この作品はフィクションであり、原作・公式とは一切関係ありません

一嘘書店

マフィアパロ【オールキャラ】

【Attention】

・大して空気感が変わらないパロ。実質現パロ。

・生まれ育ちが違うので性格が若干原作と異なる



 朝一番に戦いの予定が入っているのも、マフィアの一員にはありふれた日常だ。

「おはよう。よろしく」

 捧が約束の待ち合わせ場所に着いたときには、長い黒髪を一つに縛った男が先に待っていた。

「……うん」

 返事かも怪しい声を出したあとは、タバコをふかすばかり。彼は、由羅はいつもそうだ。暇さえあればタバコ。吸っているときにこうして挨拶をしても、まともに返されることはない。

 知り合ったばかりの頃こそ対応に迷ったが、もう慣れたものだ。捧はいつものように由羅の隣に立った。

 濃い灰色のビルの間から早朝の空が見える。快晴だ。幾重にも張り巡らされた電線の上を、何かの鳥が軽やかに飛んでいった。

 特にすることのない捧は、待機中はぼんやりとするだけ。由羅は終わりかけのタバコを一口一口、深く味わっている。時間の流れがここだけゆっくりになったような、のどかな雰囲気だ。

「捧」

 名前を呼ばれた。タバコを吸い終わったと見える。吸い殻を靴で踏み潰して、火を消しているようだ。

「昨日の書類、もう出したか?」

「出した」

「……すご」

「へえ、書けてないんだ?」

「あの時間に、あの疲れ具合から報告書は、無理だろ。……はあ、捧のを写しながら書きたかったんだけどな」

「写真撮ってあるよ」

「マジか。助かる」

 捧は、今所属するファミリーに引き抜かれてすぐに、上司命令により由羅と二人一組で活動をすることになった。他人の計らいによるタッグの結成ではあれど、二人の相性は悪くはなかった。技術面でも性格面でも。

「うちの上司鬼畜だよねぇ。仕事の量半端ない」

「私はあいつのことを人とは思ってない。悪魔だ」

「わかる」

 出動前の上司の愚痴は、いつも盛り上がる。二人は直属の上司が同じ人物で、二人組としての任務の他に、それぞれに大量の仕事を流してくるのだ。

「今日だってこんな早くから掃除だろう? 嫌になるな」

 由羅が腕時計を確認すると、短針は五を差し、長針は頂点にほど近い位置にあった。そろそろ作戦開始の時刻である。と、捧の耳に装着された通信機に入電があった。

「――はい、捧です。どうぞ。――了解。かかります」

 変更事項なし、という本部からの連絡だった。由羅にも伝えると、彼はひとつ頷き、地面に置いていた拳銃を拾い上げた。

「よし、出撃だな」

 今手に持ったもの以外にも、ホルスターに一丁、さらには替えの弾も大量に控えている。由羅の拳銃の腕は、ファミリーの中でも上位に食い込む。

 捧も腰に挿した刀に手をかけた。柄を掴み、いつでも抜刀できるように。彼が引き抜かれた理由は、ひとえにこの剣技を見込まれたからだ。

 二人はともに、戦闘特化型。組織外の人間はもちろんのこと、ファミリーの仲間からさえも恐れられる捧と由羅のタッグは、『死神』というコードネームを与えられていた。




「こちら『死神』、捧及び由羅。目標の全滅を確認しました。戻ります。どうぞ。――了解。切ります」

 十五分と経たないうちに、終わった。乗り込んでいった敵対組織の拠点は一瞬にして血まみれになり、特別な指令も受けていない二人は、さっさと退散した。

「あー、疲れた、疲れた。由羅、昨日寝てる?」

「いいや。寝てない」

「徹夜仲間じゃん」

「捧もなのか。じゃあ、最後が楽な仕事でお互い助かったな。私はあとは、酒を流し込んで寝るだけだし」

「あ、オレも今日飲みたい気分。店に行くの?」

「自分で買ったのがある」

「由羅の部屋行っていい? つまみも持ってくからさ」

「ああ、むしろ来てほしい」

 嬉しい誘いで仕事終わりの疲労が少し和らぐ。そこから数メートル歩いたところで、ふと二人同時に立ち止まった。示し合わせたように、本部との連絡端末をそれぞれ持って、画面を見る。あからさまに由羅の表情が曇り、捧の口からは舌打ちが漏れた。

「砂京あいつ、マジで、何なんだよ。オレたちにやたらと押しつけやがって」

「この空いた時間で経理部行くんだろうな。くっそ、脳天に風穴開けてやろうか」

「好きな人に会いに行くために部下をこき使うって、あああっ」

 砂京への不満が一気に膨らみ、静かな路地裏で吠えるのだった。

「絶対、見返してやる! 下克上してやるからな!」




「はい、お疲れ様。今日の仕事送信しておいたんだけど見たかな? 捧くんは単騎で二件入れたからよろしく。由羅くんは早く報告書を出すように。何個溜まってるかわかっててやってるんだよね? じゃあそういうことでおやすみ。僕は朱莉のところに行ってくるから」

 本部に戻った『死神』を相手に、上司は一気に喋ると、浮かれた足取りですぐに場を去った。

「……ハァ?」

 声が揃う。理不尽に積まれていく仕事に、怒りが半分と鬱陶しさが半分。今日のヤケ酒が、そして寝て起きた後の激務が確定したな、と思うのだった。

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