第35話 直談判
井尻は普段の休みの日は昼まで寝ているタイプだが、今日は早起きであった。
ここ数日間、ダンジョンの情報通なクラスメイトに色々と話を聞いたのだが、やはりレベルアップはダンジョン内でないとできないだろうと言われてしまった。
既にネットではダンジョンの外でレベルアップできないか色々と試した結果報告がされているらしいが、成功者はゼロとの事であった。
レベルアップの情報は、生還した自衛隊員の情報のみ。それも、公式ではない噂話程度である。
しかし、自信満々に話すクラスメイトの話を信じた井尻は、今日ダンジョンの門まで直談判しに行こうとしていた。
学校の中でも、スキルの当選者は4名と少なく、ネットでは本当に世界で10億もの人が当選したのかと疑問が上がる位であった。
確率なので、どこかの国に偏っただけなのかもしれないが、日本での報告は少ないようである。
ならば、次のダンジョン探索にスキルを待つ自分を連れていけと自衛隊に直談判すればなんとかなるんじゃないか? と、井尻は友人達と盛り上がったのであった。
そうして朝から千代田区にあるダンジョンの門までやって来た井尻は、門を封鎖している自衛隊員に話しかけた。
「すいません。ここの責任者ってどこに行けば会えますか?」
井尻の突拍子もない質問に、話しかけられた自衛隊員は困った顔をしながら返事を返す。
「どういったお話でしょうか? すぐの取り次ぎはできかねますが、重要な内容であれば私が報告しておきます」
「俺、スキル待ちなんですけど次のダンジョン探索に一緒に連れて行って来れてってくれませんか? スキル持ちじゃないとダンジョンで戦えないって聞いたし必要だろ?」
井尻の言いように自衛隊員は更に困った顔になった。
上の方では確かにスキル当選者に募集をかけて再びダンジョン探索を。という話は出ているみたいだがまだ決定ではないし、こういった話の場合どう対応すべきかの通達は来ていない。
自衛隊員が黙ってしまったので、井尻は自分を売り込む為に、更にやいのやいのと話をするのだが、この隊員にどれだけ言っても仕方のない事である。
「どうかしましたか?」
騒ぎを聞きつけて、1人のスーツの男性が声をかけてきた。
「和久井さん。実はこの少年が自分はスキル当選者だから次のダンジョン探索へ同行させろと無茶を言っていまして……」
「ほう。それは本当ですか?」
「おっさんは誰なんだよ?」
自衛隊員の話を聞いて和久井と呼ばれたスーツの男性が井尻に質問するが、井尻は和久井を訝しげにみ見ながら答えではなく質問をした。
井尻の対応は頼み込む側ではない失礼な態度であったが、和久井はニコリと笑って井尻の質問に答える。
「これは失礼。私は
和久井の自己紹介と話を聞いて、井尻は直談判の意味があったのだと喜んだ。
「ああ! 俺のスキルは——」
「ここで立ち話もなんですのであちらのテントの中でゆっくり聞きましょう。スキル当選者には頑張っていただかなくてはいけませんから」
井尻の言葉を遮って、和久井は駐屯地に作られたテントへ案内する様に手を示した。
その扱いに井尻は気をよくし、頷いてテントへ向かう。
「よろしいのですか? まだ決定された訳では……」
「裁決も時間の問題です。それに、身内から参加者を出せば国民も納得するでしょう。これは国民全員で乗り越えなければいけない事ですから。その為の駒もちゃんと用意できる当てがあります」
「……分かりました」
一般の自衛隊員はそう言われてしまうと反論する事はできずに返事を返した。
和久井は満足そうに頷くと、井尻の後を追ってテントへと向かう。
井尻はこうして次のダンジョン探索のメンバーとして迎えられる事になったのであった。
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