよ……」




 うろたえながらも寝癖を直し、制服に着替えて学校へと飛び出したのであった。




 そして到着した学校。




 私は昇降口で上履きに履き替えて、息を切らせて二階へと昇る。

 そしていちばん奥が所属する二年一組だ。




「……す、すみません。遅れま……っ!」




 絶句してしまった。私はドアをがらりと開けたまま固まってしまったのだ。



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