第20話 妃子の家

 お昼休みに、未来は妃子に押し切られるようにしてその日の放課後に妃子の家に行く事になり、今まさに妃子の家へ向かっている所である。


 人生の中で女性の家へ行く事は初めてであるが、その足取りは重い。


 家へお邪魔する事も理由の一つではあるが、未来は先程までの事を振り返ってため息が出そうになるのを隣にいる妃子に悟られないように堪えた。


 授業が終わると、未来は昼休みに約束した通り、妃子の家にお邪魔する為に校門で妃子と待ち合わせをして合流した。


 教室まで迎えに来られるのを考えての事であったが、時間は下校時間であり、校門には他にも下校する生徒は多い。


 部活のある生徒達は部室やグランド、体育館などそれぞれの場所に行っているにしても、目立つ妃子と一緒に下校する未来は注目を集めた。


 その時になって失敗した事を未来は悟ったのだが、後の祭りである。


 校門前ではなく、以前妃子を助けた(と未来は思っている)時に別れたコンビニなど学校の生徒のいない場所で落ち合えば良かったと、目立った事で明日から起こりそうな問題を想像して未来は頭を抱えた。


「ねえ、聞いてる?」


 未来は色々と考えていたせいで、隣で自分に話しかける妃子の話が耳に入っていなかった。


「あ、すいません」


「そんなに気負わなくてもいいわよ。パパは過保護なだけで怖くなんかないから」


 妃子はそんな未来の反応を緊張していると思ったようで、緊張を解そうとしてくれたのだろうが、未来は明日の事もそうだが、今から先輩の父親に会うという事実を思い出して更に気が重くなってしまった。


「そうは言っても、なんで僕が妃子先輩のお父さんに会いたいなんて言われるんですか?」


「それは未来が私をお姫様抱っこした事をパパに話したからだと思う」


「な……」


 なんて余計な事を。と未来は思った。話すにしても伝え方というものがあるだろう。

 妃子を助けた。ではなくお姫様抱っこの部分を強調して話したのだろうか?

 助けた話であれば、お礼という可能性もおおいにあるが、お姫様抱っこの話だと父親の受け取り方次第では……

 色々と考えて、未来は胃のあたりがキュッとなるのを感じた。


「未来、着いたよ!」


 未来のその様子を、妃子は悪戯な笑顔で見ながら家に到着した事を伝えた。


「え、ここですか……?」


 未来は、妃子の言葉を聞いて、その場所を確認して言葉を失った。

 先程まで歩いてきた道の壁はこの家の敷地を隔てる塀で、入り口の開いた門の向こうには西洋風の大きな豪邸がみえる。


「そうよ。それじゃ、行きましょ!」


 門の向こうへと向かう妃子の後ろを未来はついて敷地に入っていく。


「お嬢、お帰りなさい」


「ただいま。今日は未来を連れて来たの、パパは今部屋?」


「それではリビングにお呼びしましょう。お嬢はリビングでお待ちください。未来さんも一緒に——」


 妃子が話しかけた人物に未来は驚いていつでも反撃できるように構えていた。

 その人物は以前の暴漢のリーダーであったからである。


「ああ! お前はあの時の! 何しに来やがった!」


 暴漢のリーダーに話しかけられてどうしたらいいかと妃子に不安な視線を送っていると、庭の奥からこれまたあの時のチンピラAが肩を怒らせてこちらに向かって歩いてきた。


 チンピラAの発言は未来の事を覚えているようである。


「やめなさい。未来さんはお客様です」


 暴漢のリーダーが水やりの為に持っていたホースでチンピラAに水をかけた。


「うひゃ!」


顔に水をかけられたチンピラAは目を瞑って動きを止めた。


「未来さん、失礼しました。お嬢と一緒に屋敷へお上がりください」


 腰を折って頭を下げる暴漢のリーダーに、未来が戸惑っていると、妃子が未来の手を引いて「行くわよ」と声をかけて屋敷に向かう。


 屋敷までの道中、悪戯が成功したとばかりに妃子は暴漢達の正体とあの時の事情を説明するのだが、それを聞いて、未来はこれからの事が更に不安になるのであった。

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