書籍

「・・・ワンちゃん、またここに居たの?」


 そこはまるで図書館のように、多くの焼かれて処分された書物が作者の込めたその使命を果たせず、燻った残滓の如くこの国の隠された歴史を記す本などが沢山並べられている。その部屋に、十才前後となった男の子が寡黙に勉強していた。


「・・・うん。あーちゃんは気にならないの?ここや、僕たちのこの『能力』ことを」


「・・・そんなの、なんとなくで分かってるわよ。ただ、言語化できないだけ」


「そんなフワっとした感覚なことだけでなく、僕は知りたいんだ。何のために、そして何をするべきか・・・・・・」


「・・・今日、夜、暇?」


「え?なんで??」


「いいから」


「・・・分かった」


 梓のその真剣な眼差しに、ちょっと面倒くさいとは言えなかった。

 二人ともがまだ十代だが、甘えれる親が居なく由緒正しい寺の住職や御弟子さん等が唯一の知っている生身の人間であり、皆が落ち着き、悟った大人の環境での世界しか知らない二人にとって「子供らしさ」とは何かすら認識することは無かった。


 梓は多くの霊体と接触し、毎年の盆には母とも繋がれるが、肉体的なスキンシップも無く死者だという認識がハッキリとした今では、虚しさすら感じてしまっていた。生と死の狭間すら分からなくなり、自分自身が生きている意味が見出せずに、逆に、自分も死ねば母と同じ世界で繋がれる。そんな気すらしてしまう。


 同じ「時の流れに」かどうかも分からない。そんなことぐらい梓には理解していたが、このマヨヒガ屋敷という鳥籠に軟禁されてるままの状態に、の「時の流れ」に意味は持てないでいた。


 唯一、この連続空間の後ろ髪を引かれているのは、梓にとっての姉弟と言えるワンちゃんと呼んでいる男の子の存在だけだった。


「夕食、何が食べたい?」


「・・・じゃ、パスタ」


「いつもの?」


「うん、ナポリタンで」


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