第31話 会議
開門から2日が過ぎ、日本では全国の会社や学校が再開された。
メディアでファーストダンジョンアタックと呼ばれているほぼ全滅で終わったダンジョン探索であったが、その後も入り口の階段からはモンスターが出てこない事が世界的に確認された為、一般的な生活の範囲内は自宅待機の制限が解除されたという訳である。
今は、門の前には自衛隊が入場規制を行い、ダンジョンには誰も入れない様になっていた。
そうして会社や学校が再開される日の朝、未来の父親や母親は慌ただしく出社して行った。
リモートワークなどで仕事をこなしていたとはいえ、会社でしかできない業務が溜まっており、早く終わらせなければ連日残業だと笑っていた事から忙しいまでも余裕はあるのであろう。
とはいえ日常が戻ってきたので、未来も悠里と妃子を迎えに行くために以前の登校時間よりも早く家を出る。
弟の海智に家の戸締りを任せて、2人を順番に迎えに行って学校へ向かう道のりで、話題に上がるのはやはりダンジョンの事であった。
「日本はダンジョン攻略を諦めない方向でいくみたいね」
母親が国会議員の妃子がそう話した。
「そうなんですか?」
「ええ。ママがパパに愚痴を溢しているのを聞いたの。ママは党の方針に反対してるから今は爪弾きにされちゃって意見が通らないって言ってたわ」
「欅神楽先輩のお母さんも色々と大変なんですね」
「悠里ちゃん、そろそろ悠里ちゃんも妃子ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ?」
「えっと、はい。妃子……ちゃん」
「ほら聞いた? 未来も先輩じゃなくてちゃん付けでいいんだよ?」
「妃子先輩、下手したらパワハラですよそれ」
「もう、未来の意地悪ぅ!」
未来と妃子のやりとりを見て悠里がクスリと笑った。
3人の関係は良好な様である。
その後は、他愛のない話をしながら未来達は学校へと登校するのであった。
流石に妃子の母親も家で愚痴は溢せどその内容までは語らないが、今与党内で話されている事はこうである。
ダンジョンからモンスターが出てこないならば無理をして攻略しなくてもいいのではないか。
門の文章を否定して門をコンクリートで埋めるなどして封鎖した国の今回の被害は0であった。
その事から今回の被害を見て、同様に今からでも封鎖してしまい、ダンジョンに関わらないのが得策なのではないかという意見も大きかった。
事実そちらに舵をきった国もある。
しかし、日本はこれからもダンジョンの攻略を目指し、善玉菌になる事を選択したのである。
それは、議論中に専門家が指摘した門の文章の最後の一文である。
『ある程度
この一文から、ダンジョンのモンスターは最終的にはダンジョンから出てくるのではないか?
それまでに善玉菌として人が成長しなければ溢れ出したモンスターによって絶滅させられるのではないか。と言った意見であった。
これまでに起こった門の開門や科学では説明できないステータスウィンドウ等から、その意見は信憑性をもち、日本はダンジョン攻略の続行を決めた。
そうすると、次に話し合われるのはどうやってダンジョンを攻略していくかである。
そこで話題に上がったのはダンジョンから生還した2人の自衛隊員であった。
1人は今だに意識不明であるが、部隊長を務めた自衛隊員からの調書は取り終わっており、それを参考に会議は開かれた。
そこで注目された話題が2点。
モンスターに対抗できたのは予めスキルに当選していた副隊長のみであった事。
そして帰還した部隊長が《魔力(物攻)》というスキルを取得していた事であった。
その事からダンジョン攻略にはスキルの取得が前提になっている事。
そして、後天的にダンジョンでのスキルの取得が可能だという事が予測された。
その予測を前提にして、特例隊員としてスキル当選者を召集し、自衛隊員と一緒にダンジョンへ向かわせてスキルの取得を試みる事や、いっその事、ゲームや漫画のように一般人にダンジョンを解放してしまおうという意見がでた。
しかしこれには当然反対意見も出る。
ファーストダンジョンアタックの世界的な失敗という現実に、その様な危険な場所に一般人を向かわせて良いものかというものだ。
それに、スキルはランダムに未成年にも付与されている。
国民を危険に晒すのは問題があると言った否定派の意見であったが、それは少数派で、ではこのまま放置してより多くの国民、強いては人類の絶滅の方がいいのか。といった意見に押し潰されてしまった。
今議論している与党の中でスキルの取得者はいない。
自分に危険がない事で賛成派が多くなっているのかもしれない。
未来達一般人が日常の生活に戻る中、その裏ではその様な話し合いがされているのであった。
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