第11話 変化

 未来が放課後にダンジョンへ通い始めて数日、ダンジョンの中で初日とはまた違った変化が起こった。


 初日の変化はダンジョンの内装の変化であったが、今回はモンスター《ゴブリン》に起こった変化である。


 これまでも、持っている武器が変わっていたり着ている服装に変化があったりと軽微な変化はあったが、今回は明らかに違う変化が起こったのである。


 これまでのゴブリンが140センチ位の子供の体型だったのに比べて、今未来の目の前に居るゴブリンは170センチ位の大人といえる身長、体にまとうのは初めの頃のゴブリンのようなぼろ布だが、そこから出ている体は筋肉質であった。


 戦ってみないとわからないが、見た目では明らかに強くなっていそうである。


 これまでのモンスターをゴブリンと呼んでいたので、この大人のゴブリンはホブゴブリンと言った所だろうか。


 未来は、これまでの経験から、先手必勝とばかりにホブゴブリンに向かって駆け出した。


 これまでのゴブリンと同じように、未来の攻撃の間合いに入るかと思ったその時、ホブゴブリンの持っている剣が、未来の顔目掛けて横薙に振るわれていた。


 間一髪、それに気づいた未来は両手の剣でホブゴブリンの剣を受け止め、急制動をかけて剣線から顔をどかす為勢いよく飛び退いた。


 思い切り飛んだ為、着地の時に踏ん張りが効かずに後ろへ数歩タタラを踏んでしまう。


 未来のその様子に、ホブゴブリンは言葉がなくとも分かるように顔をいやらしくニヤつかせた。


 これまでのゴブリンは距離を詰めて一撃で倒せてしまう程に慣れた戦闘になっていたので、未来は当初の恐怖で殴り殺した時や、洞窟を彷徨った時の命の危機を犯しての攻防を忘れて調子に乗っていた。


 ホブゴブリンはゴブリンと体型が違う為に間合いが広く、筋肉がある為か攻撃スピードも速い。


 未来も人を抱えて屋根の上を移動でき、同級生のパンチを見切り、殴られてもダメージがない位には強くなっているのだが、筋肉などの体つきに変化がない為、自覚があまりない。


 とはいえ直感的に屋根の上まで飛べると考える思考力は付いているのだが、脳が自然とコントロールしているのか、ドアや机などを壊した事もないし、箸やスプーンなどを握り潰した事もない。

 先程の攻撃を受けてテンパっている事と、目の前の明らかに強そうなホブゴブリンの筋肉を見て気後れしてしまった。


 しかし、意地でも倒さなければ自分はここで人生を終えてしまうだろう。


 洞窟ダンジョンから抜け出して帰った日の家族の安心した顔、初日の少し帰りが遅くなった時に未来が帰って来たのを見てホッとした顔をした母親。


「負けられない」


 未来は先程の攻撃のスピードと間合いを思い出して必死に戦略を考えた。


「よし!」


 未来は息を止めてホブゴブリンに向けて一歩踏み出した。


 予想したホブゴブリンの間合いが合っているのか、注意深く観察しながらも未来は走って間合いを詰めて行く。


 どう動く。


 何パターンもの動きを想定した内に、ホブゴブリンの攻撃があった。

 というよりも、ホブゴブリンの動きはとても短調シンプルで、速さや間合い以外はゴブリンと一緒と言ってもいい。


 その動きは、これまでの考えなしのスイカ割りのような縦一文字と違って、相手を見てちゃんと戦った未来の敵ではなかった。


 今度は縦に振るわれたホブゴブリンの剣も、未来の片方の剣で受け止められる力である。


 先程は、驚いた事で必死に退避した。

 そのせいで無駄に2本の剣で受け止めて、力が入り過ぎた為にタタラを踏んでしまった。


 そのせいで、未来が勝手にホブゴブリンを強敵だと勘違いしまっただけであった。


 ただの脳筋で、落ち着いて戦えば未来の方が格上。


 未来は受け止めたのとは反対の自由な手に持った剣で、ホブゴブリンに攻撃をする。


 流石に一撃で死ぬようなことはなかったが、ホブゴブリンを翻弄するように何回も攻撃する事で結局終わってみれば無傷での勝利をおさめた。



 その後も時間が来るまでダンジョン探索を続けると、ゴブリンの時もあればホブゴブリンの時もあるというランダムでホブゴブリンが現れるようになった。


 時間になればすぐに帰れるようにゲートから離れておらず、ダンジョンの奥へ進んだわけではないのだが、たまたま現れたわけではなく、ホブゴブリンは常連になってしまった。


 戦闘に区切りがついた後、100均で買った時計を確認して、時間になったので未来は今日はもう帰る事にする。


 今日も数回体が光ったおかげで、大した疲労感もない。

 いつもの場所にホブゴブリンから手に入れた新しい剣を刺すと、未来はゲートを通って家へ帰るのであった。

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