第30話 開門

 本日は、ダンジョンが現れた日から3ヶ月。

 門に書かれた開門の日である。


 昨日の正午より各個人のステータスウィンドウでは24時間のカウントダウンが表示されている。

 日本は結局、一般人のダンジョンへの入場を認めない方針を取った。

ダンジョンが開門したら何が起こるかわからないからと、今日は報道機関以外はどの会社も自宅待機を国から命じられていた。


 日本に現れた門の場所は5箇所。


函館北海道千代田区東京伊勢三重奈良奈良那覇沖縄である。


 この日に合わせて各門に自衛隊が派遣されており、開門と同時に突入の様子を許可が降りたテレビ局が生中継している。


 その様子を未来は家で家族と少し早いお昼ご飯を食べながらテレビで見ていた。


 街の噂でチラホラスキルが当たった人の話を聞くが、未来の家族は当選しなかった。


 未来の知り合いだと妃子が《魔力(回復)》というスキルに当選しており、

当選が発表された日は電話がかかってきた。


 それ以外では連絡先を知っている悠里と虹花からは当たらなかったと聞いたが、他は学校に行っていないのでよく分からない。

 父親や母親、弟の海智の知り合いも数人当選したと言っていたので日本人もそれなりに当選者は居るのであろう。


 そうこうしているうちにテレビでは開門の時間になったようで、ゆっくりとダンジョンの門が開いていく映像が映し出されている。


 アナウンサーが状況を説明しながら、門が開ききったと同時に待機していた自衛隊がダンジョンへ突入していく様子が映されている。


 しかし、その後はスタジオの映像に切り替わり、昼のワイドショーとして先程の開門の映像や自衛隊の突入の映像がワイプでリピートして流されるだけで、スタジオの人間による考察や討論の放送になる。


 ダンジョンの中の放送はされないので自衛隊の行動も何も一般には伝わってこないのであった。




 ダンジョンへ侵入した自衛隊の部隊は訓練で優秀な成績を残した厳選された隊員で構成されている。

 人数は小隊より少し少ないが20人の部隊であった。


 ダンジョンの中はレンガ造りの整備された空間で、自衛隊上層部の予想通りに迷路のような構造になっている。

 ステータスウィンドウのランキング表示で槍があった事から予想されていたように、天井は高く、通路であっても余裕を持って槍を振り回せる広さがあった。

 指揮が取れていれば20人でも問題なく行動できる広さがある。


 部隊長の指示に従い前後に注意を払いながら隊列を組んでゆっくりと進んでいると、前方の通路の奥から一体のモンスターが姿を表した。


 身長の高い人型のモンスターで、未来がホブボブリンと呼んでいるモンスターである。


「撃ち方構え、撃て!」


 ステータスウィンドウのランキング表示での表示は無かったが、1人の自衛隊員の提案により銃火器での攻撃が試される。


 進行方向の担当をしていた自衛隊員7名が訓練された通りに銃を構えて引き金を引いた。


 乾いた音がダンジョン内に響いて、ホブゴブリンを蜂の巣にしていく。


 そして、一方的に銃撃を受けたホブゴブリンが倒れたのを確認して、部隊長が指示を出して銃撃が終わった。


 その後、1人の自衛隊員がホブゴブリンの死体を確認しに行って報告を上げる。


「モンスター、死亡しています!」


 その報告に、自衛隊員達は喜びの声を上げた。

 近代兵器が通用するなら自衛隊は有利に戦う事ができる。


「気を抜くなよ!」


 部隊長が喝を入れるがその様子も少しほっとしており、先程までより少し空気が柔らかくなった。


 そして、モンスターを倒した事で自衛隊員達の体に変化が起こった。

 全員の体がぼんやりと光ったのである。


「なんだこれは?」


「確認します!」


 調べた結果はすぐに分かり、自衛隊員達のステータスに表示されているレベルが上昇していた。


「なるほど。本当にゲームのようだな」


「はい。スキルもそうでしたしこのレベルアップにて我々の能力が上がっているものと予想できます」


「うむ。では、先に進もうか」


 確認を終えたので、自衛隊員達はまたダンジョンの奥へと進み始める。


 自衛隊員達のレベルは全員が1から5に上がっており、ステータスがアップしている為か先程よりも進軍ペースが早くなっていた。


「前方、モンスターです!」


 自衛隊員の1人が声を上げた。

 未来がダンジョン探索をしている時と同じように、一定時間が立つとモンスターが現れるのである。


「次のモンスター、数複数……20です!」


 今回現れたモンスターは未来が探索している時には起こらなかった複数体での出現が起こった。


 先程のホブゴブリンの他に青い体のゴブリンとホブゴブリンが混ざっている。

 後ろの方には、赤い体も見えていた。


 しかし、モンスターを見るのが2回目の自衛隊員達は、モンスターの色の違いで能力が変わる事など知る由もない。


銃火器が通用すると分かった今、剣や棍棒などの武器しか持たないモンスターに対して、再び遠距離からの一方的な攻撃を行う。

数が増えても、弾幕の前には問題がないという考えであった。


「前方構え、撃て!」


 先程と同じように指示に合わせて引き金が引かれて銃が火を噴いた。


 無数の弾幕に何体かのモンスターが倒れたが、その後は先程と様子が違った。


「ケケケ!」


 青いゴブリンが銃弾を体に受けながらも走って来て、銃を撃っていた隊員の首を切り飛ばした。


 その後も他の青いゴブリンやホブゴブリンが銃など気にせずに向かって来て前方で銃を撃っていた隊員達を蹂躙した。


「な! 剣に持ち替え! 一時撤退する!」


 部隊長が大声で指示を叫ぶが、動き出したモンスター達の方が機敏であった。


 剣に持ち替えて応戦するも、モンスターの青い身体に傷一つつける事ができない。


 自衛隊員達が次々にやられていく中、部隊長の側にいた副隊長に振り下ろされたゴブリンの剣が副隊長の腕によって阻まれた。


「ひぃ!」


 副隊長は剣が当たった事に悲鳴をあげるが、痛みは無く、攻撃が通る事はなかった。


「な、よ、よく分かりませんが、私が守ります! 隊長、撤退を!」


「分かった。この情報を本部に届けなくてはならん。誰か1人でもダンジョンを脱出するのだ!」


 部隊長の撤退の指示に既に半数がモンスターにやられていたが、生き延びた自衛隊員達は無我夢中で撤退を試みる。


 しかし1人、また1人とモンスターにやられていってしまう。


 ただ1人、副隊長だけがモンスターの攻撃を受け止めて防ぐことができ、部隊長を守りながら上手く撤退ができていた。


「もう少しです、隊長!」


「君も急げ!」


 出口が見え、あと少し。階段を登れば脱出という場所で、副隊長はこれまでと同じようにモンスターの攻撃を腕で弾き返すように受け止めようとした。


 しかし、今回はこれまでと違って副隊長の腕は切り飛ばされて飛んでいってしまった。


「アぁぁぁあ!」


 副隊長の声にならない叫び声がダンジョンに響いた。

 これまで青い体のモンスターの攻撃を生身で受け止められていたのはこの副隊長が未来と同じ《魔力(物防)》のスキルに当選していたからであった。

 そして、今回攻撃してきたモンスターの体は赤色。

 自衛隊員達の知るところではないが、《魔力(物攻)》を持ったモンスターである。


「畜生が!」


 部隊長は副隊長がやられたのを見て、無駄だと分かっていながらも反射的に自身の持っていた剣をモンスターに突き出した。


 その剣は、副隊長にトドメを刺そうと飛びかかっていたモンスターの赤い体に突き刺さり、副隊長に攻撃が届く前に絶命させた。


「死ぬな! もう少しだ!」


 部隊長は腕からの出血多量で意識が朦朧とする副隊長を引きずるようにして階段を登ってダンジョンの外へ出た。


「救護班! 怪我人だ! 救護班ー!」


 部隊長がダンジョンの外に待機していた人員に助けを求め叫んだ。


 救護班が駆けつけ、副隊長が処置を受けるのを見てから、部隊長はダンジョンを振り返った。


 最後の階段を境界線にして、モンスター達は外に出て来る事はなかった。


「畜生が!」


 あそこで止まらず、脱出していれば副隊長は腕を失う事はなかった。そう考えて、部隊長は地面を叩いた。


 その後、副隊長は一命を取り留めるが意識不明の重体である。


 この日、全世界でダンジョンへ入った各国の軍は全滅。


 生還したのは日本の自衛隊員2人のみであった。


 そして、意識不明の副隊長が《スキル》の当選者であった事は部隊長が把握しており、ダンジョンにおいてのスキルの重要性が発覚する事となった。

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